知的な歌詞が魅力の桜ソング
アーバンギャルドの2014年の曲『さくらメメント』。春らしいPOPな曲です。
アーバンギャルドはトラウマテクノポップバンド。アバンギャルド(前衛)とアーバン(都市)をかけたグループ名からもうかがえるように、知的で凝った歌詞が特徴。
この曲では作詞作曲をフロントマンである松永天馬が担当し、メインボーカルを浜崎容子が担当しています。
タイトルからしてサクラメント、さくら、メメントモリがかかっています。
松永天馬の膨大な知識の片鱗が見えるタイトル。サクラメントはキリスト教の宗教儀式。メメントモリはラテン語で「いつか必ず死ぬことを忘れるな」「死を想え」を意味する言葉。
さくらメメント
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さくらさくらに恋して咲いて されどされども破れて散って
さくらさくらにサクラメント されどメメントできないの
≪さくらメメント 歌詞より抜粋≫
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冒頭からタイトルを歌っています。日本人は桜の季節に宗教儀式かのように恋をし、そして散っていく。
その恋は表層的で、死を想うこともない。死を想うとは死のうと思うことではなく、死を想像して日々生きるということ。
桜の季節に鬱になる人が多いのも、そういった儀式のような恋愛が問題なのではないかと指摘しているのです。
「美しい国」ならぬ「鬱くるしい国」である日本。アーバンギャルドは、美しい国をかかげている日本が大変な鬱をかかえていることを指摘します。
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お箸の国のレディは 林檎三個分最古PASS
≪さくらメメント 歌詞より抜粋≫
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このあたりは、ある特定の日本人女性像を歌っています。「林檎三個分」はキテちゃんの身長。いわゆるサンリオキャラの象徴ですね。お箸をきちんと使えるようなレディであっても、サンリオのキャラを愛でる。
そしてサイコパス=平気で嘘をつき、相手の気持ちを考えない人間になる。サイコパスをわざわざ「最古PASS」の当て字にしています。最古の文化も歴史もパスして素通りしてしまうような現代人の意味も込めているんですね。
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萌えのいづる国の 戦争はスーサイド
三万人のヒステリア ボカロのボレロでおどれ
≪さくらメメント 歌詞より抜粋≫
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例えばこのフレーズだけで自殺者三万人の日本を風刺しています。スーサイドは自殺ですね。日本の戦争とは自殺であると言っています。「三万人のヒステリア」は毎年三万人がヒステリー=病的な興奮で自ら命を絶つこと。
ボレロは、ここではスペインの伝統舞曲。ボーカロイドのボレロで踊るかのように病的な興奮におちていく様を歌っています。決してボカロやボレロを批判しているわけではありません。
サビでは「さくら咲くなんて」「さくら咲かないで」を繰り返します。こんな鬱になるような国では桜など咲かないで欲しい、春など来ないで欲しいと歌っている歌詞。
「はるはあけぼの」「あさきゆめみし」などの古語も交えています。鬱の日本を憂いながらも、そんな日本が好きであること、そんな日本にこだわっていることが伝わってきます。
日本の問題をPOPに歌う
メメントモリを入れ込んでいるように、まさに聴く者に「死を想う」かのごとく「詞を想う」=歌詞を想像させる曲。まさに日本のトラウマをPOPな曲にのせて歌っているんですね。
●さくらメメント / MV
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)