バレたくないから歌わない本心
2020年8月5日、ずっと真夜中でいいのに。が3枚目のミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』をリリースしました。
それに先駆けて、7月13日にはアルバムの収録曲である『MILABO』のMVが公開。
『お勉強しといてよ』などと共に、ストリーミングサービスでも先行配信されていたこの曲は、ファンの間では様々な考察や歌詞の解釈が囁かれています。
ずとまよのメンバーであるACAねがTwitterにて『MILABO』について、「近頃のじぶんを歌った」と発言していることから考えると、この曲は単純なラブソングや片思いについて歌った曲ではないことが推測できます。
であれば、『MILABO』は何について歌った曲なのか気になりますよね。
そんな疑問を『MILABO』の歌詞から考察していきます!
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BOW
バレたくはないから 歌わないけど
想ってないとかじゃないの
いつも御別ればかり 考える人生も
積極的に嬉しいから
≪MILABO 歌詞より抜粋≫
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アーティストがメッセージを歌に昇華する行為は、己の中身をさらけ出す行為と言えるでしょう。
自身の中にある葛藤や弱い部分を歌詞にする。それを聴いた人がアーティストに共感する。この関係性が今の“音楽”の在り方を支えています。
そんな中でも、きっと恥ずかしいことや人には見せたくない裏側も彼らの中にはあるはずなのです。
数々の「御別れ」を経験してきた。そして、その別れを決して軽視しているわけじゃない。「御別れ」という行為は、心が大きく揺れ動くイベントです。
自分の心の中にあるものを歌詞にして昇華するアーティストという存在だからこそ、「御別れ」について「積極的に嬉しい」と表現しているのかもしれません。
でも一般的に「御別れ」を嬉しいなんて言ったら、異常に思われてしまいますよね。だから「バレたくないから歌わない」のではないでしょうか。
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会えばきっと足りなくて
会話の切れ端まで 歌詞で覚えるの
向いてくる
引っ付く横長の目 鬱陶しいけど
逃げる準備に疲れたわ
≪MILABO 歌詞より抜粋≫
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この部分の歌詞は、片思いの恋心を歌ったような表現が重なっています。
では、この片思いの対象は誰なのか。ここではそれについて考察していきましょう。
ACAねの「近頃のじぶんを歌った」曲である『MILABO』。
そう公言するということは『MILABO』はACAねのパーソナルな内面を歌ったのものではなく、この楽曲を発表することで、“みんなに知って欲しい近頃のじぶん”があるのではないでしょうか。
「バレたくないから歌ってこなかったけれど、思ってないとかじゃない」片思いの対象。それを、“音楽”だと推測して続きの歌詞を考察します。
“音楽”が好きで好きでたまらないから、“音楽”で生きていこうと決意する。アーティストという人間は、そういう存在なのではないでしょうか。
そんな彼ら、ACAねが抱く“音楽”への憧憬、そして決意が描かれているのが『MILABO』なのでしょう。
歌ったり楽器を鳴らしたりしている間はただ楽しくて、もっと近づきたくて。
そんな思いを曲に昇華していく行為が作曲なのかもしれません。
そんな内向的な楽しみから始まった行為だとしても、音楽活動は他者からの応援がなければ成立しません。
周りにどう見られるか、どう評価されるか。そんなことを考えて、環境に整えられた音楽を作っていくことにも「疲れた」と『MILABO』では紡がれているのでしょう。
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あなたに幾度も 触れたって
大体ちょっとだけ 頓知
空回りの本心 隠せちゃう
≪MILABO 歌詞より抜粋≫
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“音楽”には答えはありません。
算数のようにイコールの先に答えがないから、どれだけずっと音楽と向き合っていたとしても、そのすべてを知ることはできないのかもしれません。
自分の内面や葛藤を歌詞にして音楽に乗せていく中で、「頓知」を利かせてしまえばそんな葛藤も隠せてしまいます。
ハッピーな永遠歌に込めるのは…
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どう思っているとか
伝えるのが 恥ずかしいんじゃなくて
ハッピーな永遠歌~
告げそうになるから 控えさせてね それだけ
またすぐ否定的になってしまうけど
≪MILABO 歌詞より抜粋≫
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自分たちの活動の在り方、今後についてを歌詞に乗せてストレートに伝えることで感動的な楽曲が生まれることは往々にあります。
しかし『MILABO』では、そういった自分たちの根幹である部分を伝えるよりも、聴いた人を含め自分たちが「ハッピー」になることを大切にしているのでしょう。
これまでのずとまよの楽曲は、世の中に対する疑問や、現代を生きる人が抱えている葛藤など、人間が持つ弱さや苦しさにフォーカスした作品が多かったように感じます。
そんな中で、ずとまよと音楽の関わり方を歌った『MILABO』は「ハッピーな永遠歌」というように、ポジティブな感情で溢れています。
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もしこの世の歌を 書き終えても
あなたに振り向いて欲しい 最後の歌~
誰かのまつげと 草臥れたリスケ
夜は長くて 酔うのに必死ね
≪MILABO 歌詞より抜粋≫
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自分の中にある感情を全て歌詞に描くと、最後に残るのは“音楽”が好きだという気持ちである。
真夜中にパソコンに向かって曲を作ったり、イヤホンで好きな音楽を聴いたり、その全ての経験でアーティストは音楽を作れるのではないでしょうか。
楽しい!好き!という一途な気持ちで生きていくのは、ある意味「酔い」とも言えるかもしれません。
これは、『ずっと真夜中でいいのに。』という名前の意味にも繋がってくるような気がしますね。
ずとまよの決意表明がここに
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あたしのこと知らないで 因果応報叱らないで
あたしのこと知らないで 因果応報叱らないで
あたしのこと識らないで 因果応報叱らないで
私のこと嫌わないで
≪MILABO 歌詞より抜粋≫
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「知る」と「識る」には意味として大きな違いがあります。
「知る」は単に見た、触れただけのもので、すぐに忘れ去ってしまう可能性があります。
しかし「識る」は一時的な記憶ではなく、脳に刻まれて培われていく意味があるのです。
「しらないで」と告げている対象が“音楽”なのであれば、これはどういう意味があるのでしょうか?考えていきましょう。
これまで登場した歌詞の中でも、「バレたくないから歌わない」や「いつも御別ればかり考える人生も積極的に嬉しい」など、後ろめたさを抱えながらその本心を隠して音楽と付き合ってきた在り方が描かれています。
そんなあたしの後ろめたさを「しらないで」。
知って(識って)しまったら、その誠実でない付き合い方に報いが訪れそうだから。
この部分の歌詞からは、そんなメッセージを読み取ることができます。
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もっと 仕草に揺れて 抑えきれないほどに
リズムが泣きゃ 話も味っけない
ミラーボール怖がって アコギ持ち替えたら
まだ 恥ずかしく踊れるから
≪MILABO 歌詞より抜粋≫
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音楽に体をまかせて、自分の体でリズムを刻む。どんなにメッセージが秀逸でも、リズムがハッピーでなければ、音楽は魅力的に響きません。
ミラーボールは、基本的にはクラブやステージなどの大勢の人が集まるところにありますよね。
真夜中に一人で音楽を聴いたり作ったりしていたずとまよにとっては、そんな巨大な無機物であるミラーボールは「怖い」対象なのかもしれません。
また、クラブは自分でない誰かが作った曲で踊る場所、そういった意味でもずとまよが言う“真夜中”の意味とは少し違ってくるかもしれませんね。
ミラーボールではなく、アコギを持つ。その意味は、あるがままの自分で自分の音を奏ていく。
そんな決意が表れる歌詞になっています。
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ずっと 浅はかです 帰りたくないけれど
言わないで もう身体に鳴れない
変わってゆくから 私ねもっと
寝ぇ 見届けて 欲しがりでも zz
≪MILABO 歌詞より抜粋≫
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「すぐ否定的になってしまうけど」とあった通りに、どれだけハッピーなリズムとメロディに乗っても、『MILABO』では時々ネガティブな感情が顔を覗かせます。
それでも、「変わっていくから」とハッキリと決意できるのは、“音楽”への愛と憧憬が為せる業なのではないでしょうか。
音楽が好きで、欲しがってしまうからもっと奏ていく。
そんな決意表明がミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』の一番最後に収録されていることには、大きな意味があるのではないでしょうか。
TEXT DĀ
ずっと真夜中でいいのに。は作詞・作曲・ボーカルのACAねによる、特定の形をもたない音楽バンド。 YouTubeチャンネル登録数175万人を超え、YouTubeの総再生回数は4.2億回、初投稿楽曲「秒針を噛む」は現在9,500万回再生を突破。 1st mini ALBUM『正しい偽りからの起床』は第11回CDショップ大···