手紙のような歌詞
2018年に投稿された『flos』は『帝国少女』などを制作したボカロPのR Sound Designの楽曲です。そのシンプルながら類を見ないおしゃれな雰囲気のMVで、さまざなな人を虜にし、100万回再生を達成。今でも再生数を伸ばし続けています。
そんな他のボカロ曲とは、一線を画すような雰囲気を放つ『flos』の歌詞を男性視点と仮定して見ていきましょう。
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拝啓
僕の願いよ 未来よ 絶え間無い後悔よ
体感八度五分の夢は軈て散ってしまった
≪flos 歌詞より抜粋≫
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「拝啓」と手紙のように始まります。どうやら誰かに伝えたい想いを歌っているようです。
彼にはなにかずっと後悔していることがありました。
体感八度五分は体温を指していて、熱に浮かされる中、後悔が付きまとう夢を見ます。
しかし、目が覚めるとその夢の内容は思い出せません。
再啓に込められた意味と居なくなった君
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再啓
君の想いは 憂いは 回る感情論は
半径八十五分の世界に囚われた儘
本音を挿し罅割れた今日を溢れた一切に
薪を焼べて風に乗せて錆びた空を彩る
≪flos 歌詞より抜粋≫
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「再啓」は手紙の返事が無かった際に使われる頭語です。彼が想いを伝えたい「君」は彼には応えてはくれないようです。
「想い」は「思い」とは違い、思慕を抱いているときに使われることから、ふたりは大事に想いあっていたのでしょう。
半径八十五分は、人が両手を広げたときの範囲である85cmを表します。君との思い出や現状に対して抱えた行き場の無い想いが自分の中を巡り続けているようです。
そんな中「罅割れた」のは自分自身の心であり、堪えきれなくなって涙を流しているのかもしれません。
前の歌詞からも分かるように、君とは恋人のことでしょう。しかし、ただ別れたのではなく、死に別れてしまったのではないでしょうか。
そうすると「薪」は線香を指していると考えられますね。火をつけた線香から昇る煙が、夕日で錆のように赤く染まった空に消えていくのが想像できます。
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燻んだ日々を丁寧に
飾った花は直ぐに枯れてく
愚鈍な僕は夢から覚めて
縋った意味も無いな
≪flos 歌詞より抜粋≫
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君が事切れ、行き場を無くした感情を抱えながら日々を送ります。君への感情をどうにか伝えようとしても、もう伝えることができません。
ただ時間だけが過ぎ、彼の中に残り燻ぶる君への思慕は、花が枯れていくように薄れていきます。
君が居たことも全て夢だったかのように感じてしまいます。
花と共に綴られる手紙は未来の後悔から彼を救う
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不毛な日々を丁寧に
綴った紙に花を描いた
不遇な僕ら夢に敗れて
誓った筈も無かった事にした
≪flos 歌詞より抜粋≫
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花はいつか枯れてしまいます。しかし彼は自分の想いとそれを花に例えたものを紙に綴り、永遠に枯れない花にしたのでしょう。
それを裏付けるように、歌に登場している花のほとんどが愛や恋、永遠を意味する花言葉を持っています。
悲しさは時が経つにつれて薄れていってしまう。思い出や想いもそうで、彼がいくら君を想っていようと、時はそれを容赦なく消し去ろうとしてきます。
しかし紙に綴ることで、自分で見返して思い出すことが出来ます。
彼の場合は君への想いを手紙にすることで、君にも届いているかもしれないと思ったのかもしれません。
きっと彼の後悔は、君との思い出や想いを思い出せなくなっていったことだったのかもしれませんね。
2人で夢見た未来も、君と誓った将来ももう叶わないけれど、君との思い出も、君への想いも全て花と共に書き綴っていく。
きっとそれは死別の悲しみが消えても、君の全ては彼の中で薄れることなく大事な記憶として残り続けるでしょう。
TEXT Noah