LiSA×「鬼滅の刃」タッグ再び
2021年11月17日に、LiSAが20枚目のシングル『明け星』をリリースします。この楽曲は、現在放送中の『鬼滅の刃 無限列車編』OPテーマにも起用。
同シングルに収録されている『白銀』はEDテーマ。両曲とも『鬼滅の刃 無限列車編』のテーマソングということで、大きな注目を集めています。
LiSAといえばテレビアニメ『鬼滅の刃』第一期のOPとEDを務め、劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』でもエンディングを担当。
炎柱である煉獄杏寿郎の生き様と重なる『炎』は高く評価され、注目を集めました。
まさに『鬼滅の刃』という作品の一員ともいえるLiSAが楽曲提供するという時点で、期待値はかなり高かったといえるでしょう。
アニメ二期を彩る『明け星』もまた、『鬼滅の刃』という作品の世界観に見事に溶け込んでいます。
無限列車編の物語とリンクした歌詞に注目しながら、『明け星』の魅力を解き明かしていきます。
「車輪」という歌詞が意味する無限列車編の物語
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太陽を朱く閉じ込めて
車輪は何処へ進む
混沌の吹き荒れる夜に
僕らの声が響いた
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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『鬼滅の刃 無限列車編』は、無限列車を舞台に繰り広げられる物語です。
冒頭の歌詞に登場する「車輪」は、無限列車の車体を連想させ、物語の中でもOP映像の中でも印象的に描かれています。
夜道を力強く走り抜ける車輪は、過酷な任務へと向かう炭治郎達の行く末とも、そこで繰り広げられる熾烈な戦いとも重なります。
走り出した列車は、任務を終えるまで立ち止まることの許されない鬼殺隊の姿を思わせますね。
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願いのあかりを灯して
心は夢を脱ぎ捨てて
白い道を行く
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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無限列車編の主人公は、物語の主人公である炭治郎ではなく、炎柱の煉獄杏寿郎でしょう。
それでも『明け星』の歌詞は、炭治郎の心の内を歌っているように思えます。
炭治郎は、家族を殺され絶望を味わいました。それでも「禰豆子を人間に戻す」という目的のために、過酷な旅立ちを決意。
「願いのあかり」とはまさに、「禰豆子を人間に戻す」という強い願いを指しているのではないでしょうか。
絶対に諦めきれない願いがあるから、無力な少年だった炭治郎は、厳しい修行の果てに鬼殺隊へと入隊します。
そして、着々と力を付け、勇敢な隊士へと育っていくのです。
それでも、「夢は脱ぎ捨て」ているところに、運命の過酷さを思わせます。
幸せを願うことは止めずとも、夢見る少年ではいられなくなったのでしょう。
目の前にあるのは過酷な運命。鬼との戦いは、いつ命を落としてもおかしくないからです。
そして『明け星』の歌詞は、炭治郎が背負うことになった運命だけでなく、煉獄杏寿郎への思いとも重なっています。
進むべき「白い道」が示すもの
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真実は勝ち残った後に
誰かが置いて行くもの
獰猛な獣が呼び合う
世界は傷を重ね
血の色に濡れた
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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鬼を前にして、正しさや人間の祈りなどは意味をなさないものです。
高い志も正義も、敗北すれば塵となって消えてしまう。
それが戦いの世界であり、鬼殺隊士が生きる世界なのです。
真っ赤に染まる血なまぐさい世界でも、鬼を倒し続ける鬼殺隊。
彼らは非政府組織のため、一般人にはあまり理解されず、時として不審な目で見られることも。
命がけで闘っても報われない人たちなのです。
それでも炭治郎がその中に身を置くのは、自分と同じ思いをする人を出したくないという願いと、禰豆子への思い故。
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遠吠えが月を堕とす
常闇に潜む小さな花
僕らは光を祈る手のひらで
滅ぼし合ったり
君を抱きしめたり
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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鬼を滅ぼしたり、鬼に滅ぼされたり。殺伐とした世界にも、一輪の花のように愛しい時間はあります。
善逸や伊之助と過ごす時間は、大人にならざるを得なかった炭治郎にとって、心の安らぐ時間なのでしょう。
同世代の仲間たちと共に笑い、時にはケンカをし、涙を流し、成長していく。
「常闇に潜む小さな花」は、過酷な人生の中に時折訪れる平穏で、かけがえのない時間を象徴しているのかもしれません。
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願いが叶うその日まで
まだ紅に染まらない
白い道を行く
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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「紅に染まらない白い道」とは、血に染まっていない、誰もまだ踏み入れていない未来のことでしょうか。
炭治郎達は、一歩一歩を踏みしめ、自分の力で未来を切り開いていきます。
「紅」は流された血だけではなく、闇に染まることのない精錬な心…つまり、希望を捨てずに信じた道を進む炭治郎の行く末を意味しているようにも感じられます。
未来はまだ、血にも染まらず、闇にも染まらず、まっさらです。
生きるも死ぬも、願いが叶うも叶わぬかどうかさえ分からない、無限の可能性を秘めている。
だからこそ「白い道」なのではないでしょうか。
時に傷つき、大切な人を失いながらも、諦められない願いのために突き進む。
そんな炭治郎の強さや清らかさと見事にマッチしています。
人の心に生き続ける「煉獄杏寿郎」という光
劇場版をご覧になった人なら、無限列車編で煉獄杏寿郎が果たした役割の大きさ、その存在の特別さはご存じのことでしょう。
炎柱としての責務を全うした煉獄杏寿郎は、命が尽きてもなお、炭治郎はじめ、残された隊士たちの胸に深く刻まれます。
「心を燃やせ」
煉獄が死に際に炭治郎に伝えた言葉は、彼の心の中で生き続け、ピンチの時に炭治郎を奮い立たせるのです。
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昏い空には明け星が未来を
どうしても指して動かないから
優しく誘う昨日に手を振って
僕らは泣いた
また走り出すため
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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明け方の暗い空は、猗窩座(上弦の参)と死闘を繰り広げたあの場所。
作中では、明け星ならぬ太陽が大地を照らし、戦いと、命の終わりを告げました。
「優しく誘う昨日」は、煉獄が生きていた時間であり、炭治郎が家族と過ごした愛しい時間でもあるのでしょう。
戻りたい過去、受け止められない現実を前に、残された炭治郎は涙が涸れるまで泣きます。
それでも、いつかは立ち上がり、次の任務へと向かわなくてはなりません。
どれほど泣き明かしても、戻ることのない時間。
炭治郎は大きな喪失感と共に、それでも顔を上げて、鬼を倒すため、禰豆子を人間に戻すために、再び走り出すのです。
「泣く」という行為は弱さの象徴にも見えます。
しかしLiSAは、弱ささえも立ち上がって駆け出すための糧として描きました。
それは、「鬼滅の刃」で描かれる炭治郎達の心の動きともリンクします。
泣くことは弱さではなく、次のステップへと進むために必要なこと。
立ち止まることも、迷うことも悪いことではない。そんなメッセージが込められているように思えます。
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迷っても嘆いても生命は
明るい方へ手を伸ばすから
光を祈り空高く、歌声
せめて君に届くように
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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この歌詞は、瀕死の煉獄杏寿郎が炭治郎にかけた言葉と重なります。
嘆いても、立ち止まっても、時間は進み続け、過去に戻ってやり直すことはできません。
だからこそ、前を向くしかないのです。
命というものが自然に光を求めるように。
月が沈んで夜が終わり、東の空から昇る太陽が地表を照らして朝を迎えるように。
地球上に生きる命には限りがあり、それでも命の限り力を尽くす大切さを、煉獄杏寿郎はその身を以て教えたのでしょう。
『明け星』というタイトルもそうですが、無限列車編という作品自体が、太陽や月といった天体を象徴的に使い、鬼や人の生き様、命の愛おしさを描き出しています。
『明け星』というタイトルがこれほどまでにハマるのも、『鬼滅の刃 無限列車編』という作品の持つ世界観故のことでしょう。
「せめて君に届くように」という歌詞は、煉獄に恥じることのないよう、心を奮い立たせて闘う炭治郎や鬼殺隊士の思いそのものではないでしょうか。
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胸の中にある灯りが未来を
どうしても指して消えないんだ
冷たく深く閉ざした心にも
小さく強く
輝き続けてる
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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何度打ちひしがれても、大切な人を奪われても、鬼殺隊は立ち上がり、前を向きます。
この世界から鬼を消し去るため。人々の笑顔のため。
そして炭治郎にとっては、たった1人の肉親である禰豆子を救うためです。
心が折れそうになった時、炭治郎の心の中に生きている煉獄の言葉が、心に火を付け、何度でも奮い立たせてくれるのでしょう。
どんなに光が見えない中でも、心の中で燃えている炎が、希望の光が、目指した未来を照らし続ける。
どうしても消えることのない光は、人間の強さを象徴しているようです。
理屈ではない、確率でもない。ただ、願い続ける心の強さこそ、人間の持つ不滅の強さなのかもしれません。
そして、どうやっても消せない、鬼ですら踏みにじることのできない心の炎を灯したのは、他でもない煉獄杏寿郎なのです。
彼は、自身の命を懸けて人を守り、その存在を人の心に焼き付けたのでしょう。
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昏い空には明け星が静かに
ただ一筋の光をくれた
≪明け星 歌詞より抜粋≫
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鬼と人。鬼舞辻無惨という最強の鬼との戦い。
どんなに不利な状況でも勝利を導き出していく炭治郎。
その心に炎を宿した煉獄杏寿郎の存在こそが「ただ一筋の光」なのでしょう。
『明け星』は、人々の心に生き続ける、煉獄杏寿郎という人間の生き様を歌っているのではないでしょうか。