「仰げば尊し」の意味を知ってる?
卒業シーズンの3月が近づくと、卒業ソングを耳にする機会が多いですよね。
なかでも『仰げば尊し』は、明治から昭和にかけて小学校や中学校の卒業式で広く歌われてきた定番の楽曲です。
長年作者が不明とされてきましたが、1871年にアメリカで出版された音楽教材に載っていた作曲者H.N.D.・作詞者T.H.ブロスナン制作の『Song for the Close of School』が原曲ではないかと見られています。
日本では文部省音楽取調掛の伊沢修二らが移植し、1884年発行の「小学唱歌集」第3編に収録され唱歌として親しまれるようになりました。
ところが平成からは教師への恩を強制していると考えられたことや、古い日本語の表現が意味を解釈するのに難しいなどの理由から歌唱が減ってきたようです。
実は『仰げば尊し』の歌詞には生徒たちの前向きで温かい思いが綴られています。
とはいえ実際に卒業式で歌っていても、馴染みのない日本語表現が使われている歌詞のため意味を理解していなかった人は少なくないでしょう。
令和の今こそ改めて『仰げば尊し』の歌詞の意味を考察していきたいと思います。
「いととし」が示す意味とは
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あおげばとうとし わが師の恩
教えの庭にも はやいくとせ
思えばいと疾し この年月
今こそわかれめ いざさらば
≪仰げば尊し 歌詞より抜粋≫
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タイトルでもある「あおげばとうとし(仰げば尊し)」のフレーズは、「仰ぎ見るほど尊いもの」という意味です。
つまり一文目は、仰ぎ見るほど先生への恩を抱いている生徒たちの思いを表しています。
特に「師」には教育を施す教師の意味だけでなく、人の手本となる師匠の意味もあります。
この歌詞には、ただ勉強を教えるだけでなく人として大切なことを教えてくれた恩師への感謝が詰まっているのです。
「教の庭」とは学校や教室のことで、二文目には「この学校で学びを受けてもう何年も経った」という事実が示されています。
続く「いと疾し(いととし)」は「時期が早い・勢いが良い」といった意味を持つ言葉です。
そのため、三文目の歌詞は「思い起こせばこの学校で学んだ年月はとても早く感じます」という表現であることが分かります。
楽しく充実した時間はあっという間に過ぎるように感じてしまうもの。
先生から学んだ時間がとても充実していたことを表現しているのではないでしょうか。
歌われない幻の2番は友への言葉
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たがいにむつみし 日ごろの恩
わかるる後にも やよわするな
身をたて名をあげ やよはげめよ
今こそわかれめ いざさらば
≪仰げば尊し 歌詞より抜粋≫
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『仰げば尊し』と言えば2番までのイメージが強いですが、よく歌われているのは1番と3番で、2番はあまり歌われず幻の歌詞とされています。
一文目で「互いに仲良く過ごした日頃の恩」を伝えているので、2番は生徒たち同士が友への感謝とはなむけの言葉を贈る内容であることが分かります。
二文目と三文目には「やよ」という語句が出てきます。
これは人に呼びかける時の「やあ」のような掛け声で、この語句自体に特別な意味があるわけではありません。
詳しく見ていくと、二文目には「卒業して別れた後も思い出を忘れないで」という意味が込められています。
三文目の「身をたて名をあげ」とは、簡単に言えば自立し世に認められること。
この部分が立身出世を奨励する戦後の民主主義にそぐわない歌詞と考えて、2番を歌わない学校が多かったそうです。
しかし、一緒に楽しく過ごしてきた友へ「立派に自立するよう自分も頑張るから君も励んでいってくれ」というメッセージだと考えると卒業式にふさわしい歌詞ですよね。
そして「やよ」とつけることで、続く言葉により力強く感情を乗せる狙いがあったと思われます。
実は深い「別れめ」の意味
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朝夕なれにし まなびの窓
ほたるのともしび つむ白雪
わするるまぞなき ゆく年月
今こそわかれめ いざさらば
≪仰げば尊し 歌詞より抜粋≫
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3番の一文目では「朝から夕方まで学び続けた学校」の様子を振り返っているようです。
二文目の「ほたるのともしび つむ白雪(蛍の灯 積む白雪)」と言うフレーズは、故事成句の「蛍雪の功」に基づいています。
「蛍雪の功」とは、電気がなかった時代に蛍や積もった雪の光を頼りに勉強していた日本の時代背景から、昼も夜も勉学に励むことを称える言葉です。
ちなみに同じく定番の卒業ソングである『蛍の光』の「蛍の光 窓の雪」の歌詞も「蛍雪の功」から生まれたと言われています。
そして三文目には「忘れることはできない 過ぎ去った日々」とあり、自分にとっていかにこの学校生活が大切な時間だったかを伝えています。
ここで3番まで必ず出てきた四文目の歌詞について考えてみましょう。
「わかれめ(別れめ)」についている「め」とは、何か行動を起こす時に使う助動詞です。
このことを踏まえると、四文目は「別れるのはつらいけれど別れの時だ、さあさよならしよう」という意味と解釈できます。
先生に対しても友に対しても別れを惜しみつつ、この別れが必要なものであることを受け止めている様子が伺えます。
別れの曲ではありますが、恩師や友と過ごしたかけがえのない時間と思い出を胸に、未来へ進んでいこうとする前向きな気持ちを歌っているということが歌詞から読み取れますね。
「仰げば尊し」は後世に残したい卒業ソング
日本では歌唱が減ってきた『仰げば尊し』ですが、台湾で受け継がれ現在でも歌われています。
歌詞の意味を振り返ると、時代が変わっても大切にしていきたい純粋な感謝の気持ちが表現された卒業歌でした。
ぜひ『仰げば尊し』から古き良き日本の文化を改めて見つめ直してください。