「推し」の定義は難しい?
サブカルチャーを好む女子を「サブカル女子」。シビアな音楽業界であがくアーティストを「ビビった」。愛されるポンコツ歌った「ハッピーポンコツ」。世の中にいるさまざまな人々について、シニカルかつ愛のある目線で歌いあげてきたキュウソネコカミ。
今回紹介する「推しのいる生活」では「推し」を追いかけるファンの心理がリアルに描かれている。
「推し」とは、簡単にいうと「応援している人」や「崇拝している人」を指す言葉だ。「推し」を追いかける活動を「推し活」などという。
とはいえ、明確な「推し」の定義は難しい。まず「推し」を指す対象は幅広く、バンドやアイドル、二次元のキャラクター、はたまたクラスメイトの誰かや、職場の同僚を指すこともあるのだ。
一口では説明しきれない「推し」
誰かを「推す」という感情も、一口には説明し切れない。そんな推しへの気持ちを端的に表したのがこの歌詞だ。----------------
恋だの愛だのだけじゃない 特別な感情覚えたよ
≪推しのいる生活 歌詞より抜粋≫
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推しがいるというと「恋愛感情を抱いている」や「付き合いたいと思っている」という捉え方をされがちだ。しかし、推しへの感情は歌詞中にあるように「恋や愛」だけで推し量れるものではない。
応援したい、見守りたい、少しでも力になりたい、ずっと見ていたい。時に人は、推しのために恋愛感情だけでは説明しきれない行動に走ってしまう。
さらに歌詞はこう続く。
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リアルな見返りは無いけれど...
≪推しのいる生活 歌詞より抜粋≫
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今日もテレビからラジオから 雑誌からいろんなステージから元気な姿を見せてくれ、それだけで心満たされる。
チケット代、CDや雑誌代、ライブやコンサート、握手会などイベントへ向かうための交通費・宿泊費、あるいはプレゼントなど、推しのためにお金を費やす人は多いだろう。そして、熱量がつのればつのるほど、同じくらい時間も費やす。
時間やお金をかけたとしても、推しがファンに直接的に何かリターンをくれることは、当然ない。それでも推しがスクリーンやイベントを通して笑いかけてくれるだけで、もっと言えば生きて健康に、そこに存在してくれるだけで十分な見返りになるのだ。
推しに対する相反した感情
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【推しを眺めてるだけで潤う 推しが動いてるだけで尊い
遠く離れててもここ(心)にいる 売れてくれ売れないで】
≪推しのいる生活 歌詞より抜粋≫
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推しがいる人の悩みの一つだろう。
人気が上がると、自然とチケットやイベントの倍率も高くなるというもの。以前は気軽に行けていたイベント類に、落選することも増えていく。推しの姿を見ることで元気をもらっていたのに、それすら叶わなくなるというのはやはり苦しい。
それでも、愛してやまない推しが、世間に知られることなく埋もれていくのも忍びない。知名度や人気がないことで、推しが生活に困るなんてことはあってほしくないし、できれば推しの魅力をあらゆる人々に知ってほしい。
「売れてくれ売れないで」は矛盾しているけれど、これ以上ないくらいにぴったりくる表現なのだ。
「その日」まで推しを追いかけ続ける
推しを追いかけるということは、時に悲しみや痛みも伴う。ラストのサビはこう始まる。
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わっしょいわっしょい【その日まで】
わっしょいわっしょい【共にいこう】
≪推しのいる生活 歌詞より抜粋≫
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歌詞中にある「その日まで」とはどの日までを指すのだろう。
活動休止や解散、場合によっては死別など……。何が起こるか分からない世の中。好きでたまらない「推し」を、さまざまな理由で追いかけられなくなることは、十分にありえる。
推しだけではなく、それは推しを追いかけている自分自身にも言えること。特に理由がなくても、急に推しへの気持ちが冷めてしまうことだってあるだろう。
それでも、いつか来る「その日」まで、推しを追い続ける。
自身がバンドとして、ファンから「推される」側であるキュウソネコカミだからこそ歌える、切実な曲だった。
TEXT つちだ四郎