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ロックじゃなく癒やしのスロー
父がロック・バンドARBのボーカル石橋凌だけに、きっとロックロックしているのだろうなという予想を、完璧に覆すような曲調です。何と癒やし系の歌なんですよ。
そもそも「癒やし系」って、いったいなんでしょうか?ちょっと掘り下げてみます。
「癒やし系」というワードはかつて童謡・子守唄やクラシック、アルファ波なインストなどで、一部言われたことはありました。
世間に一気に浸透したのは、1999年の坂本龍一のピアノ・ソロ「ウラBTTB」のヒットしたのがきっかけでしょうか。
そのあたりから、音楽業界から「癒し系」という言葉が浮上してきたように思います。
そんな背景をもつ「癒し系」。
これを歌にすると、そのポイントは和やか・優しさ・静けさ・スローといったところが、キーワードになるでしょう。
その観点からこの曲「めぐる」を聞くとイントロから、優河は癒やしをを意識しているように思います。
季節の移ろいはゆったりしていて、風の音さえ聞こえてこない静けさが見事に表現されているんです。
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通り過ぎてく
季節に手を振り
風に揺れる明日を
見つめている
≪めぐる 歌詞より抜粋≫
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映画と自分の家族をオーバーラップ
優河は出来上がった映画を見た上で、曲を作り上げたようです。というのも、この映画「長いお別れ」は、アルツハイマーの父(山崎努)と介護する母(松原智恵子)を、アメリカに嫁いだ長女(竹内結子)と、両親のそばに住む次女(蒼井優)が心配し、面倒を見ていくうちに、徐々に絆が深まっていくというストーリー。
優河はそこに、自らの家族との関係性や絆を重ね合わせて、曲を作り上げていったと言っています。
そして、「絆」というテーマは普遍的なものです。
ドラマの中の2人の娘は、認知症の父に相談までします。
意識しているかどうかは別にして、父は訳の分からない言葉と動作で、2人を励まします。
2人はそれぞれに父の言動を解釈し、癒やされていくのです。
このあたりのところを、優河は歌詞で下記のように表現し、綴っています。
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どこか遠く 旅をして
思い出す言葉は
あなたの声で
響くでしょう
≪めぐる 歌詞より抜粋≫
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「めぐりめぐる」の意図
この映画の原作者である中島京子は、認知症の実父を介護した経験を踏まえて書いています。その上で、映画「長いお別れ」のタイトルをアルツハイマー病のゆっくりと長い時間をかけて様々なことを忘れていってしまう、という特徴からつけたそうです。
「めぐりめぐる」という歌詞は、その長い別れの中での「めぐりめぐる」を強調しているようでもあります。
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めぐりめぐる
時のなかで
すべてが始まるなら
いまがつづいていく
≪めぐる 歌詞より抜粋≫
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中島みゆき「時代」へのアプローチ
そして、優河はそんな中で、名曲へのオマージュまで採り入れていたみたいです。ピンとくる方もいるでしょうが、このサビのフレーズは、中島みゆき「時代」(1975年発表)を意識しています。
優河は「めぐる」というタイトルが浮かんだ段階で、これを隠しポイントにしようとしたのではないでしょうか。
平成から令和へと時代はめぐる。
作る前から決められていた時代の事案にも乗って、この歌を新時代の名曲にしようと、彼女が意気込んだのは間違いありません。
アルツハイマー家族の絆を描く、家族ドラマ映画「長いお別れ」と共に、この曲は永く語り継がれる名曲になることでしょう。
TEXT 宮城正樹