フレデリックとは
フレデリックは、三原健司(Vo./Gt.)、三原康司(Ba.)の双子の兄弟と、赤頭隆児(Gt.)、高橋武(Dr.)で編成される。何度も繰り返す独特な耳に残るフレーズと、中毒性のあるメロディーが人気を博す。
どのジャンルにもあてはまらない、まさに"フレデリズム"を奏でる唯一無二のロックバンドだ。
桃源郷とは
桃源郷(とうげんきょう)は、俗界を離れた別世界のこと。他界、仙境、理想郷ともいう。
ユートピアと似ているが、実は正反対のもの。
日常生活ではあまり聞きなれない言葉だが、この曲では耳に残るフレーズになるように、繰り返し繰り返し歌われている。
彼らがこの言葉を題材にした理由を、歌詞を見ていきながら考えていく。
ユートピアでなく、桃源郷でないといけなかった理由とはなんだろうか。
独創的で幻想的
「桃源郷待って待ってほら 桃源郷待って待って」
『TOGENKYO』ではキーとなるフレーズだ。
桃源郷はどこにも行くはずがないのに、"待って"とはどういうことだろうか。
詳しく見ていく。
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痛いですか今の判断はいないような顔してんなっていつも
それでさあ見たいですか僕の体内を
これがさ僕のハートですがどんな形に見えていますか?
≪TOGENKYO 歌詞より抜粋≫
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冒頭から、『TOGENKYO』というタイトルにふさわしい独創的で幻想的な歌詞だ。
"痛い"、"体内"、"ハート"、など身体にまつわるフレーズが耳を刺激し、切ない雰囲気と相まって喉の奥を熱くさせる。
外からは分からない僕の内面はどう見えているか、と問うている。
単純な感情
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もう嫌になっちゃうわとっちらかったこの部屋
僕の最低でとても単純な揺れる感情をわかってくれよ
≪TOGENKYO 歌詞より抜粋≫
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"部屋"とは心の中のこと。
ぐちゃぐちゃに散らかった心の中だが、僕からすれば説明するに足りない単純な感情なのだ。
外からは見えなくても君ならわかるだろう?わかってくれよ、と歌っている。
君が桃源郷
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誰だって僕だって君だって後悔を飲み干して
悲しくたってそんな顔みせずに笑って過ごしてんだ
もう朝だって昼だって夜だって常時向き合ってはいたい
天国だって地獄だって楽園は君にあったんだ
≪TOGENKYO 歌詞より抜粋≫
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人間は人に見えている外見の部分と、見えていない内面の部分の二つが存在する。
いつも笑顔で振る舞っている人でも、失敗や挫折や過去の後悔を引きずって生きていることもあるだろう。
本当は朝も昼も夜も、抱えている負の感情と向き合い、悲しければ悲しい顔をして生きていたい。
しかし、実際そんなことはできない。
楽しくて嬉しいことや、辛くて悲しいことを内面に秘めていても、全部君なら分かってくれる、と歌っている。
1番の歌詞では、"君"という存在を桃源郷に見立てている。
君の折衷案奪ってやるよ
2番では少し展開が変わってくる。----------------
聴こえますか僕の内面がほら
わかってないわかってないわかってない変わってない
ぶっ飛んじまいそうなぶっきらぼうな人類よ
そんなとっかえひっかえやっちゃった君の折衷案奪ってやるよ
≪TOGENKYO 歌詞より抜粋≫
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君という存在でも僕の内面を理解してくれないし、現状を打破できないことに気付く。
僕の感情を引っ掻き回したことへの、皮肉表現"君の折衷案奪ってやるよ"。
正負の感情が背中合わせで存在することを歌う、彼らが得意としている表現だ。
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誰だって僕だって君だって正面でダンスがしたい
妄想なんてそんなことわかっちゃいるけど掴みたいな
もう朝だって昼だって夜だって常時向き合ってはいたい
損得だって私欲だって楽園は君にあったんだ
≪TOGENKYO 歌詞より抜粋≫
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自分の人生の中では、主役である自分がセンターに立ってダンスがしたいものだ。
桃源郷が妄想であることはわかっているけど、僕を理解してくれるそんな都合のいい君という存在を手に入れたい。
全部は君の中にある、と歌っている。
僕だけの桃源郷
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真相巡って食ってたら心臓を齧っちまった
望遠鏡ばっか見てたら妄想で終わっちまうな
もう全部作っちまうさ
≪TOGENKYO 歌詞より抜粋≫
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今まで僕は君に求めてばかりだった。
君が僕のことを理解してくれ、変わってくれ、というように自分の理想とする世界を他人に押し付けた。
頭だけで考え、行動せずにいると、ついに心臓を齧ってしまった。
心が蝕まれることを表した狂気的なこの表現が『TOGENKYO』の世界観にばっちりハマっている。
結果、僕自身の中に桃源郷を作ることを決めた。
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誰だって僕だって君だって後悔を飲み干して
悲しくたってそんな顔みせずに笑って過ごしてんだ
もう過去だって今だって先だっていつだって愛していたい
天国だって地獄だって楽園はここにあったんだ
≪TOGENKYO 歌詞より抜粋≫
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過去にコンプレックスを持っていても、今が楽しめなくても、先の未来が不安でも、いつだって愛していたいという気持ちは変わらない。
僕だけの桃源郷はここに作ればいい、と歌っている。
桃源郷舞って舞って
「桃源郷舞って舞ってほら 桃源郷舞って舞って」最後だけ"待って"が"舞って"に変わっている。
他人に桃源郷を作り出そうとしたため、"待って"と言って繋ぎ止めておかなければ、すぐに遠くへ飛んでしまいそうな存在だった。
しかし、自分自身に桃源郷を作ればいいと気付けた後半は、むしろ舞ってくれと言わんばかりに、自由な存在に変わっている。
ユートピアとの違い
最初に、桃源郷とは、ユートピアとは似ているが、実は正反対のものと記した。ユートピア思想の根底にあるのは、「理想社会を実現しようとする」という主体的意志である。一方で桃源郷は、「理想社会の実現を諦める」という理念を示している。
一見すると、ユートピアの方が意味合いとしてはいいのでは?と感じる。
しかしその昔、地上にユートピアを作ろうとした結果、悲惨な管理社会を生み出し崩壊した。
その後に姿を現したのが、桃源郷である。
理念の異なる両者がもたらした結果もまた、逆になった。
主体的・積極的なユートピア思想は、理念とは裏腹に大きな災禍が生じる。
消極的な桃源郷は、現実には何の力も持ち得ないが、人間の内面の部分に大きな慰めを与えたのだ。
桃源郷は、現実問題何の力にもなり得ない。
桃源郷を作り出したからと言って、仕事のミスが清算されるわけではないし、別れた恋人とよりを戻せるわけでもない。
しかし、どうしようもなく落ち込んだり、涙が止まらないほどの悲しい気持ちを慰めることができる。
悲しくたってそんな顔見せずに、笑って過ごしている一人一人の心の中に、桃源郷はある。
これが桃源郷とユートピアとの違いだろう。
昔も今もフレデリックが大事にしている『TOGENKYO』。
桃源郷が一人一人の心の中にあるように、『TOGENKYO』も一人一人の人生に寄り添う歌となることを彼らは願っているのではないだろうか。
TEXT 坂倉花梨
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