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ポルノグラフィティ「VS」爽快感溢れる歌詞で戦っている相手は誰?

ポルノグラフィティ50作品目のシングル『VS』は、あだち充原作のアニメ「MIX」の主題歌だ。みずみずしい青春を思わせる歌詞と、「VS」という強い言葉。その真意はどこにあるのか?新藤晴一らしい歌詞に注目しつつ、込められた思いを探っていく。

過ぎし日の自分

▲ポルノグラフィティ 『VS(short ver.)』 / Porno Graffitti 『VS(short ver.)』
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あれは遠い夏の日のシンキロウ
こだまする友の声
ほら うつむき街を行く人もみな
かつての少年 見違えたろ?
≪VS 歌詞より抜粋≫
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歌い出しの歌詞では、過ぎし日を思い返し、感傷にふける様子が描かれている。「かつての少年」とは、誰もが経験した子供時代を表すものだ。

見知らぬ人も、すっかり大人ぶった人も、誰だって子供時代はあって、それぞれの胸に秘められた思い出があるという、普遍的なテーマが冒頭で掲げられている。

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雨上がりのグランドで ぎゅっと目を閉じれば
遥かばかり見た あの日の青空
≪VS 歌詞より抜粋≫
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「雨上がりのグランド」が過去と現在をつなぐ。少年時代は野球に打ち込んでいたのだろうか。

「MIX」の主題歌ということもあり、それとなく野球を連想させるワードを使っているところに晴一のセンスを感じさせる。

自分 VS 自分


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そうか あの日の僕は今日を見ていたのかな
こんなにも晴れわたってる
バーサス 同じ空の下で向かいあおう
あの少年よ こっちも戦ってんだよ
≪VS 歌詞より抜粋≫
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サビでようやく、かつての自分が見ていたものが「今」であることが明かされる。

遠くを見つめたあの日の自分が、「今」という場所で自分と向き合う瞬間。タイトルにもなっている「VS」は自分対自分を意味しているのだ。

過去と今がグランドを通じてつながり、大人になった自分が子供だった自分と向き合う2人は、まさに「VS」。

ファイティングポーズを取って相手を打ち負かすのではなく、過去の自分に負けない自分になれているか、自問自答するという、新藤晴一らしい視点が魅力だ。

自分を邪魔するのは、自分自身



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雨上がりのグランドで ぎゅっと目を閉じれば
遥かばかり見た あの日の青空
≪VS 歌詞より抜粋≫
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2番では、遠い日に交わした約束に触れ、未だ果たせずにいる後ろめたさが歌われている。生きていく上で、悪気もなく約束を破ってしまうこともある。

それはタイミングの悪さや他人の干渉もあれど、多くは自分の怠惰や意志の弱さだ。

他人のせいにして言い訳をしても、後ろめたさは消えず、自分自身を苛む。だからこそ逃げるのをやめて、過去の自分のまっすぐに向き合うことにしたのだろう。

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雨上がりのグランドで ぎゅっと目を閉じれば
遥かばかり見た あの日の青空
≪VS 歌詞より抜粋≫
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自分の心に耳を澄ましてみれば、自ずと答えは見えてくる。目をそむけたつもりで諦めきれなかった夢が、心の一番深いところに訴えかけてくるのだ。

過去の自分に恥じない自分へ


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本当 気楽でいいな 無邪気に描いた地図
クレームもつけたくなるが
バーサス 準備はいいか せーので走りだそう
あの少年よ まだ期待してんだろ
≪VS 歌詞より抜粋≫
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子供だった自分は、無邪気に夢を描いた。それは無邪気であるからこそ無責任で、今の自分に重くのしかかる。

それでも、過去の自分が抱いたキラキラとした想いは、自分と向き合うことでより鮮明に甦り、自分の背中を押してくれるのだ。

「まだ期待してんだろ?」というのは、夢を諦めない心だ。どんなに言い訳をして夢を諦めようとしても、自分の心は正直で、強く目指した道へ惹かれていく。

改めて子供の頃の自分と向き合うことで勇気が甦り、再びまっすぐに歩み出せる。

『VS』とは、好敵手という意味でのライバルであり、起爆剤ともなる自分自身との対峙を歌っているのだ。

果たせなかった約束


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本当 気楽でいいな 無邪気に描いた地図
クレームもつけたくなるが
バーサス 準備はいいか せーので走りだそう
あの少年よ まだ期待してんだろ
≪VS 歌詞より抜粋≫
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実は、新藤晴一の歌詞には果たせなかった約束が何度も登場する。

遠い日の約束、守れなかった約束が胸の奥に刺さり、今でも痛む。このようなフレーズは、過去に3曲登場している。


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夜ごと、君に話してた未来についての言葉は、
いくつかは本当になって、いくつかはウソになってしまった。
≪ダイアリー 00/08/26 歌詞より抜粋≫
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あれは夜な夜な語った夢と 果たせないままの約束たち
≪ひとひら 歌詞より抜粋≫
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夜ごと君に話していた約束は今も果たせず
≪AGAIN 歌詞より抜粋≫
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言い回しに多少の違いはあれど、毎夜友達と語らった他愛ない夢の話である。

いつか果たすつもりだった約束たちは、音楽の道で生きていくという大きな夢を叶える過程で置いてけぼりにされたのか、忘れ去られたのか。

気が付けば、守れないままの約束が一つ二つ残されている。そのことに今更気付き、ふと立ち止まる。守れない約束など、誰しもが抱えていることだろう。

しかしそれを度々歌にしたためるのは、その約束たちが晴一にとって大切な、忘れがたいものであることを示唆しているのではないか。

夢を語る友がいて、支えてくれる人がいて、始めて夢に向かって突き進むことができる。

数え切れない人たちへの感謝を忘れない、謙虚で等身大のポルノグラフィティがそこにはあるのだ。

新藤晴一がペン先から放つ歌詞がこれほど聴く人の心に刺さるのは、それだけ普遍的なテーマを歌っているからだ。

人の心に寄り添い、誰もが感じている後ろめたさや虚しさ、憤りなどを見事に言い当てる。ポルノグラフィティが長きにわたって支持される理由がここにあるのだ。


TEXT 岡野ケイ

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