ジブリ曲として知られた彼女
ひと昔前から「恋愛の教祖」として崇められてきた彼女だが、平成生まれ以降の若い人には、「ジブリの曲」としての認知度が高いようだ。
1989年に公開されたジブリ映画、「魔女の宅急便」では、オープニングに『ルージュの伝言』、エンディングに『やさしさに包まれたなら』が起用され、映画のシンボルマークとなっている。
主人公のキキが親元を離れて旅立ったあと、ホウキで空を飛びながらラジオのボタンを押すと流れてくるのがこの歌詞である。
ルージュの伝言
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あのひとの
ママに会うために
今、ひとり
列車に乗ったの
たそがれせまる街並や
車の流れ
横目で追い越して
≪ルージュの伝言 歌詞より抜粋≫
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恋人の浮気が発覚し、母親に会いに行く女性。ウキウキするようなリズムに乗せて、キキがこれから向かうような、都会的な街に暮らす大人の女性の雰囲気が連想される。
この曲の歌詞、主人公のキキの、こちらが少し照れくさくなるくらいの清純さとは一線を画しており、ともすれば映画に合わないのではないかとも思うのだが、実際、ユーミンはこの映画に合わせて曲を書いていない。
ジブリ側から主題歌の依頼をされたものの、頼まれてから一年間も曲を作らず、しびれを切らしたジブリ側がユーミンの曲のなかから選曲したのだそうだ。
その選曲が功を奏し、映画にぴったりとはまる主題歌が生まれたのだ。
リアルに想像するとおぞましく怖い歌詞
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あのひとは
もう気づくころよ
バスルームに
ルージュの伝言
浮気な恋をはやく
あきらめないかぎり
家には帰らない
≪ルージュの伝言 歌詞より抜粋≫
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有名なこの部分の歌詞、リアルに想像すると怖くないだろうか。バスルームの鏡に、口紅で書かれた伝言。「しばらく留守にします。」とか書かれていたんだろうか。
でもそれだとなんだか置手紙みたいだし、シンプルに、「浮気者!」とでも書かれていたのかもしれない。それを発見した男性の気持ちたるや。
これぞユーミンマジック
この部分の怖さを皮肉っているのが、シンガーソングライター吉澤嘉代子の『化粧落とし』という楽曲である。
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いつもかけていたユーミン洒落て
車にルージュの伝言残したら 警察沙汰
≪化粧落とし 歌詞より抜粋≫
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口紅で書かれたルージュの伝言。それを発見した男性はさぞ怖かったのだろう、警察を呼んでしまった。
車の窓に書いている点、ルージュの伝言がどういったものかわからない点が本家とは異なるが、『ルージュの伝言』は、そのオシャレな言葉の響きに反して、実体は女性の怨念がつまったおそろしいメッセージなのである。
そんなおそろしい浮気の仕返しが、ユーミンの手にかかれば、揺れる乙女心を描いた都会的でおしゃれな曲に昇華されてしまっているのだから、さすがとしか言いようがない。
TEXT 毛布