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カーモンベイビー、 「ボーン・イン・ザ・USA」

"U.S.A"と大きくプリントされたシャツを日本人が着ることは、ひょっとしたらダサいかもしれない。もちろん"アメリカ合衆国"を意味する"U.S.A"という言葉が、本質的にダサいわけではない。それを外国人である日本人が堂々と来ている違和感、意味不明さがおかしみとして、ダサいという印象につながる。
DA PUMPによる「U.S.A.」という曲のダサカッコよさも、似たような構造だ。

彼らはそのおかしみを徹底することで、"ダサい"から"カッコいい"を引き出した。

どんな言葉にも言えることだが、"U.S.A"という言葉もまた、文脈次第でさまざまな印象を与える。

しかしながらここまでの話は、外国人である日本人としての感覚によるところが大きい。

日本人は"U.S.A"という言葉に大した思い入れはない。

だからこそ、ダサカッコいいという飛躍した印象につながる文脈を持ちうる。

本国アメリカではこうはいかない。

アメリカ国民にとって、"U.S.A."という言葉は、我々には理解しがたい特別な意味を最初に持つものだからだ。

今回紹介するブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」(1984)のようなシリアスな文脈ばかりではないにせよ、アメリカ人アーティストが曲中に"U.S.A."という言葉を盛り込んだときには、われわれ外国人はその意図を注意深く確かめる必要がある。

"U.S.A."は忠誠の誓い


Born in the U.S.A
I was born in the U.S.A


アメリカ合衆国に生まれた
俺はアメリカ合衆国に生まれたんだ


「ボーン・イン・ザ・USA」の、あまりにも有名なサビの部分だ。

今の耳で聴くと、80年代的なシンセサイザーブラスや、こぶしの突き上げを要求するような扇情的なメロディラインは、ひょっとしたらアメリカ人でさえ"ダサ(カッコい)い"と思うかもしれない。

しかし多くのアメリカ人には、ここに登場する"U.S.A."という文字に、以下の注釈を透かし見ている。

"I pledge allegiance to the Flag of the United States of America, and to the Republic for which it stands, one Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all."

(私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います)

これは合衆国国民が暗唱必須として幼いころから叩き込まれる「忠誠の誓い」の全文である。

アメリカ合衆国とは50の州および連邦区から成る連邦共和国として知られるが、彼らの帰属意識はまず自分の出身州にある。

某TV番組で「YOUはどこから来たの?」と尋ねられたアメリカ人旅行客が、「オレゴンから」とか「ニュージャージーから」とか、州単位で答えることからもよくわかるだろう。

そうしたバラバラの帰属意識をまとめ上げて成立したのがアメリカ合衆国であり、その統一の意識を確認するのが、この忠誠の誓いというわけだ。

つまり"U.S.A."という言葉には、他民族からなる州(くに)よりも上位の概念を象徴する神聖な響きがあり、彼らはそれに忠誠を誓うことを義務付けられているのである。

この感覚は、現代よりも幕藩体制以前の日本人の方が共感しやすいかもしれない。

「ボーン・イン・ザ・USA」の歌詞


しかしそんな忠誠を誓った国で、俺たちはどんな目にあって来たのか、と歌うのが「ボーン・イン・ザ・USA」という曲である。

生気のない街に生まれ、蹴られた犬のようにおびえて暮らし、忠誠を示すために銃を持たされベトナムへ赴く。

兄弟はそこで死んだが、俺は祖国に帰ることができた。しかし祖国はそんな俺に何の施しも用意してはいなかった。

そしてスプリングスティーンは<行くべきところ>であるはずの、"U.S.A."が象徴する自由と正義がどこにもないことを訴える。

Down in the shadow of the penitentiary
Out by the gas fires of the refinery
I'm ten years burning down the road
Nowhere to run ain't got nowhere to go


刑務所の影のもと
製油所の炎に焼け出され
十年間路上で焼き尽くされ
逃げるところも行くべきところもない


"U.S.A."という言葉の破壊力


ところが同じアメリカ人の中から、"U.S.A."の象徴性をめぐって明らかにスプリングスティーンの意図に反する意見があらわれる。

保守的発言で知られる人気コラムニストが、「彼(スプリングスティーン)は不平をこぼす男ではなく、閉鎖された工場と他の問題の朗唱は、いつでも"ボーン・イン・ザ・U.S.A.(アメリカで生まれた)!"という壮大で、快活な表現によって句読点を打たれたように見える」と書いたのだ。

つまり、すべての問題はアメリカに生まれたということでチャラなんだぜ、といった愛国精神を表明する曲と解釈したのである。

当時、レーガン大統領の再選キャンペーンの只中にあり、この曲はそうしたロジックから、スプリングスティーンの本意ではない政治利用が随分と危惧された。

この有名なエピソードは、アメリカ国民にとっての"U.S.A."という言葉の隠ぺい力の高さを示している。

どんなにスプリングスティーンが丁寧に文脈を紡いでも、"U.S.A."という言葉を妄信する同胞を完全に理解させることはできなかったのだ。

とすれば、外国人が不用意に"U.S.A."を唱和するのは、実はリスキーな試みだ。

DA PUMPは<カーモンベイビー・"アメリカ">と歌うことで、あやうくその難を逃れたのかもしれない。

TEXT:quenjiro

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