夏に届いた「ギフト」
ポルノグラフィティの『ギフト』は、25枚目のシングルで、2008年8月20日に発売されました。
クリスマス風のジャケットデザインでありながら、曲の内容はまったくクリスマスとは関係ありません。
MVでは、撮影のためにフィンランドを訪れ、現地の街中を歩く姿や、森の中、サンタクロースと共に歌う姿が収められています。
そう考えると、ジャケットにサンタクロースが登場する意味が分かりますね。
作り込まれた世界観はあまりなく、ドキュメンタリーのような空気感もあるので、その点にも注目して見ると一層楽しめるのではないでしょうか。
生まれながらに持っている才能=ギフト
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生まれながらの才能のことを神様からのギフトと人は
呼ぶらしいけれど僕のはちっちゃい箱だな
リボンもなくて色だって地味で みすぼらしいその箱が
なんか恥ずかしく後ろ手に隠していた
≪ギフト 歌詞より抜粋≫
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『ギフト』は、作詞を新藤晴一、作曲を岡野昭仁が手がけました。
人が生まれ持った才能を「ギフト」と表現するところに新藤晴一らしいセンスが光っています。
野球選手やファッションモデル、俳優といった、世の中には人が羨む才能に恵まれた人がたくさんいます。
自分に与えられた生まれ持った才能という名の「ギフト」は冴えなかった。
そんな思いをしている人は少なくないでしょう。
きっと世の中の多くの人が、自分の才能に満足していなかったり、他人の成功を羨んだりした経験を持っているのではないかと思います。
「リボンもなくて色だって地味でみすぼらしいその箱がなんか恥ずかしく後ろ手に隠していた」
という歌詞の通り、等しく才能を持って生まれてくるのだとしたら、自分だけ劣っているように思えて恥ずかしく感じることもあるでしょう。
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最初に空を飛んだ鳥は翼を広げた格好で
どのくらい助走をつけて地面を蹴ったんだろう
≪ギフト 歌詞より抜粋≫
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初めて空に羽ばたいた鳥に思いを馳せるのは、夢に向かって羽ばたこうと藻掻いているからでしょうか。
飛び方を知らないまま、初めて空を飛んだであろう鳥に、羽ばたき方を聞きたいのかもしれません。
現状から抜け出す方法を知りたいという切実な願いです。
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自問自答きっとそこには答えがないことを
意外と前に気付いてたかも 悩んでる自分に酔っていた
明日に架かる橋はもろくも崩れそうで
今行かなくちゃ 駆け抜けなくちゃ 心さえ軽やかに行けたら
≪ギフト 歌詞より抜粋≫
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あれやこれやと考えて自分に酔っていることに気づいていながら、前に進めない。
そんな焦りと自己嫌悪が滲んだ歌詞です。
このままではいけないと気づきながら、一歩が踏み出せないのは苦しいものです。
「今行かなくちゃ駆け抜けなくちゃ」という歌詞に、自分を奮い立たせようという強い思いが感じられます。
自分を信じてみるということ
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どこかで僕を悪く言う声 耳を塞いでやりすごしてた
それでも聞こえる なんだ自分の声じゃないか
夢に重さはないんだけれど言い訳ばかりなすりつけて
やっかいなものを背負っている気になってる
≪ギフト 歌詞より抜粋≫
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“誰かが自分の悪口を言っているような気がする”
そんな風に感じて不安になることはあるのものですが、皮肉なのはその声が自分だった、という点です。
結局、自分を苦しめているのも縛っているのも自分自身。
本当はたいそうな夢でもないのに、勝手に大変なものを背負い込んだ気になっている自分に辟易としたのでしょう。
自分は大変だと思い込むことで、頑張りを美化したり、いざという時の逃げ道を作ったりできるかもしれません。
そうやって逃げたいのも人間らしい感情です。
しかし、逃げてばかりでは何もできないのも事実。
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鳴り止まぬ歓声を浴びる人は遠い世界さ どうせ
どうせ自分なんかって思う その度にギフトが
少しは自分にも期待してみたらどう?って
意外にうまく跳び出せるかも 想像よりもやれるかも
信じてみることが甘いかどうかなんてさ
自分の舌で舐めてみなけりゃ がっつり噛みつかなきゃ分かんない
≪ギフト 歌詞より抜粋≫
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脚光を浴びる人を見て「どうせ」と嫉妬したり諦めたりするのは簡単です。
“どうせみすぼらしいギフトしか持ってないから”
そうやって言い訳する度に、自分のギフトが言うのです。
「少しは自分にも期待してみたらどう?」
この歌詞は、まるでもう一人の自分に言われたかのように刺さります。
夢に消極的な人ほど刺さるのではないでしょうか。
自分の才能がダメだと決めつけているうちは、何事も上手くいきません。
まずは藻掻いてみて、全力でぶつかってみなければ、分からないこともたくさんあるはずです。
「信じてみることが甘いかどうかなんてさ自分の舌で舐めてみなけりゃがっつり噛みつかなきゃ分かんない」
非常に前向きで、ぐっと背中を押してくれる一言です。
“周りが何と言おうと、自分が納得するまでぶつかってみればいい”
それは、音楽の世界を夢見て上京し、苦い思いをしながらも藻掻いてきたポルノグラフィティだからこそ言える言葉なのでしょう。
そして、有言実行してきた人にしか言えない言葉でもあるのです。
誰しも、自分だけの才能を持っている
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月夜に浮かぶ街のシルエット 真っ黒な壁のようにそびえ
呑み込まれないうちにそっと人知れず 抜け出してみせる
威風堂々ぎゅっと胸にギフトを抱いたままで
箱の中身が飛び出す時を 今や遅しと待っている
明日に架かる橋はもろくも崩れそう
今行かなくちゃ 駆け抜けなくちゃ 心さえ軽やかに行けたら
≪ギフト 歌詞より抜粋≫
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「呑み込まれないうちにそっと人知れず抜け出してみせる」という歌詞からは、”ようやく湧いてきた自信が揺らがないうちに”というメッセージにも受け取れます。
みすぼらしいギフトでも、自分の才能を信じて進むこと。
ようやく芽生えた小さな自信は、きっとほんの少しの出来事で揺らいでしまいます。
だからこそ、夜の闇に呑み込まれないうちに突き進むのです。
胸に抱いたギフトがどれだけ小さなものでも、自分だけの、かけがえのないものだということ。
それが分かれば、誰でも夢を掴みに行く力はきっと持っているのです。
ポルノグラフィティは、それを「ギフト」と呼び、聴く人の心に呼びかけているのかもしれません。
未来はいつだって先の読めないもの。壊れそうな架け橋と同じです。
でもだからこそ、まっすぐに、勢いよく駆け抜けなくては。
そう思わせてくれる曲です。
“自分も、諦めないで頑張ってみようか”
そう思える人が一人でも増えたら、ポルノグラフィティの『ギフト』は届いているのでしょう。
TEXT 岡野ケイ