注目作品『海の幽霊』
今をときめく米津玄師。彼がアニメ映画『海獣の子供』に提供した主題歌「海の幽霊」。この作品が早くも話題だ。
米津玄師がアニメ映画への提供した曲で思いだされるのが、DAOKOとのコラボした作品『打上花火』だ。作品のストーリーに寄り添いながら、見事に盛り上げる音楽。これが非常に良かった。
今回も同じ形でアニメ映画への提供主題歌となる「海の幽霊」。この作品も、映画に寄り添った快作となっているに違いない。
そんなドラマティックで感動的な米津玄師の歌詞の世界を見ていこう。
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映画に負けないものを目指した
画像引用元 (Amazon)今回の映画の原作は、五十嵐大介作のコミック『海獣の子供』だ。この作品に、米津は10代の頃に衝撃をうけたという。
そんな思い入れのある作品の映画化主題歌オファー。気合が入らないわけがない。実際に米津玄師は、「原作が持ってるものに負けないよう、それでいてうまく寄り添えるようなもの」に作品が仕上がるように四苦八苦しながら、制作に挑んだようだ。
ここからは、映画の物語に言及をしてゆく。この『海獣の子供』は、スティーブンソン著の子供向け海洋冒険小説「宝島」以来続いている、少年少女たちの普遍的なひと夏の冒険を描いている。そして、物語に特殊な設定が施されている。
ただ、あの「宝島」とは違って、ずっと過酷な設定ではあるのだが…そのあたりは深く掘り進めず、今回は物語の細部にせまっていく。
ヒロインの心理へアプローチ
大枠の映画のストーリーは、ヒロインの中学生の少女“安海琉花”が、不思議な少年“海”とその兄“空”に出会い、海洋・海中を舞台に冒険の物語へと展開していくお話だ。米津はこのストーリーの後日談という形で「海の幽霊」を作っていったようだ。
映画の結末に関係する部分でもあるため、今は深く書けないが少女と少年たちは、ある結末を迎える。
その結末の後の世界を描いているのが、「海の幽霊」なのだ。
ヒロイン・安海琉花の心理を、巧妙に歌詞に載せて魅せてくれる。映画に寄り添っていることを前提に、歌詞に注視していこう。
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星が降る夜にあなたにあえた
あの夜を忘れはしない
大切なことは言葉にならない
夏の日に起きた全て
≪海の幽霊 歌詞より抜粋≫
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今作は、前述したとおり「少年少女の普遍的なひと夏の思い出」を描いている。
とすれば、「夏の日に起きたすべて」。これが映画の見どころとなるのだろう。ネタバレを避けるためここは注視せずに、ヒロインの心理へと肉迫していく。
すこし前のフレーズに話を戻そう。その他のサビの歌詞の中にも映画のキーワードが頻出する。「星が降る夜」・「あの夜」このあたりは既に公開されている映画予告でも描写されているシーンである。
その上で普遍的なポイントとなるのは、「大切なことは 言葉にならない」という点だ。
そんな凄い体験をした琉花は、「あなた」…つまり空と海のどちらかと夏の日に起きた「あの夜」に戻りたいという心情が読み取れる。
ラブソングとしての「ときめき」も…
ちょっと角度を変えてみよう。
この曲は、一見するとラブソングのようにも思える。作中でも、淡い恋がある。
とはいえ、あくまで共にヒロイックなアクションを共にした同士としてのヒロインの友情節といえる。
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風薫る砂浜で また会いましょう
≪海の幽霊 歌詞より抜粋≫
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ラストの「また会いましょう」で魅せるさわやかな言葉が、気持ちいい仕上がりとなっている。
ただ、映画とは関係なく、ラブソングとして聴くこともできる。
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離れ離れてもときめくもの
叫ぼう今は幸せと
≪海の幽霊 歌詞より抜粋≫
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「ときめくもの」がそのポイントとなる。
共に行動した中において、当然ラブが生まれる。
友情が恋愛に転化するのは、よくある話だけど、その瞬間を「ときめく」の一言で捉えたところこそ、「海の幽霊」の素晴らしいラブソングぶりだと言えるのかもしれない。
「海の幽霊」とは?
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思いがけず光るのは 海の幽霊
≪海の幽霊 歌詞より抜粋≫
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タイトルにもなっている「海の幽霊」が、この作品のキーワードになっている。
映画を見ても見ていなくても、このフレーズには不思議な快感があって良かった。
いずれにしても、米津玄師らしいメロディアス・スロー・ナンバーに仕上がっており、物語のヒロインの心情を描きつつも、愛を歌うバラードとしても採れる作品。
甘酸っぱくてほろ苦い過去の思い出を表現したバラードである「Lemon」に勝るとも劣らない壮大な楽曲に仕上がっている。
TEXT 宮城正樹