楽曲のテーマは「死生観」
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あなたは夕日に溶けて
わたしは夜明に消えて
もう二度と 交わらないのなら
それが運命だね
あなたは灯ともして
わたしは光もとめて
怖くはない 失うものなどない
最初から何も持ってない
≪帰ろう 歌詞より抜粋≫
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こちらは藤井風『帰ろう』の冒頭の歌詞です。
一見すると恋人との別れについて歌っているようにも思いますが、本人曰く楽曲のテーマは「死生観」。
それを踏まえてもう一度冒頭の歌詞をみて見ると、対極する2つの存在に気づきます。
まず一つは夜へと向かう時間を表す「夕日」と、朝へと向かう時間を表す「夜明」。
もう一つが光を放つ「灯ともして」と、その光を探す「光もとめて」です。
この二つは相反するもの。
朝と夜、光と闇は決して交わることはありません。
つまりこれらは「永遠の別れ」、すなわち「死別」を表しているものと考えられます。
ちなみに、楽曲の主人公は「生」の立場にある人物ではなく「死」を迎えた方の人物。
冒頭では明らかになりませんが、後半にかけて徐々に明らかになっていきます。
「死」は消えてなくなることではない
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それじゃ それじゃ またね
少年の瞳は汚れ
5時の鐘は鳴り響けど もう聞こえない
それじゃ それじゃ まるで
全部 終わったみたいだね
大間違い 先は長い 忘れないから
≪帰ろう 歌詞より抜粋≫
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子供の頃は様々なことに対して純粋な気持ちでいられるものの、大人になると私利私欲が混ざって純粋に向き合うことができなくなることがありますよね。
「少年の瞳は汚れ」という歌詞は「大人になった」ということ、つまり時の経過を意味しているのではないでしょうか。
続く「5時の鐘が聞こえない」という歌詞は、もうこの世にいないことを表しているのかもしれませんね。
子供から大人になり、そして死を迎える。
しかし、後半部分では「終わりではない」と歌われています。
一体どういうことなのか、サビの歌詞をみてみましょう。
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ああ 全て忘れて帰ろう
ああ 全て流して帰ろう
あの傷は疼けど この渇き癒えねど
もうどうでもいいの 吹き飛ばそう
さわやかな風と帰ろう
やさしく降る雨と帰ろう
憎みあいの果てに何が生まれるの
わたし、わたしが先に 忘れよう
≪帰ろう 歌詞より抜粋≫
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タイトルでもある「帰ろう」という言葉がここで登場します。
「死」は消えて無くなることではなく、もともといた場所に「帰る」こと。
帰る場所が天国なのか、それとも別の世界なのかはわかりません。
でも、帰った先でまた新たな1ページが始まるようです。
それを裏付けるように、楽曲の最後は次のようなフレーズで締めくくられます。
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あぁ今日からどう生きてこう
≪帰ろう 歌詞より抜粋≫
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大切な人との死別はとても悲しいものです。
胸の痛みは深く、癒えるまでに長い時間がかかるでしょう。
しかし、亡くなった人にとって「死」は故郷に帰るようなものであり、新たなスタートでもあるのかもしれませんね。
そう思うと、残された私たちも少しだけ気持ちが軽くなりそうです。
心に刻みたいメッセージ
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あなたは弱音を吐いて
わたしは未練こぼして
最後くらい 神様でいさせて
だって これじゃ人間だ
≪帰ろう 歌詞より抜粋≫
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こちらは2番の歌詞。
残された側は「辛い」「寂しい」と弱音を吐き、亡くなった人は「もっと生きたかった」と未練をこぼしているのかもしれませんね。
このあたりから、楽曲の視点が亡くなった人のものであるということが明らかになります。
特に次の歌詞に注目してみましょう。
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わたしのいない世界を
上から眺めていても
何一つ 変わらず回るから
少し背中が軽くなった
≪帰ろう 歌詞より抜粋≫
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あの世から現世を眺めている。
つまり主人公は亡くなった人であることがハッキリします。
そして、変わらない日常に安堵を覚えた主人公は次のような思いとともに旅立ちます。
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それじゃ それじゃ またね
国道沿い前で別れ
続く町の喧騒 後目に一人行く
ください ください ばっかで
何も あげられなかったね
生きてきた 意味なんか 分からないまま
≪帰ろう 歌詞より抜粋≫
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「求めるばかりで与えることができなかった」という後半の3行は、生死に関係なく胸に響くメッセージです。
続く最後のサビで歌われるメッセージにも注目してみましょう。
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ああ 全て与えて帰ろう
ああ 何も持たずに帰ろう
与えられるものこそ 与えられたもの
ありがとう、って胸をはろう
待ってるからさ、もう帰ろう
幸せ絶えぬ場所、帰ろう
去り際の時に 何が持っていけるの
一つ一つ 荷物 手放そう
憎み合いの果てに何が生まれるの
わたし、わたしが先に 忘れよう
≪帰ろう 歌詞より抜粋≫
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「人から与えられたものは、自分も誰かに与えることができる」なんて素晴らしいですね。
亡くなるときは、何も持っていけません。
だからその前に大切な人に与えていく。
まだまだ人生は続きますが、今のうちから心に刻んでおきたいメッセージですね。
また、最後の歌詞も感動的。
「憎み合い」ということはきっと恨みや怒りがあったのでしょう。
しかし、相手を「許す」のではなく、その恨みや怒りを「忘れよう」とする部分に深い愛を感じます。
こちらも今のうちから心がけておきたいですね。
それにしても、20代前半にしてこんなに素晴らしい世界観を描き出す『藤井風』は本当に秀逸な存在。
今後の彼はどんな楽曲を生み出していくのか、活躍に注目しましょう。
TEXT ゆとりーな