大人気の英語ボカロ曲は神話がモチーフ?
北米在住のボカロPであるCrusher-PとCircus-Pのユニット・CIRCRUSHの第2弾として2014年10月7日にリリースされた『ECHO』。
ニコニコ動画の投稿曲で初の英語ライブラリのみを用いたボカロ曲で、異彩を放つ楽曲の誕生に当時多くのボカロファンが注目しました。
2016年には『ゆめにっき』や『あんさんぶるスターズ!』を手がける日日日と「艦隊これくしょん-艦これ-」公式イラストレーター・おぐちがタッグを組んだノベライズ本も発売され、現在までその人気は衰えません。
中毒性の高い音楽がかっこいいと世界的に人気のボカロ曲ですが、英語詞の意味が気になりますよね。
この楽曲のタイトルである「ECHO(エコー)」は「こだま・共鳴」などの意味がある言葉で、音響用語としてもよく耳にするフレーズです。
また、その語源とされているギリシャ神話の森の妖精エコー(エーコー)も関係していると推察できます。
歌とおしゃべりが好きなエコーは、ゼウスの浮気を隠すために妻である嫉妬の女神ヘラの注意を逸していたことがバレ、罰として自分から発言することを禁止され、ただ他人の発言の語尾を繰り返すことだけが許されました。
そんな中でナルキッソスという青年に恋をしますが、相手の発言の真似しかできない罰のために冷たくあしらわれ、深く傷つけられたエコーは痩せ衰えて亡くなり最後には声のこだまだけが残ったと言われています。
この神話が歌詞にどのように関わってくるのか、和訳しながら考察していきましょう。
失恋で錯乱状態の主人公
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THE CLOCK STOPPED TICKING forever AGO
HOW LONG HAVE I BEEN UP? IDK
I CAN'T GET A GRIP, BUT I CAN'T LET GO
THERE WASN'T ANYTHING to HOLD ON TO, THO
≪ECHO 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭の二文は「ずっと昔に時計の針は動きを止めた 私はどれくらい起き続けているの? 分からない」と訳せます。
主人公は自分の中の時間が止まっていることに気づきますが、それがいつからでどうしてそうなったのかが分からない状態に陥っているようです。
妖精のエコーと重ねてみると、失恋の悲しみに打ちのめされた主人公が前後不覚になっている様子と捉えられるでしょう。
後半では「ちゃんと掴めない、でも離せない そもそも縋りつけるものなんてなかった」と続きます。
苦しんでいる自身の支えになるものを何も持っていないという事実を目の当たりにし、余計に虚しい気持ちになっていると解釈できますね。
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WHY CAN'T I SEE??? WHY CAN'T I SEE???
ALL THE COLORS THAT YOU SEE??
PLEASE CAN I BE PLEASE CAN I BE
COLORFUL AND...free?
≪ECHO 歌詞より抜粋≫
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この部分の前半では「なぜ見えないの?なぜ見えないの? あなたが見ている全ての色」とあります。
恋をすると相手の見ているものを見たい、どんな風に見えているのか知りたいと願うものではないでしょうか。
しかし、主人公は想い人の見ている色を見ることができないでいます。
後半は「お願いお願い カラフルで自由になっていい?」と訳せそうです。
MVのイラストが白黒で描かれていることからも、主人公は想い人が好むような明るさや華やかさを持っていないのかもしれません。
妖精のエコーは美しい声を全て奪われたわけではないとはいえ、自身の言葉で相手を楽しませることはできなくなっていました。
そうした意味では、エコーも周囲と比べて地味な存在だったと言えるでしょう。
主人公は、何の制限も持たないカラフルで自由な存在になれたら想いを通わせることができるのかと、願望にも近い気持ちで問いかけていると考えられます。
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WHAT THE HELL'S GOING ON?! CAN SOMEONE TELL ME PLEASE--
WHY I'M SWITCHING FASTER than THE CHANNELS ON TV
≪ECHO 歌詞より抜粋≫
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ここでは「一体どうなってるの?誰か教えてよ」とますます錯乱状態になっていることが伝わってきます。
そして「どうして私はテレビのチャンネルよりもころころ変わるの」と、自分自身のことで戸惑っている様子です。
テレビのチャンネルを次々と切り替えてザッピングするように、考えの切り替えが早い自分にどこかショックを感じていると思われます。
おしゃべり好きだったエコーも、何にも深入りできずころころ話題を変えるしかなかった自分の性格に切ない思いを抱えていたのかもしれませんね。
戦うべき敵は自分自身
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I'M Black THEN I'M white NO!!! SOMETHING ISN'T RIGHT!!
MY ENEMY'S INVISIBLE, I DON'T KNOW HOW to FIGHT
THE TREMBLING FEAR IS MORE than I CAN TAKE
WHEN I'M UP AGAINST THE ECHO IN THE MIRROR
≪ECHO 歌詞より抜粋≫
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続く部分では「私は黒に 白に」と移り変わる自分の気持ちを色で表現しながらも、すぐに「違う!何かがおかしい!」と否定しています。
自身の思いの中で矛盾が生じているようです。
また「敵は目に見えなくて戦い方が分からない」という言葉から、主人公には太刀打ちできない敵がいることも分かります。
後半の二文を続けて考えると「鏡の中のエコーに向き合った時の震えるような恐怖 耐えられないよ」と訳せるでしょう。
「鏡の中」に映るのは目の前にいる自分自身なので、ここで出てくる「エコー」は鏡に映った自身の残像と解釈できます。
しかし、鏡の中の自分と向き合った時に耐えられないほどの「震えるような恐怖」を覚えているのはなぜなのでしょうか?
前半部分の矛盾や見えない敵の存在を合わせて考察すれば、主人公が自分自身を恐れ敵と見なしていることが読み取れます。
おそらく二面性のある心がせめぎ合って主人公を苦しめているのです。
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I'm gonna burn my house down into an ugly Black
i'm gonna run away now and never look back.
≪ECHO 歌詞より抜粋≫
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「醜く黒ずむまで自分の家を燃やそう」という言葉には、主人公の狂気的な面を感じさせます。
家は自分のテリトリーであることを踏まえると、自身のアイデンティティや感情を壊そうとしているのではないでしょうか。
戦い方が分からないから、いっそ丸ごと燃やし尽くしてしまおうと考えたのでしょう。
鏡に映る自分に怯えていた主人公は、思い切った行動で相容れない感情と決別することを決意しました。
次の歌詞では「そうしたら逃げ出して二度と振り返らない」と歌われています。
不要な感情を捨てられたなら未練なく逃げ去って、あるべき自分の姿で生きていきたいという強い願いが垣間見えます。
意味を知るともっと魅力が見えてくる
人気ボカロ曲『ECHO』の歌詞を日本語訳してみると、二面性を持つ自分自身と戦うというテーマが見えてきました。誰でも複雑な感情を抱えながら生きていますが、自分の感情であるからこそ向き合うのが怖く感じてしまうこともあるはずです。
人の弱さを認めつつ、思い切って行動しようとする主人公の強さに引き込まれる名ボカロ曲です。