24年ぶりの紅白歌合戦出場で話題
『田園』は1996年7月21日に発売された玉置浩二の11枚目のシングルです。
この楽曲は、2022年の『第71回NHK紅白歌合戦』で24年ぶりに歌唱したことでも話題になりました。
オーケストラとのパフォーマンスは圧巻。
24年ぶりの大舞台での歌唱で、新たに楽曲を知ったという人も多いかもしれません。
作詞作曲は玉置自身が担当。
作曲には、玉置のソロ3枚目のアルバム『カリント工場の煙突の上に』、4枚目のアルバム『LOVE SONG BLUE』などを共作した須藤晃も携わっています。
シンプルで誰の心にも刺さるようなまっすぐな歌詞ですが、この歌には当時の玉置浩二本人の複雑な思いが込められているようです。
のどかで心安らぐ風景を連想させる『田園』というタイトル。
そこに込められた意味に思いを馳せながら、この曲を解釈していきます。
玉置浩二の心理状態を反映した歌詞
玉置浩二は、自身が所属していた安全地帯がアーティスト活動を停止した後に、精神が不安定な状況に陥ったことがあり、その時の精神状態が楽曲に反映されているといわれています。
心の中にある不安や、どうしようもない感情を声に出して吐き出せるのは、ミュージシャンの特権かもしれません。
自身の不安な状況を経験しているからこそ、人々の心に寄り添うような、暖かい歌詞が生まれたのでしょう。
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石コロけとばし
夕陽に泣いた僕
夜空見上げて
星に祈ってた君
アブラにまみれて
黙り込んだあいつ
仕事ほっぽらかして
ほおづえつく あの娘
≪田園 歌詞より抜粋≫
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歌の冒頭は、遠い日の自分を思い返したり、自分以外の誰かに思いを馳せたり。
辛い思いをした時、ひとりぼっちな誰かの心に、ずぶ濡れの人の心に、そっと寄り添うような歌詞が印象的です。
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何もできないで
誰も救えないで
悲しみひとつも
いやせないで
カッコつけてないで
≪田園 歌詞より抜粋≫
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生きていくということは、美しいものばかりではありません。
時に泥にまみれ、助けたいと願う人を救うこともままならず、自分一人が立っていることすらままならないこともあるでしょう。
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やれるもんだけで
毎日 何かを
頑張っていりゃ
生きていくんだ
それで いいんだ
≪田園 歌詞より抜粋≫
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そんな中でも、悲しみに暮れることなく、目の前のことに懸命に生きればいい。
そんなシンプルなメッセージだからこそ、聴く人の心に深く刺さるのかもしれません。
孤独に寄り添う「一人じゃない」というメッセージ
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ビルに飲み込まれ
ビルに飲み込まれ
それでも その手を
離さないで
僕がいるんだ
みんな いるんだ
愛はここにある
≪田園 歌詞より抜粋≫
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都会の喧噪に飲まれて暮らす内、本当に大切なものが見えなくなってしまうことも少なくありません。
高いビルに囲まれ、人に溢れた場所では、自分というものを見失いがち。
そんな時こそ、自分の居場所をしっかりと見つめ直すことが大切なのでしょう。
一人じゃないことを再認識することで、自分というものをしっかりと持ち続けることができるのです。
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何も うばわないで
誰も傷つけないで
幸せひとつも
守れないで
そんなに急がないで
そんなに あせらないで
≪田園 歌詞より抜粋≫
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人から奪うことも、自分の幸せを守ることができなくても、誰かを傷付けたり他人から奪うよりは何倍もよいものです。
自分を卑下する必要は何もないのだと、勇気づけられる歌詞ですね。
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波に巻き込まれ
風に飛ばされて
それでも その目を
つぶらないで
≪田園 歌詞より抜粋≫
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大きな困難や悲しみに見舞われた時、思わず現実から目を逸らしたくなるのが人間というものです。
しかし、辛い現実をしっかりと受け止めるからこそ前に進めるのでしょう。
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僕がいるんだ
君もいるんだ
みんな ここにいる
愛はどこへも いかない
≪田園 歌詞より抜粋≫
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どれだけ苦しい状況だろうと、一緒に見守る仲間がいるなら、人は強くなれるのです。
「愛はどこへも いかない」という歌詞が、大きな安心感と深い愛情を感じさせます。
懸命に生きる人すべてに送るエール
『田園』は、ゆったりとしたメロディーに、どこにでもいそうな人々へ向けた視点が印象的な楽曲です。すれ違う人々は、名前も知らないけれど、それぞれが事情を抱えて懸命に生きている。
そんな、名もなき人一人一人を思って歌われたような歌詞だからこそ、誰が聴いても胸に響くのでしょう。
聴く人に寄り添い、生きる力を与えてくれる音楽。
それが『田園』なのではないでしょうか。
24年の時を経て、紅白歌合戦という形で放送されたことで、新たに玉置の音楽に救われた人もいるかもしれません。
この機会に、彼の楽曲に触れてみてはいかがでしょうか。