その音楽に触れるとスガシカオは、そこらにいるミュージシャンとは一線を画すと理解できるはずだ。テレビなどで見かけるとひょうきん者でトークも面白い。明るい人というイメージを持ってしまうが、奥底に眠る繊細さは計り知れないはずだ。誰もが気づかないような感覚を持っているからこそ、スガシカオにしかできない曲ができるのだ。
スガシカオ「アシンメトリ―」
彼の名曲は数知れないが、今回は彼の大ヒットシングル「アシンメトリー」を紹介し唯一無二の世界を覗いてみよう。「涙の色はきっと
にぶいぼくには見えやしないから
自分が思ってるよりも
君は強い人間じゃないし
抱きしめるぼくにしたって
君と何もかわりなんてしない」
曲の構成がとても面白い。冒頭でサビのメロディを二小節分歌い、何事もなかったかのようにスムーズに曲へと入っていく。一度聞けば頭から離れないサビのメロディの性質を見事に生かしている。
ファンク調の同曲は決して音数が多いと言えないが、その心地よさは抜群だ。無駄な音は一つもなくボーカルの声が一直線にリスナーへと届く。こういったところに計算され尽くしたスガシカオの稀有なセンスがうかがえる。
非対称だからこそ意味を持つ歌詞
「半分に割った赤いリンゴのイビツな方をぼくがもらうよ
二人はそれでたいがいうまくいく」
同曲は決して難しい詩ではないが、「半分に割ったリンゴのイビツな方をぼくがもらうよ」という部分には驚かされる。リンゴを半分に割ったのだから、片方がイビツだともう片方もイビツになってしまうという事実に気づいただろうか。
非対称を意味する「アシンメトリー」というタイトルをつけたのも、非対称だからこそ意味を持つとスガシカオが考えているからなのかもしれない。対称はどちらにも差異がない。それは、誰にも気づかれず存在の意義を失ってしまう可能性もある。同曲の歌詞にあるようにイビツだからこそ、対称ではないからこそ「たいがいうまくいく」のだろう。
スガシカオにしか出せない世界観
「きっとぼくらの明日なんてヤミでも光でもなく
そこにぼくと君がいるだけで
いつでも心の色なんて
にじんでぼやけてしまうから
そう…だから何度も
ぼくは言葉で確かめる」
スガシカオの詩の世界は綺麗だとは言えず、少し薄情で鬱屈としている。しかし、彼の独特な声によって響きわたれば、その詩は魅惑的な優美さを備える。それは紛れもなく彼の個性であり、リスナーは不確実で怪しげなスガシカオの世界へと羽ばたける。
やはり、スガシカオの音楽を創れるのはスガシカオしかいない。音楽は比較するものではないが、彼が頭ひとつ飛び抜けていることは言うまでもない。スガシカオだけが持つ世界観からはいつまで経っても抜け出せそうもない。
TEXT:笹谷創(http://sasaworks1990.hatenablog.com/)