映画『竜とそばかすの姫』主題歌はインターネットの世界を描く
細田守監督の映画『竜とそばかすの姫』のメインテーマとして制作され、2021年7月12日に配信リリースされたシングル『U』。
音楽を常田大希率いるmillennium parade(ミレニアム パレード)が、歌唱を映画内で主人公・すずとアバターのBelle(ベル)の声を演じる中村佳穂が担当しています。
『竜とそばかすの姫』で描かれるのは、50億人以上のユーザーたちが集うインターネット仮想世界・UでBelleという名のアバターで歌姫として活躍する高校生のすずと、竜の姿をした正体不明の存在との物語です。
仮想世界と同じ「U」というタイトルをつけたこの主題歌は、現代人と切っても切れないインターネットの存在をすずの視点で描いています。
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ララライ
ララライ
誰も知らない
名も無い今を
駆けてゆくの
あの三日月へ
手を伸ばして
ララライ
ララライ
君を知りたい
声に成らない
臆病な朝を
例え何度迎えようとも
≪U 歌詞より抜粋≫
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匿名でインターネットの世界にいる時、現実の世界から離れて「誰も知らない名も無い」存在になることができます。
Uの世界では大きな三日月が印象的です。手の届かないその三日月に手を伸ばすという行為は、この世界へ希望を持っていることを意味しているのかもしれません。
すずはあるつらい出来事によって「声に成らない臆病な朝」を送ってきました。しかし、Uの世界と出会い、変化を遂げていきます。
彼女が知りたい「君」という存在は誰のことを指しているのでしょうか?
その点も含めてどんな内容なのか、続く歌詞の意味も考察していきましょう。
暗い現実と心躍る仮想世界を対比する解釈とは
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臍の緒がパチンと切られたその瞬間
世界と逸れてしまったみたいだ
眼に写る景色が悲しく笑うなら
恐れず瞼を閉じて御覧
≪U 歌詞より抜粋≫
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1番の最初に歌われるのは現実への絶望感でしょう。
すずは生まれた瞬間から「世界と逸れてしまった」かのように、ずっと孤独を感じています。
そんなつらい現実ではどこを見ても「景色が悲しく笑う」ような不安感で満ちています。
しかし「恐れず瞼を閉じて」みれば、現実とは違う新しい世界に出会えるのです。
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さあ!
皆さんこちらへ
どうぞ鼓動の鳴る方へ
さあ!
踵を打ち鳴らせ
どうぞ心の踊る方へ
さあ!
蜃気楼に飛び乗って
さかしまな世界乗り熟して
≪U 歌詞より抜粋≫
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彼女が「さあ!」と繰り返し招くのは、何者にでもなれるUの世界です。
そこではドキドキと鼓動が鳴り、やりたいことが何でもできると心が踊ります。
インターネットの世界はまるで「蜃気楼」のように実体のない空間ですが、現実で苦しむ人たちにとってできないことをやってみたいと思わせてくれる希望の場所となるでしょう。
暗い現実とは対象的な「さかしま(さかさま)な世界」である仮想世界で、自由に生きるよう誘っています。
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ララライ
ララライ
止まない
愛を知りたいと
願う御呪い
時を超えて
朝から夜まで
ララライ
ララライ
君を知りたい
何一つ見逃さぬように
時は誰も待ってくれないの
≪U 歌詞より抜粋≫
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仮想世界の素晴らしさを示す一方で、彼女自身は現実では叶っていない「愛を知りたい」という願いをこの世界でも追っていることが伝わってきます。
誰かを知りたいという気持ちも愛を求めてのことかもしれません。
現実は目を逸したくなるようなことばかりですが、代わりに仮想世界では「何一つ見逃さぬように」したいと思っています。
「時は誰も待ってくれないの」という言葉の通り、時間はどんどん進むため迷っている暇はありません。
この部分の歌詞は世界に取り残されたくないという焦燥感と、自分は何も取り残したくないという願いを表現していると解釈できるでしょう。
暗い現実と魅力的な仮想世界を対比しているので、仮想世界こそが大切な場所と示しているように感じるかもしれません。
しかし、その現実があるからこそ仮想世界がより輝いて見えるのです。そして仮想世界で自由を手にできるからこそ、現実のつらさにも耐えられるのではないでしょうか。
どちらが大切かと比べているのではなく、どちらも大切な世界として描いているように感じられますね。
自分を信じて一歩踏み出してみよう
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残酷な運命が
抗えぬ宿命が
考える間もなく
押し寄せ砂嵐で
前が見えなくたって
君を信じてみたいの
恐れずに一歩踏み出したら
≪U 歌詞より抜粋≫
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2番でも悲劇的な現実の様子が綴られています。
「砂嵐で前が見えなく」なるかのようにつらい出来事に次々ぶつかり、苦しみや悲しみが「考える間もなく押し寄せ」てくるのが現実です。
しかし、希望を失っているわけではなく、その中で「君を信じてみたいの」と歌います。
ここまで出てきた「君」は、もしかしたら自分自身のことなのかもしれません。
現実に負けそうになる弱く不器用な自分にもできることがある。平凡な自分でも輝ける場所がある。
自分自身の価値を信じて「恐れずに一歩踏み出したら」、きっと現実さえ変えていけるはずです。
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さあ!
空飛ぶ鯨に飛び乗って
さかしまな世界踊り尽くせ
≪U 歌詞より抜粋≫
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この歌詞は「空飛ぶ鯨」の上に乗ってBelleが歌う映画冒頭のシーンと重なります。
現実では不可能なことが仮想世界の中では可能になることを印象的に示したシーンと言えるでしょう。
壮大なスケールの迫力がさらに高まっていく様子が、圧倒的なサウンドと繊細なのに力強い歌唱から伝わりますね。
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夢ならば
醒めないで
現実なんてさ
身も蓋もないから
≪U 歌詞より抜粋≫
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現実を「身も蓋もない」と表現している点にも注目できます。
作詞作曲を担当した常田大希は、これまで制作した楽曲でも現実の残酷さを記してきたアーティストです。
とはいえ、残酷だから現実に価値がないと言っているのではありません。
「夢ならば醒めないで」と歌うように、仮想世界を現実と混同せず全く違う世界であることを理解しています。
どちらの世界の中にいるとしても勇気を持って前へ進もうとする時、自分自身の心も強く逞しく成長させられるでしょう。
物静かなすずがBelleになることで自身を解き放つ姿を鮮明に表現した歌詞に引き込まれます。
「U」は自分らしい生き方ができる世界
millennium parade × Belleが手がける『U』は、仮想世界の魅力と現実への向き合い方を示す映画のイントロダクションにふさわしい楽曲です。
現実でも仮想世界でも、自分らしくいられる場所を持つことが前向きに生きる鍵となることが伝わってきます。
映画の壮大で美しい世界観と共に、力強いメッセージのこもった楽曲に浸ってくださいね。