代表曲『風になりたい』
THE BOOMの『風になりたい』 は、このバンドの代表曲の一つ。1995年発表の曲です。THE BOOMは80年代から活躍していたバンド。代表曲には『島唄』があり、沖縄民謡のメロディを取り入れ人気を得ました。作詞作曲の宮沢和史は山梨県出身。沖縄出身ではありませんが、民族音楽に強いこだわりを持つ人物。バンドでブラジル公演など海外公演も積極的におこなっていました。この『風になりたい』は、海を越えて有名になった曲です。もともとの曲が民族音楽っぽいアレンジ。日本のサンバを作りたいというコンセプトで生まれています。パーカッションが効果的に使われている楽曲。
「風になる」って?
ミュージックビデオでは宮沢和史を中心としたメンバーと楽器を持った人々が、楽器を演奏しながら街を練り歩きます。民族音楽的なアプローチが強いですが、MVではあえて都会で演奏しています。都会の中でも風になれる瞬間はある、というメッセージを込めているんですね。この「風になる」というのはどういうことでしょうか?風になりたい 歌詞¦THE BOOM
“生まれてきたことを 幸せに感じる”
歌詞に隠された工夫
「何ひとついいことなかったこの町に」という厳しい現実を表す歌詞。「町」の漢字を使い、どこかの小さい町を表現しています。これにより、都会だけではない世界のどこかの小さい町の物語として歌詞をとらえることができる工夫。それでも「生まれてきたことを幸せに感じる」というフレーズが良いです。厳しい現実を自覚しつつも、かなり前向きな歌なんですね。曲のサンバのリズムが生きることを肯定させてくれます。
マンガ『神様の言うとおり弐』でも引用
この曲は漫画『神様の言うとおり弐』で引用されています。この漫画は実写映画化もされたサバイバルサスペンス。生死が関わるゲームを生き残ったメンバーがこの『風になりたい』を歌う場面があるのです。一旦はゲームを生き残ったものの、すぐ次の試練が与えられる展開。主人公たちはそんな状況から自由になりたいと願います。この曲が歌われる場面は、そんな登場人物の思いが込められています。「風になりたい」とは「自由になりたい」意味。そして、この漫画が人気作であることが象徴しているように、現代社会はかくも自由になりにくくなっているのです。
あなたに会えた幸せ 感じて風になりたい”
社会問題を歌に。
「天国じゃなくても楽園じゃなくても」と歌う歌詞。現実を受け入れつつ風になりたいという願望を歌っています。こういった歌詞も良いですね。生きていくうちにはつらいことが多いです。この世が天国だとは誰も思えません。THE BOOMは社会問題を反映させた曲もあります。この曲が生まれた90年代初頭はバブル崩壊の時期。そこから日本はずっと不況です。近年はますます貧困が問題になっています。先進国と言われ安全だと言われている日本ですら、もう天国でも楽園でもない。そんな悲しい現実を自覚しつつも、だからこそ風になる。自由になる思いが込められているこの曲は、今の時代にこそハマっていると言えます。
名曲は歌い継がれる
2014年12月にこのバンドは惜しまれつつも解散していますが、それでも良い曲は残り続けます。この曲は今後もずっと歌い継がれ、世界中で口ずさまれるでしょう。TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)