3000万回再生超えの稲葉曇の代表曲を徹底解説
2016年にボカロPデビューを果たし、海外人気も高い稲葉曇が14作目のボカロ曲として2020年7月20日に公開した『ラグトレイン』。
中毒性のある軽快な音楽と歌愛ユキの落ち着いた歌声が重なり、どこか懐かしくて寂しい雰囲気を醸し出す楽曲です。
MVのイラストとアニメーションはぬくぬくにぎりめしが担当しており、特徴的な灰色の背景と気だるげな女の子の姿が悲哀を感じさせます。
3000万回再生を突破した人気曲の歌詞の意味を考察していきましょう。
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離れ離れの街を繋ぐ列車は行ってしまったね
失くした言葉を知らないなら ポケットで握りしめて
あがいた息を捨てて延びる今日は眠って誤魔化せ
失くした言葉を知らないなら 各駅停車に乗り込んで
≪ラグトレイン 歌詞より抜粋≫
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まずタイトルにある「ラグ(lag)」とは「遅延・のろのろする」といった意味があります。
それが「トレイン(電車)」とかけ合わされているので、ゆっくり走る各駅停車のことか自分がのろのろしていたせいで電車に乗り遅れたことを指していると考えられます。
冒頭のサビの歌詞を見ると、その両方の意味を持つタイトルであると推察できるでしょう。
「離れ離れの街を繋ぐ列車」はおそらく特急列車のこと。
主人公は乗るはずだった特急列車を乗り過ごしてしまったようです。
使えなかった切符を「ポケットで握りしめて」、仕方なく各駅停車に乗り込みます。
よく人生は電車にたとえられるものです。
そのため、この曲でいう「離れ離れの街」はすぐにはたどり着けない自身の夢や目標を、「列車」は目標にたどり着くための手段を表しているのではないでしょうか。
例えば大学生になるために入試を受けることや、会社員になるために就職活動をすることなどと解釈できるかもしれません。
特急列車に乗り遅れて各駅停車に乗り換えるように、主人公は周囲の波に乗れず別の方法でゆっくりと目的地を目指すことになりました。
「あがいた息を捨てて延びる今日は眠って誤魔化せ」というフレーズは、今さらじたばたして頑張っても意味がないと諦めてしまう自分の弱さや不器用さを眠って誤魔化そうとしているように思えます。
人生のレールから外れた孤独な日常
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夕方と退屈のお誘いを断って
一人きり 路地裏は決して急がないで
ほら 横断歩道も待ってくれと言ってる
見張る街角があなたを引き留めてく
≪ラグトレイン 歌詞より抜粋≫
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目的地に着くまでの道のりは長く時間を持て余しているのに、他人と距離を置いている孤独な主人公。
「あなた」に語りかけるような歌詞ですが、これは自分自身に言い聞かせていると解釈しました。
あえて第三者がそばにいるかのように表現することで、主人公の孤独さをより際立たせているように思えます。
「路地裏」はメイン通りから外れているため、主人公の日常が一般的な社会人の枠組みから外れていることを意味していると考えられます。
その中で急いで何かをしようとしても余計に空しくなるだけ。
横断歩道の信号が赤になるのも「待ってくれ」と自分を足止めしているかのようだと受け止めています。
それは街角に見張られているような日々の緊張感に足がすくみそうになる自分を何とか肯定しようとしていると捉えられます。
もしくは誰かに今の自分を肯定して急ぐ必要はないと引き留めてほしいという気持ちの表れなのかもしれません。
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夕方の駅のホームはひどく混み合って
ひとり占めできるまで休憩して欲しくて
また 集団下校があなたを急かしている
ほら 自動改札は待ってくれと言ってる
塞がる両手があなたを引き留めてく
≪ラグトレイン 歌詞より抜粋≫
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下校する学生たちや退勤した社会人たちで混み合う「夕方の駅のホーム」にいると、その輪に入れない自分の惨めさを突きつけられるのでしょう。
「集団下校」の姿を見て、急がないようにしていた主人公でさえ急かされているように感じてしまいます。
矛盾した気持ちを抱える主人公を「自動改札」と「塞がる両手」が引き留めます。
もう行ってしまった特急列車の切符を握っているために手が塞がって自動改札を抜けられないのだとしたら、過去やトラウマに囚われて身動きできない状態を表していると考察できそうです。
とはいえホームから出て目的地へ向かうのをやめることもできず、気持ちばかり焦ってもどかしく感じている様子を示しているように感じます。
どうせ向かわなければならないなら「ひとり占めできる」自分だけの列車で自由に進めたらいいのにという考えが垣間見えます。
自分のペースで進もう
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あがいた夢を捨てて揺れる今日は眠って誤魔化せ
失くした言葉を知らないなら 各駅停車に乗り込んで
離れた街と街を繋ぐ列車が
呼んだ風に飛ばされないでいてくれ
失くした言葉はそのままでいいよ
揺れる列車に身を任せて欲しいから
≪ラグトレイン 歌詞より抜粋≫
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必死で追いかけてきた夢を捨てるのは簡単ではないので、そのつらさや苦しさを眠って誤魔化そうとしているようです。
とはいえ旅の行き先が変わるように、1つの夢を諦めて別の夢を追うこともあるはずです。
そうして今度はその夢を目指して各駅停車に乗り込みます。
続くサビで描写されているように、特急列車が起こした強い風に思わずふらついた経験は誰にでもあるでしょう。
そのように周囲の動きに圧倒されて、自分まで焦って行動したくないと思っていると解釈できます。
これまでも繰り返し出てきた「失くした言葉」は、夢に向かうまでの間の自分の意思のことと考察しました。
冒頭からずっと自分が何を思っていたのかも分からない状態だった主人公が、失くしたものは失くしたままでいいと思えるようになっていきます。
これは主人公が本当に自分自身の想いや生き方を肯定し受け入れられるようになったことを示していると思われます。
周囲の人と同じ特急列車に乗って、少しでも早く目的地にたどり着くのもいいでしょう。
しかし各駅停車で気の向くままゆっくりと進むのもきっと悪くありません。
自分の人生なのだから自分のペースで進めばいいというメッセージが伝わってきます。
人生に悩む人に寄り添う名曲!
人生はうまくいかないことや足踏みしてしまうような出来事の連続です。それでも自分が自分を受け入れて少しずつでも進み続けているなら、やがてたどり着いた場所で素敵な旅ができるはず。
稲葉曇の名曲のひとつである『ラグトレイン』は、きっとあなたが前に向かって進むための力をくれますよ。