野田洋次郎がillionを立ち上げた理由、そこに繋がる「再燃」のワケ
RADWIMPSの野田洋次郎が手掛けるソロプロジェクト、illion。
海外でのリリースも視野に入れたグローバルな音楽活動を展開し、バンドの枠組みを超えた独創的な世界観で根強い人気を誇ります。
2013年発売のアルバム『UBU』に収録されている『GASSHOW』。
実は2019年下半期になって、Spotify急上昇チャートにランクイン。
SNSを中心にシェアされ話題を呼んでおり、再び注目を集めています。
その「再燃」の火付け役となったのが2019年放送の人気アニメ『鬼滅の刃』の映像を使用したファンメイドのMV、いわゆる「MAD動画」です。
シリアスで和風なアニメの世界観と楽曲の世界観がマッチし、動画サイトでは驚異的な再生回数を記録しています。
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猛た波が喰らふは千の意思と万の生きし
御霊と一片の祈り八百万掬い給えと
その裂けた命乞ふ声さへも 海に響く鼓膜なく
今も何処かの海で 絶へず木霊し続けるのだろう
≪GASSHOW 歌詞より抜粋≫
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2011年の東日本大震災とその被害者の方々への想いを込めて作られたというillionが描く「猛た波」や「海に響く」といったキーワードを象徴的に使うこの曲。
想いが強く込められた、野田洋次郎からのメッセージソングとなっています。
震災後も絶え間なく続き、否応なしに幸せな人生を奪っていく自然災害の数々。
目を背けるのではなく、あえて記憶に刻んでいくことが大切なのだと歌っているような力強い歌詞が印象的です。
誰か、じゃない。君かもしれない。
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君の匂いは帰る場所
細い指先は向かう場所
≪GASSHOW 歌詞より抜粋≫
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そして次の瞬間、歌われるのはこちらの一節。
伝統的な日本語表現から現代的な言葉遣いにガラリと雰囲気を変え、ふと日常的な感覚を取り戻すような場面の転換は非常に鮮烈です。
災害は、突然襲ってきます。
誰しもがその瞬間まで、普段の生活を送り、明日もまた同じような一日がやってくるのだと考えて生きています。
突然現れる「君の匂い」というワード。
テレビの向こうの中継映像ではなく自分自身、そしてあなたが大切に思う誰かが当事者になるかもしれない。
そんな恐ろしさ、やるせなさをどこか感じさせる、胸を打つ表現です。
「GASSHOW」が伝えたいメッセージは、今を生きるあなたへの願い
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はじめてだよ 跡形も無い君に
声を振るわせ 届けと願うのは
≪GASSHOW 歌詞より抜粋≫
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日々何事もなく生活を続けていけるという、当たり前の幸せをもう一度噛み締めて生きるということ。
また災害を恐れるだけでなく、その記憶を風化させることなく語り継いでいくこと。
それこそが我々にできる唯一かつ最大の努力なのだ、と語りかけているような重厚な歌詞。
最後の一節にも、姿を消してしまった「君」に対する悲痛な叫びが歌われています。
『GASSHOW』が持つテーマの普遍性。
誰しもが意識を持ち続けなければならないという、非常に大切な考え方をもう一度音楽というフィールドで打ち出しています。
毎日を生きる私たちに静かに響く、野田洋次郎ならではの真摯なメッセージを描いた楽曲だからこそ、発売から時間が経ってもなお聴き継がれる名曲のひとつとなっているのです。
TEXT ヨギ イチロウ