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【歌詞コラム】思い出すためのリセットボタン―『夜空ノムコウ』の歌詞を読み解く

平成が終わる。史上もっともCDが売れた時代として記憶される30年を彩った名曲を時代背景とともにふり返る。第1回は1998年(平成10年)にSMAPが歌い大ヒットした『夜空ノムコウ』の歌詞を読み解くことでそこに隠された秘密を探ってみたい。

公開日:2019年2月6日 更新日:2019年2月20日


この記事の目次
  1. ・SMAP27枚目のシングル『夜空ノムコウ』
  2. ・スガシカオとSMAPの「平成」
  3. ・『夜空ノムコウ』の時代背景
  4. ・過去から現在、未来へという視点
  5. ・ふり返るためのリセットボタン

SMAP27枚目のシングル『夜空ノムコウ』



あれからぼくたちは何かを信じてこれたかなぁ・・・
夜空のむこうには 明日がもう待っている


SMAP結成10年目にして27枚目のシングル『夜空ノムコウ』。作詞はスガシカオ、作曲は川村結花。

前年にデビューしたスガシカオにとって2曲目の楽曲提供であった。

ため息が聞こえてきそうな「何かを信じてこれたかなぁ」というサビ。

それが過去を想起させる「あれから」というフレーズに続く。

誰からも親しまれる国民的アイドルというSMAPのイメージとのギャップに新鮮な驚きを覚えつつ、またたく間にミリオンヒットへの階段を駆け上がっていった。

スガシカオとSMAPの「平成」

誰かの声に気づき ぼくらは身をひそめた
公園のフェンス越しに夜の風が吹いた


スガシカオによると『夜空ノムコウ』は、浪人時代につきあっていた彼女との思い出がもとになっているという。

「ぼくら」というのはスガシカオと彼女のことだろう。

1966年生まれのスガシカオにとって20歳前後といえばちょうど平成になるタイミングと重なる。

世の中は好景気に浮かれているが数年後にはバブル崩壊が待ち受けている時期。

すぐ先にある嵐の予感が「公園のフェンス越し」という物理的な距離と「夜の風」によって暗示される。

浪人生だったスガシカオにとっては先の見えない不安と向き合う日々。

目の前にいる相手との関係もまたその例外ではなかったに違いない。

一方、光GENJIのバックで踊っていたメンバーによってSMAPが結成されたのは1988年。

アイドルブームが下降気味になりコンサートにお客さんも集まらないなか、地道な活動とチャレンジが実を結んでドラマもバラエティーもこなせる国民的アイドルとしてのポジションを確立しつつあった。

歌でも林田健司や山崎まさよしなど新しい世代のミュージシャンの作品を取り上げることで、他のアイドルと一線を画したアーティスト像を築き上げていく。

『夜空ノムコウ』の時代背景

歩き出すことさえも いちいちためらうくせに
つまらない常識などつぶせると思ってた
君に話した言葉は どれだけ残っているの?
ぼくの心のいちばん奥でから回りしつづける


『夜空ノムコウ』が多くの人にとって特別な曲になった理由のひとつに当時の時代背景がある。

SMAPが国民的アイドルとなるまでの10年は日本社会にとっても激動の10年だった。

バブル崩壊による不良債権処理や業績悪化の影響で倒産が相次ぎ、リストラによって多くの人が一夜にして職を失った。

「平成」という言葉とは裏腹に生活を守るために誰もが必死になっていた時代。

一方で経済至上主義が崩壊し価値観が多様化したのもこの時代である。

ダンスミュージックをお茶の間に持ち込んだ小室哲也プロデュースによる一連のヒット曲。

洋楽にルーツを持つ渋谷系やMr. Children、スピッツなどのバンドがリリースする作品群。

それらは歌謡曲と異なるJ-POPというジャンルを築き、CDの普及とともにミリオンセールスが次々と生まれた。

1997年のデビュー前にサラリーマンだったスガシカオは、バブル崩壊後の世相を間近に体験した一人である。

メジャーデビューアルバム『Clover』(オリコン週間10位)がヒットしたスガシカオにとって、1998年は先の見えない場所からようやく抜け出した時期だった。

国民的アイドルとしての地位を確立しつつあったSMAPとアーティストとしての一歩を踏み出したスガシカオ。

平成という時代に歩みを開始した両者の出会いはなかば必然でもあった。

過去から現在、未来へという視点

あのころの未来に ぼくらは立っているのかなぁ・・・
全てが思うほどうまくはいかないみたいだ
このままどこまでも 日々は続いていくのかなぁ・・・
雲のない星空がマドのむこうにつづいてる
あれからぼくたちは何かを信じてこれたかなぁ・・・
夜空のむこうには もう明日が待っている


聴き手に深い余韻を残す『夜空ノムコウ』。

その理由が感嘆調で繰り返されるサビだけでなく時代背景に由来していることは、歌詞に描かれるエピソードの時系列によって効果的に示される。

「あれから」という言葉で示される現在、「夜空のむこう」に象徴される未来。

タイムスリップして語られる過去からふたたび現在へ。

過去から現在、という視点が同じベクトルで未来に向けられる。

そこから“過去をふり返ることで未来へ向かってリセットする”という構造が読み取れる。

せわしない日々を生き抜いてきた人々にとって決して押しつけがましくなく、そこはかとなく希望を暗示する巧みな構成だ。

「あのころの未来」が現在であること。

その一方であのころ見ていた未来とは違う場所に立っているという思い。

「全てが思うほどうまくはいかないみたいだ」というフレーズは、思い描いていた未来とのギャップを自覚する主人公の心境そのものだ。

それさえも受け入れながら未来へと向けられる視線。

冷たい冬の「夜の風」と対照的な「雲のない星空」が、その後の20年を示唆しているようである。

ふり返るためのリセットボタン

バブル崩壊の余波がひと段落し、穏やかな日々を取り戻しはじめた1998年にリリースされた『夜空ノムコウ』。

この曲を聴いてどこかゆるされたような思いになるのは筆者だけではないだろう。

『夜空ノムコウ』を歌ったのが、バブルが崩壊しアイドル冬の時代に現れた5人組だったことに少なくない意味がある。

『夜空ノムコウ』によって初のミリオンセールスを記録し、文字どおり平成という時代を象徴する存在となったSMAP。

そのSMAPも2016年12月31日、役割を果たしたかのように静かにその活動を終えた。

時を同じくして2016年を最後に『夜空ノムコウ』を封印する(コラボをのぞく)ことを宣言したスガシカオ。

そこには深いリスペクトとともに、いつかまたこの曲が歌われる日が来ることを予期して、そのときに備えるようなニュアンスも感じられる。

それはまるで過去をふり返るためのリセットボタンを残しておくかのようである。

いつかまた『夜空ノムコウ』が歌われるとき、「あのころの未来」に立った5人の目にはどんな明日が映っているだろうか。

TEXT:石河コウヘイ

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