あらゆる世代の心を掴み話さない
あらゆる世代の心を掴む、多数の名曲を生み出すことで知られる中島みゆき。今回ピックアップしたいのは、NHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』のEDテーマとして知られる『ヘッドライト・テールライト』である。
聴き手の心を叩き訴えかけるような力強さで知られる『地上の星』対し、静かに淡々と語りかけられるようなこの楽曲。
中島みゆきが歌う、人生という「旅」について考察していきたい。
照らされる過去と未来
----------------
ヘッドライト・
テールライト
旅はまだ終らない
≪ヘッドライト・テールライト 歌詞より抜粋≫
----------------
これは、多くの人が一度は耳にしたことがあるであろう非常に印象的なフレーズだ。
紹介するまでもないが、この楽曲を一躍有名にしたのは『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』という番組だ。この番組は様々な職業の人が仕事にかける情熱をドラマチックに取り上げるドキュメンタリーである。また、様々な人生を描く番組だからこそ、強調されている部分だと言えるだろう。
人の行き先を照らすヘッドライト。そしてその辿ってきた道を照らすテールライト。それは、多くの人が集合体となって形成される世界を、まるで深夜の高速道路をたくさんの車が駆ける様に思わせる。
その人の成し遂げたことを賞賛した上で、その更に高みを目指す姿勢への期待を募らせる。番組で取り上げる人々を称える、シンプルながらも印象的な言葉だ。
----------------
語り継ぐ人もなく
吹きすさぶ風の中へ
紛れ散らばる星の名は
忘れられても
ヘッドライト・
テールライト
旅はまだ終らない
≪ヘッドライト・テールライト 歌詞より抜粋≫
----------------
彼らの名前は歴史に残るとは限らない。我々もそうだ。人知れず自分の使命を果たし、人知れず消えて逝く。決して偉人聖人と後世に語り継がれることのない名も無き者の人生。
しかし、それが集まって世界は回っている。
彼らが、私たちが、過去に築いたものがあるからこそ、未来へと歴史を繋ぐことが出来るのだ。
過去と未来 あなたの「旅」を創るもの
さて、「後ろは振り返らない、前に向かって進んでいこう」というような、過去に捕らわれることなく、未来に向かって進むことの大切さを訴える楽曲はよく見かけられる。そんな中で、あえて人の過去を意識させるフレーズは非常に珍しいのではないだろうか。
----------------
行く先を照らすのは
まだ咲かぬ見果てぬ夢
遙か後ろを照らすのは
あどけない夢
ヘッドライト・
テールライト
旅はまだ終らない
≪ヘッドライト・テールライト 歌詞より抜粋≫
----------------
人から見える自分の軌跡だけでなく、自分自身で歩んできた道だからこそ振り替えることのできる思い出。
今現在の自分が思い描く夢だけでなく、若き日の純粋であどけない頃の自分が描いていた夢。
幼いころに自分が描いていたものは、振り返るとつい恥ずかしく思ってしまいがちだが、それもあなたの立派な軌跡の一つだ。
今まで歩んできた道には、辛い出来事もたくさんあっただろう。
消してしまいたい、やり直したい事もあるだろう。
しかし、そんな経験も一つひとつが大切な糧となっている。そのすべてによって形成されているのが、あなた自身の「旅」なのだ。
その人の成し遂げたことを賞賛した上で、その更に高みを目指す姿勢への期待を募らせる。もしくは、先人たちが作り上げた歴史に思いを馳せ、我々が見ることのできない更なる未来への希望を感じさせるフレーズだ。
つまりこの楽曲は、番組で取り上げる人々の仕事を称えるだけではない。懸命に生き抜き、歴史を創る一部を担ったすべての人々へ向けられた讃歌なのである。
TEXT 島田たま子