小説と同時に楽曲も配信。小説の第一章と第一弾楽曲『最後の夜と流星』はすでに配信中。興味のある方は、「ハイブリッド型総合書店・honto」にアクセスしていただきたい。そして第二章とリンクした第二弾楽曲『栞 feat.仲宗根泉(HY)』が、10月23日より配信リリースになった。美しくも切なさを抱いたこの楽曲は、HYの仲宗根泉とデュエット。この楽曲が生まれた背景を、河邉徹に語ってもらった。
小説の場合、文字数の制限がないぶん無理に引き算をしない
――『流星コーリング』、映画にしたくなるような小説ですよね。河邉:ありがとうございます。そうなればいいですね。今回の『流星コーリング』を書く経緯について先に説明をしますと、僕は今年5月に小説『夢工場ラムレス』を発表し、作家としても活動を始めました。それをきっかけに、「バンドのメンバーに小説を書ける人がいるのなら、そのメンバーの書いた小説を元に音楽を作ったら、他のバンドにはない個性となって、お客さんにも新しい景色を一緒に見せられるんじゃないか?」という話が生まれ、そこから新しい試みとして今回の『流星コーリング』という小説を書き始めました。
――ということは、音楽との連動も最初から考慮したうえで小説も書き始めたわけだ。
河邉:そうです。ただ、小説を書いているときは、そこまで楽曲のことを意識していたわけではなかったです。
――もともと音楽活動とは別の意識で小説を書き始めたのでしょうか?
河邉:そうです。誰かに「小説を書いてみれば」と言われたわけではなく、僕の趣味の一つとして楽しく小説を書いていました。その出来上がった小説をマネージャーに読んでもらったら、「面白い」と。そしてその小説を出版社の方へ持っていき、読んでいただいたら「面白い、これを出版しよう」という流れになりましたが。ですが、小説と音楽を繋げた活動をしようという意識は、最初はまったくありませんでした。
――作詞と小説を書くでは、アプローチにも大きな違いが出てきますよね。
河邉:全然違います。だからこそ、その違いが楽しくって。WEAVERの楽曲はすべてメロディ先行型。そのメロディが与えてくれる景色や世界観、言葉を元に、それを僕が歌詞へ落とし込んでゆく形で書いています。メロディに助けられながら歌詞を書いていますが、当然文字数は制限されているので、言葉の表現や選び方はすごく慎重にならなきゃいけない。それこそ歌詞の場合、書きたいことが10あったら、それを洗練して洗練してという作業を重ね、その想いを1に落とし込み形にしてゆく。
つまり、伝えたい想いを引き算しながら集約していくのが僕の歌詞の書き方なんです。でも小説の場合、文字数の制限がないぶん、「これも書けるんだ」「あっ、これも書いていいんだ」と無理に引き算をすることなく書ける。そのやり方が自分の中では新しくてすごく楽しくて。それで、夢中になって小説を書いていきました。
『流星コーリング』はとくにトリッキーな構成
――『流星コーリング』を読んでても実感したことですが、物語を読み進めていく中、「まさかこう展開するの?」「あのときの話は、ここに繋がってたんだ」など、いろんな伏線を張っていれば、それがどんどん一つの線として繋がっていきますよね。それが見えてくるほどに、物語の中へグイグイ引き込まれてゆく自分がいました。河邉 :『流星コーリング』はとくにトリッキーな構成をしていますからね。現在進行形の話を軸にしながら、過去の話を間に織りまぜ現在の物語へ繋げたり。過去の話にも、春夏秋冬と四季の表情を織りまぜたり。小説を書いている時点では、具体的な楽曲制作はしていませんでしたが、「季節感や回想録を物語の中へ組み込んだほうが、音楽へ落とし込むうえで面白さが出るんじゃないか」という意識もありました。小説を書き進めながらも、「どう音楽にしていこうか」という意識が頭の片隅にあったからこそ、独特な構成になった面もあったなと思います。
――具体的な楽曲制作は、小説を書き終えてからだったのでしょうか?
河邉:そうです。第一弾となった『最後の夜と流星』も第二弾となる『栞 feat.仲宗根泉(HY)』(以下、『栞』)も、メンバーが小説を読んだうえで書いてくれた曲たちです。2人は高校時代の同級生のように付き合いも長ければ、僕の心情もわかっている。だからこそ、楽曲に関しても「ここではこういうのが欲しかった」というところをしっかり突いてくれました。ユニークなのは、原作者が楽曲の歌詞も手がけていることですね。
――確かに。映画、ドラマ、アニメでも何でもそうですが、原作者以外の人がその作品を捉えて客観的に楽曲を書くことがタイアップとしては当たり前なスタイルの中、小説を書いた本人が物語に寄り添う楽曲の作詞も担当しているわけですからね。
河邉:タイアップの話をいただいた場合、その作品へ寄り添いながらも、かならずその中で自分たちの色を提示し、作品のファンも自分たちも納得できる楽曲作りを目指すことが多いです。
でも今回は、原作者が僕になる。だからこそ、何を書いても嘘にはならないと思いました。ただ、どう客観性を持たせるかのさじ加減が難しいところでした。なので、いつも以上に作詞に時間はかかりました。それでも自分なりに物語の世界観を深めながら描くのは面白かったですね。
――とくに、第一弾となった『最後の夜と流星』は小説を発表した序盤に提示することもあり、何処まで物語の世界観を匂わせるのか難しくなかったですか?
河邉:正直、難しかったです。当たり前ですが、僕は物語の結論まで知っているわけじゃないですか。僕個人としては全部の世界観を伝えたいけれど、これからも小説は続いていくので最後まで見せるわけにはいかない。そこで最初に絞り出したキーワードが、サビの頭の歌詞である『最後の夜と流星』でした。
この記事を目にする頃は、ちょうど第二弾配信シングル『栞』が出た頃になるのかな。その後も第三弾、第四弾と続いていきますが、きっと全部を読み終えたうえで、改めて『最後の夜と流星』や『栞』、これから制作する第三弾や第四弾の楽曲を聞くと、「あっ、あの歌にはこういう意味や想いが含まれていたんだね」というのを発見してもらえるんじゃないかなと思います。