心の痛みから出会いの幸せを感じるバラード
人の心に寄り添う繊細な歌声で注目される絶望系アニソンシンガー・ReoNa。
彼女が歌う『虹の彼方に』は、2019年2月6日に発売された2ndシングル『forget-me-not』のカップリング曲です。
作詞をハヤシケイ、作曲を毛蟹が担当しており、テレビアニメ『ソード・アート・オンライン アリシゼーション』の挿入歌に起用されています。
グリム童話『オズの魔法使い』になぞらえて綴られた歌詞と、ReoNaの語りかけるような歌声が心に沁みる楽曲です。
複雑で深い歌詞の内容と意味を見ていきましょう。
----------------
ひたひた零れる 赤い赤い錆色
わたしは煤けたブリキのひと
空っぽの身体に トクン トクン 脈打つ
あなたが悪い魔法を解いたのでしょう
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
はじめに出てくるのは、心を求めていた「ブリキのひと」です。
身体に脈々と血が通うように、生きていることを噛みしめている様子がうかがえますね。
魔法によって何も感じなくなっていた心にも、人を想う心が蘇っています。
----------------
おやすみ また逢える日まで
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
彼は元の世界へ帰って行った主人公・ドロシーと「また逢える日」を待っているようです。
眠りは一時的な終わりを意味していますが、その胸には再会という希望があります。
----------------
ずっと ずっと 穴の空いていた胸が
いまはこんなに痛いよ 痛いよ
深く 深く あなたが残した
この痛みが心なんだね
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
これまで「穴が空いていた胸」では、喜びも悲しみも感じませんでしたが、今では別れによって悲しみが襲ってくるようになりました。
とてもつらい感情ですが、その胸の痛みがあるからこそ心があることを実感できます。
それは同時に、自身を救ってくれた人がいるという事実を再確認できる幸せな痛みでもあるでしょう。
勇気の本当の意味とは
----------------
ふわふわ たてがみ 臆病風になびく
あなたがわたしを弱くしたの
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
次に登場するのは、勇気を欲していた「ふわふわ たてがみ」のライオン。
彼女と出会う前から臆病だったはずの彼ですが、ここでは「あなたがわたしを弱くしたの」とあります。
まるで彼女との出会いを後悔しているようなこのフレーズには、どんな意味が込められているのでしょうか?
----------------
時間は足早 心は裏腹
手を振り笑うけど 脚は震える
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
旅を終え、自身の中に勇気があることに気づいたライオンですが、彼女を見送る彼の姿は「手を振り笑うけど 脚は震える」と綴られています。
周りに悟られないように表情や振る舞いだけは明るくしているものの、震える脚だけは正直です。
----------------
ずっと ずっと 強がっていただけだ
本当は ねえ 怖いよ 怖いよ
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
勇気を持っていても、彼はただ「強がっていただけ」でした。
内心は怖くてたまらないのに、強くあろうとして自身の気持ちを押し殺していたのです。
----------------
だけど行くよ あなたがくれたのは
弱さ見せない勇気なんかじゃない
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
しかし彼は、恐れを抱きながらも勇気を胸に前に進むことを決意します。
勇気がある人と聞くと何にも動じない強い人のように考えがちですが、実際は違います。
「弱さ見せない勇気なんかじゃない」とあるように、自身の弱さを理解しつつ、それでも誰かのためになりたいと行動できる人が本当の意味で強い人です。
つまり「あなたがわたしを弱くしたの」というフレーズは、彼が自身の弱さを認めることができた証なのです。
悲しくても希望があれば前を向ける
----------------
弱さ見せない勇気なんかじゃない
何も見えない 聞こえもしない
物言わない案山子のままいられたら
この疼きも 何もかも 知らずに済んだはずなのに
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
最後は、考える脳を欲しがっていた「案山子」が登場します。
何もできない「案山子のまま」でいるということは、裏を返せば悲しまなくていいということでもありますね。
脳と心は密接に結び付いています。
ここで挙げられている「疼き」は脳を介した心の疼きでしょう。
仲間たちと過ごした過酷でも楽しい旅は、終わりを迎えると彼に寂しさを感じさせてしまいました。
考える脳を持つことで、つらい感情を抱くことを彼は知ります。
----------------
ずっと ずっと 凍てついていた胸が
溶け出して ああ 痛いよ 痛いよ
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
孤独だった彼に、彼女は人の温もりを与えました。
「ああ 痛いよ」というフレーズは「会いたいよ」とも聞こえますよね。
一度温もりを知ったからこそ、生まれた寂しさは余計に募っていきます。
----------------
でもね 行くよ たどり着く場所が
虹の彼方じゃなくたって
いいんだ きっと また逢えるから
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
「虹の彼方」とは『オズの魔法使い』の作中で、悩みのない夢が叶う場所として登場します。
このことから、たとえ前進した先で彼女に再会できなくても大丈夫という意味が込められているのでしょう。
「きっと また逢える」という希望と確信があるので、すぐには逢えなくても彼は前向きでいられるのです。
----------------
また逢えるまで ねえ おやすみ
≪虹の彼方に 歌詞より抜粋≫
----------------
苦しみや悲しみは簡単に終わるものではないでしょう。
しかし夜に眠ればまた朝が来るように、悲しみの先にはきっと喜びが待っているというメッセージが感じられます。
それぞれ悩みを抱えていた彼らが前向きになれたのは、力を分けてくれる人と出会えたからです。
現実でも誰しも弱さを抱えていますが、その弱さを認め助けてくれる存在が必ずいます。
自分を支えてくれた人への寂しくも前向きな想いが伝わってくる素敵な歌詞ですよね。
ReoNaの『虹の彼方に』を聴けば、きっと大切な人に会いたくなりますよ。
TEXT MarSali