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差別ネタから発展したビートルズ『ゲット・バック』

伝説のロックバンド、ザ・ビートルズが残したシングル『ゲット・バック』。この曲を発表した1969年頃にはグループ内の対立が顕著化していました。『ゲット・バック』の歌詞に、そうした対立の反映をみる解釈もあります。しかし歌詞を実際に眺めてみると、なんとも理解しがたい内容であることがわかるでしょう。 そもそもこの曲は当初別のタイトルと歌詞が用意されていました。今回は現在知られているレコードバージョンと初期バージョンの歌詞を比較することで、『ゲット・バック』についての考察を深めていきたいと思います。

2018年6月4日


この記事の目次
  1. ・『ゲット・バック』初期バージョンはパキスタン人排斥の歌
  2. ・メンバーの対立から生まれた歌詞
  3. ・パキスタン人はスクランブルエッグと同じ

『ゲット・バック』のレコードバージョンの歌詞



「Jo-Jo was a man
 Who thought he was a loner
 But he knew it wouldn't last
 Jo-Jo left his home in Tucson, Arizona
 for some California Grass

 Get back, get back
 Get back to where you once belonged」


(日本語訳)
「ジョジョは自分を一匹狼だと
 思っていたけど
 そうはいっていられなくなると分かっていた
 ジョジョはカリフォルニアの葉っぱを目指して
 故郷のアリゾナ州ツーソンを離れることにした

 帰っちまえ 帰っちまえ
 元いたところへ帰っちまえ」



ジョジョという主人公の他に、次の歌詞ではロレッタ・マーティンなる人物が登場します。その箇所の概要は以下。
『いとしのロレッタ・マーティンは可愛いけれど、彼女ホントは男なんだぜ!元いたところへ帰っちまえ!』
さて、こんなでたらめな歌詞にどういった解釈ができるというのでしょうか。この歌詞を書いたのはメンバーのポール・マッカートニーですが、同じくメンバーのジョン・レノンとの対立から生まれた内容だとする解釈を少し紹介しましょう。


メンバーの対立から生まれた歌詞

いわく「ジョジョ」はジョンのことで、「カリフォルニアの葉っぱ」とは大麻のこと、つまりクスリばっかりやっているジョン・レノンにあてつけた内容であると言うのです。そして「帰っちまえ」と言われる対象はジョンの妻、オノ・ヨーコだとも言います。当時ヨーコはジョンのそばを片時も離れず、レコーディング現場にまでついてきて、しまいにはビートルズに対して意見を口にするほどで、ジョン以外のメンバーにとっては目障りな存在とみなされていました。

とはいえ、ジョンはアリゾナ州ツーソンに縁もゆかりもありませんし(その後ポールはこの地に別荘を建てたらしいですが)、ヨーコは男でもありません。こうしたナンセンスな歌詞は、松鶴家千とせの漫談のようにナンセンスなまま楽しむべきだと個人的には思いますがいかがでしょうか。


『ゲット・バック』初期バージョンはパキスタン人排斥の歌

さてここで初期バージョンの歌詞をみてみましょう。
そのバージョンは非公式な録音盤によって残されており、タイトルは"(Don't Dig) No Pakistanis"というものです。このタイトルを名付けたのはビートルズであるのか海賊版業者であるのかは定かではありませんが、その歌詞の内容はまさに『パキスタン人はこりごりだ』といったものでした。出だしにはプエルトルコ人が登場します。プエルトリコ人は職を求めて他国へ移住しているものが多く、米国では移民の代名詞とでもいうべき存在です。

「Ronan Relimun, was a Puerto Rican, working in another world.」
(ロナン・レリムはプエルトリコ人、別の国で働いている)


また60年代当時において英国で外国人移民者といえば、パキスタン人が代表的です。二番の歌詞にそのパキスタン人が登場します。

「Pretty Ado Lamb, was a pakistani, living in another world.」
(かわいいアド・ラムはパキスタン人、別の国で働いている)
「Want it thrown around, don’t dig no pakistanis, taking all the people jobs.」
(その辺に捨てちまいたいほどパキスタン人で溢れてる、やつらがみんなの仕事をうばっちまう)


そして「元いたところへ帰っちまえ」という、レコードバージョンと同様のサビにつながります。
当時、印パ戦争などの影響で英国内ではパキスタン人の流入が社会問題になっていました。この曲の歌詞はそうした世相を反映したものだと言われています。


パキスタン人はスクランブルエッグと同じ

とはいえ、ポールがことさらパキスタン人移民問題をテーマとして、真剣に取り組んできたとはどうしても思えません。その理由はふたつあります。

ひとつはビートルズがニュースなどでたまたま目にしたトピックを、単に歌詞のネタとしてよく利用していたこと。例えば『シーズ・リヴィング・ホーム』や『ア・デイ・イン・ライフ』がそれにあたります。


これらの曲はどれも新聞記事から着想を得ていますが、事件そのものを訴える、いわゆるトピカルソングではありません。少なくともビートルズ時代に限っていえば、彼らはトピカルソングととらえられる曲を書くことには慎重で、実際にこの『ゲット・バック』の初期バージョンもスタッフの示した難色によって書き換えています。
もしポールがこの問題にこだわっていたのならそのテーマを押し通すか、あるいはレコードバージョンにもその痕跡がみられるはずですが、サビ以外まったく違った歌詞に仕上がっています。

ふたつ目の理由は、歌詞の言うことに大した意味がみられないこと。言ってしまえば「パキスタン人は帰れ」ということをそのまま歌っているだけです。

ここから推測されるのは、この"(Don't Dig) No Pakistanis"の歌詞の内容は、単なる仮歌程度の意味しか持たないのではないか、ということです。例えば『イエスタデイ』が製作初期において、

「Scrambled Eggs,oh my baby how I love your legs?」
(スクランブルエッグ、ベイビーなんてすてきなレッグ(足)なんだろう)


といった歌詞だったように、単にメロディに合う語呂の良い言葉を当てはめているに過ぎないように思います。

そう考えれば、書き改められたレコードバージョンの『ゲット・バック』の歌詞にみえるナンセンスさは、こうした初期バージョンのでたらめさを痕跡として色濃く残しています。帰っちまえと罵られる対象はなんでもよかったのだとしたら、『ゲット・バック』は当時のビートルズの荒んだ心情を反映していると言えるのかもしれません。


TEXT:quenjiro

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