デビュー間もない頃から変わらぬ思い
最新曲『VS』のカップリング曲『一雫』は、メジャーデビュー20年に向けての思いを込めて作られた楽曲だ。しかし、20年の思いを込めた結果、そこにはデビュー間もない頃の思いが色濃く反映されていた。
デビューからの長い歳月を経て、今何を想うのか?『一雫』の歌詞から、そこに込められた思いを読み解いていく。
----------------
宛名さえ書かずに 差し出した手紙みたい
僕らのうたは今 どこに響いているんだろう
街の音に 時の波に 紛れ 消えたかな?
風に散った花びらのよう 君の肩にとまれ
≪一雫 歌詞より抜粋≫
----------------
歌い出しの歌詞にもあるように、自分たちの作った歌が、思いを乗せた歌声が、どこまで届いているのかは不安なものだ。
自分の思いが大切な人に、ちゃんと届いていたらいいな。そんなことを遠くから願う歌詞が愛おしい。
一方、デビューから間もない頃に書いた楽曲『ダイアリー/00/08/26』には、このような歌詞がある。
----------------
近頃じゃTVの中、僕を見かけたりするだろう?
そんな僕を見て君は、喜んでくれているかな?
それとも大人になった僕にがっかりしてるかな?
大事な守るべき何か失くしていたら、そっと教えて。
≪ダイアリー 00/08/26 歌詞より抜粋≫
----------------
憧れていた音楽の世界に進出できた喜びや誇りはありつつ、"負けないぞ!"という気持ちで書いたという楽曲には、「君」が知っているリアルな「僕」と、ポルノグラフィティというバンドとして世の中に認識されている「僕」=新藤晴一の姿にズレがないかを気にしている姿が描かれている。
リアルな姿はテレビにもファンにも見えないから、「君」に聞くしかない。プロになったことで、一番大切な何かを見落としていないか?
原点に立ち返り、いつでも音楽を夢見ていた頃の自分に負けないように、自分の立ち位置を気にしているところが、とてもポルノグラフィティらしい。
ポルノグラフィティがどれほど実力をつけようとも、名前が売れようとも、謙虚な姿勢を保ち続けているのは、自分たちの現在地を見失わない実直さがあるからだ。
自分の立ち位置を確認しながら、いつの間にか大切なものを見失っていないか「君」に問いかける姿勢は、今も変わっていない。
ウソのない言葉
----------------
拙い言葉でも チープな音符でも
乾いた雑巾を絞った一雫
湧きたつ泉のような場所 僕にあったなら
綺麗な水で君のこと潤せるのにね
≪一雫 歌詞より抜粋≫
----------------
バンドとして着実に力をつけ、多くの人に指示されるポルノグラフィティ。そんな彼らが紡ぎ出す音を「拙い言葉」や「チープな音符」と表現するところが新藤晴一らしい。
初心を忘れず、自分を戒めることを止めない彼らの姿勢が色濃く反映された歌詞だ。
「乾いた雑巾」という表現が変わっていて面白いが、絞っても絞っても雫の落ちない乾ききった雑巾=なんとか歌詞を絞り出す自分の姿なのだろう。
そんな風にして絞り出した言葉は、いつだって等身大でウソがない。
自分の心や人となりが如実に表れる岡野昭仁と異なり、スタイリッシュで文学的な表現を得意とする新藤晴一だが、2人に共通しているのは等身大の歌詞を書くという点だ。
だからかっこよすぎず、どこか人間くさい。その親しみやすさや、現実を生きる人の目線に立った歌詞が、多くの共感を呼び、聴く人の心を引き付けるのだ。
夢から醒めないために
----------------
夢の中いるには 目を閉じてなきゃ
薄目で周りを見たくもなるが
そのたびに瞑りなおした
冷めた頭じゃここにいれない
≪一雫 歌詞より抜粋≫
----------------
『一雫』には、ポルノグラフィティの楽曲では珍しいラップパートが入っている。
それも、普段はギターに専念している新藤晴一の歌唱だ。ファン必聴のレアなパートだが、歌われている内容は非常に真面目だ。
ポルノグラフィティという夢を見続けるために、今立っているステージが幻にならないために、目を閉じて夢を見続けなければならない。
常に、自分たちの成功を奢ることなく、夢を見させてもらっているというスタンスを崩さない彼ら。
そんな彼らにとって、不安に駆られる時でもぎゅっと目を閉じ、夢の中にい続ける覚悟は必要不可欠なのだ。
----------------
それは瞼の裏の光 遥か青春の日
仄かな温もりが残るよ
時間は距離じゃない
今日も駆け抜けていくよ Winding path
まだ見ぬ明日に続けよ
その羽を大きく広げたままで
この旅路の果てで待ってて
≪一雫 歌詞より抜粋≫
----------------
固く閉ざした瞳の裏で見るものは、2人が出会った高校時代。あの頃思い描いた夢の続きを今もずっと追いかけているのだ。
醒めてしまないように夢の端っこをしっかりと握り、20年という歳月を駆け抜けてきた。
今突き進む道がずっと遠い未来へと続いていくように、その先にも夢の日々が広がっているように。「まだ見ぬ明日に続けよ」とは、そんな彼らの願いを如実に表している。
"これからも振り返ることなく突き進んでいるから"とファンに呼びかけているような歌詞が胸に迫る。
20年という長い歳月を経ても立ち止まることなく夢を見させ続けてくれる彼らだからこそ、ファンは安心してついていくことができるのだ。
ギターで夢を描くという基本スタイル
さらに『一雫』はファン必聴のフレーズが登場する。----------------
ギターはその夢を描くペンで
汚れた手で触れてないかと
今問いかけたらギターはどんな顔をするかな?
≪一雫 歌詞より抜粋≫
----------------
ポルノグラフィティファンならば、このフレーズに胸が震えるだろう。ギターを「夢を描くペン」と表現したのは、先に紹介した『ダイアリー/00/08/26』に登場する以下の部分だ。
----------------
あいかわらずGuitarを離さずにいるんだよ。
それは夢を描くペンでもあったんだし、前からそうだし。
汚れた手でGuitarを触ってはいないかな?
僕の声は君にどんな風に聴こえてる? 響けばいいけど。
≪ダイアリー 00/08/26 歌詞より抜粋≫
----------------
新藤晴一にとって、ギターは音楽の道で食べていくと決めた夢を支える大切な道具だ。まさに「夢を描くペン」で、そんなことは前から変わっていない。
大切な夢を描くペンが汚れていないか?自分にはまだペンを持つ資格があるか?自分をよく知っている「君」に向けた問いかけは、夢を描くペンそのものであるギターに変わった。
デビュー間もない頃に書き上げた楽曲での問いかけが再び甦ることで、新藤晴一の中で、ギターに対する思い、音楽に対する汚れなき思いに変わりがないことがひしひしと伝わってくる。
バンドとして大成した今でも、自分は汚れなき手で、まっすぐな心で夢を奏でられているのか?自分にとって最も近い存在とも言えるギターに問いかけることで、自問自答しているのだ。
20年という歳月を経ても謙虚な姿勢を忘れないポルノグラフィティ。往年のファンならば、彼らが音楽にどれほどの情熱を注いでいるかが分かるだろう。
そして、『ダイアリー/00/08/26』の歌詞を再び登場させた『一雫』に心打たれるのだ。
TEXT 岡野ケイ