憧れの人を追いかけた日々
『ビターチョコデコレーション』や『キュートなカノジョ』を生み出した人気ボカロPであり、シンガーソングライターとしても活躍するsyudou。そんな彼が2022年7月29日に最新オリジナル曲、『いらないよ』を配信リリースしました。
自身初のフルバンド楽曲となっていて、バンドサウンドと打ち込みが見事に融合した感情を揺さぶるような楽曲に仕上がっています。
YouTubeで公開されているMVの制作は、映像クリエイターのりゅうせーが担当。
syudouがシンガーソングライターとして活動を始めてから生まれた楽曲MVの各キャラクターたちが登場するなど、これまでの軌跡を感じられるファンにも嬉しい内容です。
その概要欄にはこの楽曲について「最大限の愛情表現の曲」とコメントされています。
『いらないよ』という否定的なタイトルと愛がどのように関わってくるのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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アナタの残像や音が
どうやっても鳴って止まんないな
どうやっても鳴って止まんない
気づけばその手伸ばした
どうやっても待ってらんないな
どうやっても待ってらんない
≪いらないよ 歌詞より抜粋≫
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冒頭の「アナタの残像や音がどうやっても鳴って止まんないな」という歌詞から、主人公は「アナタ」という人物の作る音楽に夢中になっていることが読み取れそうです。
「気づけばその手伸ばした」という言葉から、その人の音楽を知って自然と惹きつけられたことが分かるでしょう。
ただ待っているだけでは我慢できなくて、憧れの人を追いかけ始めます。
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日from月 溶かす青春 有給も
全てアナタの背を追うため注ぎ込んだ
荒廃した砂場から生存報告です
これは最大限の愛情表現
且つ終えるメロディ
≪いらないよ 歌詞より抜粋≫
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「日from月」というフレーズは、月単位どころか毎日自身の「青春」も「有給」も費やしたことを示していると解釈できます。
それは「全てアナタの背を追うため」に注ぎ込まれてきました。
「荒廃した砂場」のように閑散とした場所にいるようですが、憧れの人に近づけるならそれはどうでもいいことです。
ちなみにこのフレーズは、syudouがファンを公言しているハチの楽曲『砂の惑星』を彷彿とさせます。
実は『いらないよ』のリリース直前、『砂の惑星』が投稿から5周年の記念日となる21日にテンミリオンを達成しました。
「これは最大限の愛情表現」とあるように、ほかの何もかもを置いて追いかけてきたことも、好きな曲をもじって歌詞に入れ込むことも確かに愛情表現と言えるでしょう。
この曲はsyudou自身がリスペクトするアーティストへの想いを綴った楽曲だとも推測できそうです。
アナタの想像する未来に立つために
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アナタの想像する未来に
どうやっても立っていたいんだった
どうやっても立っていたいんだ
ただ崇めているだけじゃ
どうやっても立っちゃいらんないな
どうやっても立っちゃいらんない
≪いらないよ 歌詞より抜粋≫
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2番では「アナタ」を見ている立場ではなく、その視界に入る立場になりたいという意欲が垣間見えます。
「アナタの想像する未来にどうやっても立っていたい」と思い、そのためには「ただ崇めているだけじゃ」だめだと気づいたようです。
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公開告白ってか職権濫用じゃん
でも今もきっと一つの嫉妬一つも消えないが
この痛みのおかげの今がある
それが正解なのか失敗なのか知らないが
いつもチラつく頭文字はA
中指の向こう落ち合う覚悟
さえもそう抱えて行こうきっと肝心だから
≪いらないよ 歌詞より抜粋≫
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「公開告白ってか職権乱用じゃん」のフレーズは、『砂の惑星』のアンサーソングとして『ジャックボットサッドガール』が制作されたことも思い出させます。
これはアーティストとしての技術や立場を使った大々的な公開告白です。
好きすぎて抱いた嫉妬の気持ちはまだ消えないものの、「この痛みのおかげで今がある」と嫉妬心が音楽制作の原動力になったことを明かしています。
続く「いつもチラつく頭文字はA」という歌詞は、自身が楽曲提供した『うっせぇわ』でメジャーデビューし人気シンガーの仲間入りを果たしたAdoのことを示していると考察しました。
syudouも同じく注目を集め今や数々のミリオン達成曲を連発するヒットメーカーとなっていますが、未だにAdoのイメージを強く感じている人もいるのではないでしょうか。
Adoの人気を後押ししたことを誇らしく感じる一方で、自分の力だけで勝負したわけではないという複雑な思いを抱えていたのかもしれません。
『うっせぇわ』でもそうであったように、syudouの楽曲といえば表現が荒々しい挑発的な歌詞が多く見られます。
社会や現実への苛立ちなどの感情を露わにすることで自分自身の曲を確立するという意味で、「中指の向こうで落ち合う覚悟」を持ってやってきたと解釈できそうです。
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たまに酩酊しながら爆笑しながら生きたいんだ
一か八かの賭けに注意して
足りぬ根底の想いの尊敬の念の行き先は
狼煙辿れば着く自分の中の
≪いらないよ 歌詞より抜粋≫
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この部分では、過去曲を思わせるフレーズが詰め込まれています。
『爆笑』・『狼煙』・『取扱注意』といった楽曲のタイトルが使われていたり、
『へべれけジャンキー』を「酩酊」、
『ギャンブル』を「一か八かの賭け」、
『たりねぇ』を「足りぬ根底の想い」と表現しているところも巧みですよね。
これまで生み出してきた楽曲を振り返りながら、自身の想いを再確認しているような歌詞となっています。
そうして気づいたのは「尊敬の念の行き先」が自分の中にあるということ。
初めは憧れの人を追いかけるだけだったのに、そうしているうちにいつの間にか自分自身の中に尊敬できるものが築き上げられていたことを示しているように思えました。
経験を通して自身の成長を感じた瞬間と言えます。
先生の提言などもういらないよ
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つまり先生アナタの提言などもう要らないよ
身から出たサビを今掻き鳴らす
あの日散々足掻いた愛憎の先へ行きたいんだ
焦がれ逃れ 憧れに手を振って
アナタがくれた導べも無しに
全てそう迎え撃とうだって単純だから
無謀な挑戦 脳フル回転で
理想になっていく最中だから
≪いらないよ 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞によると、憧れて背中を追ってきた「アナタ」は主人公にとって「先生」でした。
しかし「提言などもう要らないよ」と、先生の教えはもう必要ないと伝えています。
抱き続けてきた焦がれ憧れる気持ちを後にして、先生から受けた導きもなく正面から勝負したいと思うようになったからです。
「あの日散々足掻いた愛憎」とあるように、先生の音楽に対して好きだからこそ苦々しい感情になったこともあるのでしょう。
しかしそんな状態でくすぶり続けるのではなく、その先へ行きたいと強く願っています。
これは主人公の愛情の矛先が、先生の音楽から音楽自体に変化していったことを表しているように感じます。
「身から出た錆」のことわざは、自分の犯した悪行の結果として自分自身が苦しむという意味です。
ここで「サビ」とあえてカタカナで表記しているのは、曲のサビと意味を重ねているからなのでしょう。
先生の音楽を愛するあまり、自分が作った音楽が教えを無視するようなものであることに苦しんでいるのかもしれません。
それでも、まぎれもなく自分自身が作詞作曲して生み出したサビを思い切り掻き鳴らしたいという気持ちが伝わってきます。
嫌いになったから離れるのではなく、好きだからこそ同じ土俵に立つために離れようとするいわば「最大限の愛情表現」なのです。
もちろん「無謀な挑戦」であることも十分理解しています。
だからこそ「脳フル回転で」持てる力を注いで、音楽を作っていきたいと真剣に考えているようです。
今はまだ「理想になっていく途中だから」という言葉に、先生に対する尊敬や感謝、未来への自信や期待が全て込められているような気がします。
syudouの軌跡を知れる名曲!
syudouの『いらないよ』には、アーティストとなったきっかけや活動を始めて変化していった気持ちなどのヒストリーが綴られています。歌詞のフレーズやメロディ、MVをさらに深掘りしていくならより楽曲に込めた想いが伝わってくるはずです。
ぜひこれまでの歩みに思いを馳せながら、syudouの未来へ向けた宣言を受け取ってください。