「光へのアーキテクチャ」リリースまでの挫折、そして…
――約10ヶ月ぶりでミニアルバム「光へのアーキテクチャ」をリリースされましたが、この10ヶ月は戸渡陽太さんにとって、どんな期間でしたか?
戸渡陽太:前作はデジタル配信のシングルで、パッケージとしての作品ですと1年半から2年ぐらいになるので、結構ブランクが空いちゃったと思います。一言では言えないけど、ある種の挫折だったり止まってた期間でもありますし、作品を作っていた期間でもあります。
止まったりするって結構悪い印象があるじゃないですか。活動してんのかな?って思われていたりとか (笑)。ただ、今となってみれば、止まってる期間に色々考えられたし、何があってもぶれないものは自分の中で見つけられたと思うので、よかったかな。飛ぶためには屈伸しなきゃいけないですよね。そういった期間だったと思うんです。
――ひょっとして、全然音楽から離れて旅行に行かれたり、他のことをされたりした時期もあったんですか?
戸渡陽太:活動を止めるのは嫌だったので、めちゃくちゃ動くっていうか活発ではなかったけど、なんだかんだ動いていました。走れはしなかったけど、歩いてはいたっていう感じです。
光へ向かって行こうとする戸渡陽太のキーポイントとなるアルバム
――そうした貴重な期間を経て今回のアルバムのリリースになりましたが、戸渡陽太の音楽人生の中で、今回のアルバムの位置付けはどうお考えですか?
戸渡陽太:再スタートですね。そして、新しい世界に行こうというものです。前作のデビューアルバムで一つの結果を出せたと思っています。今回のタイトルにある「アーキテクチャ」というのは、建物とか構造とかいう意味なんですけど、前作を踏まえて進んで行こうとするこれからの自分の姿です。光へ向かって行こうとする自分自身のキーポイントとなるアルバムです。
――前作を聴いてくれた人にはこういう聴き方をしてほしいという点はありますか?
戸渡陽太:うーん、いや、自由にとらえていただいて(笑)。でも、変わったとも言われると思います。前作はどちらかというと、尊敬するミュージシャンやプロデューサーとかプレイヤーも迎えて制作して、色んな豪華な服着させてもらったなと思います。
今回は割と僕の姿が見えるっていうか、デニムにシャツみたいな感じで、自分のサウンドがより前に出ているんじゃないのかなと思って。今回プロデューサーの深沼(元昭)さんとも、僕の色が全面に出るほうがいいよねっていう話をしてできた作品なので、そういう風な違いを聴きいてもらえると、ちょっとうれしいかもしれないですね。
――今回の楽曲を全編通して聴かせていただいて、すごく内というか、心に対して歌われていると感じました。激しめの歌とかだと攻撃的や挑戦的な感じのワードが使われる曲もあるかと思うんですけど、そういうのは感じませんでした。その辺りは意識されているところでしょうか?
戸渡陽太:そうですね。本当に自問自答して作曲に落とし込むスタイルなので。特に1曲目とかは、その自問自答して作曲する自分をさらに俯瞰して曲にしたものですし。確かに、自分の心との対話の中で生まれた曲が多いですね。
リード曲「明星」に込めた思い
戸渡陽太 "明星” (Official Music Video)
――その1曲目のリード曲「明星」について、これはアルバムタイトル「光へのアーキテクチャ」の光にも掛っていると思うのですが、やはりこの曲が一番強いメッセージとして、次へ行くぞというところを書かれてるんですか?
戸渡陽太:止まっていた1年半の間に、本当に色んなことを考えて。自分がつまんないなって思ったんですよね、なんか(笑)。例えば10代の人って、最初の1歩ってすごく大きいじゃないですか。新しいことに挑戦する最初の1歩って2歩か3歩先ぐらいに感じますよね。
でも、いつの間にか歳を重ねるごとにちょっと臆病になっちゃったり。成長するのってクラッシュ&ビルド的なものだと思うんですが、その怖さよりもそこに向かうことがちょっと億劫になるっていうか。そういうのがなんかつまんないなと思ったんです。そういう壁を壊したかった。結構詰まったりすると、すぐ次にいこうとするんですけど、この曲はそうじゃなくて、しっかり向き合って、ここちょっと気に入らないなとかあると、いっぱいやり直ししたりして。今後の作曲活動の中で転機になる曲になったと感じています。
――そうなんですね。この楽曲の中で、ラップで「はまやらわ」っていうのがありますよね。これがすごい個人的にツボでした。他の曲でもすごい早く歌われているところがあったりしますが、いまのお話だとその辺りの歌詞についても揉まれて、それでもこの「はまやらわ」が残ったんだなというのがすごいですね。
戸渡陽太:"あかさたな、はまやらわ"の"はまやらわ"です(笑)。音的におもしろいなと思って入れました。そういうのは大切にしていて、結構適当に弾きながら歌って曲を作っていくというのもあるんですよ、歌詞を適当に羅列しながら。その羅列した拍子でふっと面白い言葉が出ると、それを活用したり。なんか意味はあるんじゃないのかなーと思って。
――なるほど、そうだったんですね。楽曲を作るときって、詞と曲とどっちが先とかはありますか?歌いながらこんな感じ、みたいな……?
戸渡陽太:そういうのもありますし、アウトプットを固定させたくなくて、詞から書くパターンもあります。ギターでコードを作って、きれいなコード進行だなと思うと、その上で作っていくときもあるし、様々ですね。
――プロフィールを拝見したところ、曲を作りたくてギターを始めたとありました。演奏面でこだわったことなどあれば教えてください。
戸渡陽太:「明星」とか、むずかしいなーって。自分で弾きながら、なんでこんなにむずかしい曲作ったんだろうって思ってます。ひとりで各所回ることが増えるかなと思って、ひとりでも目立つというか、みんなにひっかかってもらうような、フックがあるような曲にするとかはすごく意識しました。
聴いてもらっている間に時間を忘れさせられることができたら嬉しい
――今回のアルバムでは、普通にノっていける曲やと色々バラエティに富んでますよね。最初から聴いていて楽しめるように、曲順とかは意識されましたか?
戸渡陽太:どうやったら飽きずに聴いてもらえるかなとか。音楽って、ある種時間の作品だと思うんですよ、時間の芸術というか。なので、作品を聴いてもらっている間に時間を忘れさせられることができたら嬉しい限りです。
たとえば通勤時間が30分くらいあるとして、いつも苦痛の満員電車の30分が、この曲聴いてる間はあっという間に感じちゃうとか、そうなるとすごく嬉しいかな。
――今回、心と向かい合っている楽曲が多いんですけど、その中で「灰色のユートピア」は、社会に対して攻めている楽曲ですね。たぶんあの出来事のことを曲にされていると思うのですが…
戸渡陽太:日本にいると、国内の出来事がすごくフォーカスされがちですけど、実は日本だけじゃなくて世界でも、そういったシステムが風邪ひいていると思うんですよね。風邪をひいているのに見て見ぬふりして、桃源郷だ!みたいな感じでやっているのってどうなんだろうなとか思ったり。はたまた、そういうのには無関心な人もいるわけで、そういう風潮に風穴空けられたらなと思いながら書いた曲でもあります。