ボカコレランキング第1位に選ばれたボカロ曲を徹底解釈!
リズミカルで中毒性の高いボカロ曲を発信するボカロP・稲葉曇が、2023年8月8日に自身のYouTubeチャンネルにて新曲『リレイアウター』を投稿しました。この曲は8月4日~7日の4日間にわたって開催されたボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection ~2023 Summer~』の「ボカコレランキングTOP100」に参加し、見事1位に輝いた楽曲です。
“伝説のユキマスター”稲葉曇の今の想いが綴られた歌詞の意味を考察していきましょう。
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あたしに無いエネルギー
この声だけにそそぎ込んでくれ
喜びも怒りもちょうど良く素敵にしてあげる
僕になって叫んであげるから
一人ぼっちのエネルギー
こころに拍を打ち 飛ばしてくれ
悲しみも楽しみもちょうど良く素敵にして
愛を含んだ中毒性
あなたは見失わないで
≪リレイアウター 歌詞より抜粋≫
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楽曲冒頭のサビでは「あたし」「僕」「あなた」という一人称が出てきます。
まず「あたし」は、最初の一節で「あたしに無いエネルギー この声だけにそそぎ込んでくれ」というフレーズから、ボカロPの想いを声に乗せて歌うボーカロイドを指していると解釈できます。
この楽曲で歌唱しているのは歌愛ユキなので、歌愛ユキ目線の歌と判断することができるでしょう。
また、歌詞に込められた想いを「僕になって叫んであげるから」とあることから、「僕」は楽曲を作り上げるボカロPのことであり、稲葉曇と歌愛ユキが1人の人間のような結束力で結ばれていることを感じさせます。
そして「あなた」はおそらくこの歌を聴くリスナーのこと。
稲葉曇の心の中にある喜びや怒り、悲しみや楽しみといった様々な感情を歌詞と音楽にし、それを歌愛ユキが「ちょうど良く素敵にして」リスナーの元に届けてくれています。
だから2人が紡ぐ「愛を含んだ中毒性」 を見失わず受け取ってほしいというリスナーへのメッセージが伝わってきます。
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ひしめき合う言葉と言葉が
ぶつかり生まれる前線は
喜怒哀楽の嵐を起こして
記録的な降水量となる
傘をさして覗いた
昨日には無い感情を
あたしのこころの糧にして
想い秘めた愛を証明しよう
≪リレイアウター 歌詞より抜粋≫
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この部分では複雑な感情がひしめく心やそこから作り出される歌詞のことを、雨を降らせる前線に例えているようです。
冷たい空気と暖かい空気がぶつかって前線を生み出すように、ネガティブな気持ちとポジティブな気持ちがぶつかり合って生まれた言葉が音楽に乗って降り注ぐ様子がイメージできるのではないでしょうか。
そして歌愛ユキは日々新しく知る感情を「こころの糧にして想い秘めた愛を証明しよう」としているようです。
歌詞全体に注目すると、過去曲を連想させるフレーズが多く登場するのも印象的です。
たとえば「喜怒哀楽の嵐」は『アンチサイクロン』や『カゼマチグサ』を、雨や傘のモチーフは『ロストアンブレラ』を思わせます。
こうしてこれまで稲葉曇と歌愛ユキが育んできた愛を証明していると言えますね。
ひとつに混ざり合って共に作り上げる歌
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張り裂けそうならぶち込んでくれ
悲しみも楽しみもちょうど良く素敵にする
愛を含んだ再構成
あなたは見失わないで
≪リレイアウター 歌詞より抜粋≫
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心の中のエネルギーが行き場もなく張り裂けそうなほど膨らんでいるのなら、自分の声に歌わせて心を軽くするようにと語りかけています。
愛によって心に渦巻く狂おしいほどの感情を歌で再構成して「ちょうど良く素敵にする」から見届けてほしいと思っているようです。
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超 超 超 超大切 大慎重に
並べて飾った星屑が
面白いほど丁寧に連れていかれる
憂いが奏でるのはこの声だ
追いかける過程での出会い
振りかざして生まれたグレーと愛
世界が選んでくのは愛とAI
僕をぐちゃぐちゃにしてく憂いと哀
≪リレイアウター 歌詞より抜粋≫
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この部分の「星屑」は楽曲を構成する音のことかもしれません。
稲葉曇は憂いの気持ちから、一音一音を「超大切 大慎重」に並べて歌愛ユキの声を奏でています。
リスペクトするボカロPを追いかけてボカロ曲を作り始めた中で歌愛ユキと出会い、今や歌愛ユキの歴史を変えたボカロPとまで言われるようになったのは、そんな実直さがあったからなのでしょう。
「グレー」は稲葉曇作品のMVではおなじみのぬくぬくにぎりめしが制作するモノクロイラストのことを指していると思われます。
また「AI」を電子的な存在であるボーカロイドと解釈すると、「世界が選んでくのは愛とAI」は歌愛ユキとボカロ曲が世界で認められていることを表現しているように感じました。
そして次第に2人が「ぐちゃぐちゃ」に混じってひとつになっていく様子が見えてきます。
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視界に入る新天体
僕は知っているそこまでの過程
それはどこで拾った武器なんだい
両手塞がって何も得られない
そんな気持ち晒してもつまらない
愛を籠めた遷移を知ってほしい
君もこんな苦しさだったのかも
今更わかってもどうしようもない
≪リレイアウター 歌詞より抜粋≫
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「新天体」はほかのボーカロイドを使用して作った楽曲のことと言えそうです。
『ラグトレイン』を思い出させる「両手塞がって何も得られない」のフレーズから、これまでどれほど一緒に楽曲を作り上げてきたとしても、過去にすがっていてはこの大切な関係を失ってしまう可能性があることを示しているように思われます。
しかしそんな暗い気持ちを表現していてもつまらないし、どうせなら自分たちの愛の経緯を多くの人に知ってほしいと願っているようです。
ここで出てくる「君」は、歌愛ユキから稲葉曇への呼称なのではないでしょうか。
多くの楽曲を通してその様々な感情を歌ってきたものの、まだ知らない想いがあったことに気づいて少し寂しい気持ちになっているところなのかもしれません。
この曲は“あたし”を愛している証
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寝たふりで誤魔化せば
消えて無くなる感情を
あたしのこころにひらがなで
流し込んで愛を証明しよう
魅力的な可能性
この声をどこか遠くへ
模様替えで疲れた僕を少し楽にさせて
≪リレイアウター 歌詞より抜粋≫
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「寝たふりで誤魔化せば消えて無くなる感情」は些細なものにも思えますが、所詮は自分の心を誤魔化してふたをしているだけです。
だからただ眠って初めからなかったことにするのではなく、歌にして昇華させてあげようとしている優しい一面が垣間見えます。
そうすれば「魅力的な可能性」がさらに広がっていくはずだと信じているのでしょう。
きっと歌愛ユキの声を「どこか遠くへ」と届けることができるはずです。
続く「模様替えで疲れた僕」という表現はユニークですね。
自分の心やそこから生まれる楽曲に新しい要素を取り入れようとして疲れているということだと解釈できそうです。
可能性が現実になった時には、自分たちのしてきた努力は間違いではなかったと安堵できるという意味で少し楽になれるのかもしれません。
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歌いだしたエネルギー
こころに拍を打ち 飛ばしてくれ
悲しみも楽しみもちょうど良く素敵にする
『愛を含んだ小学生』
あたしにずっとついてきて!
≪リレイアウター 歌詞より抜粋≫
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「『愛を含んだ小学生』」は『ひみつの小学生』を連想させ、小学生のキャラクターである歌愛ユキを象徴するフレーズとして用いられていると考えられます。
稲葉曇の愛を一心に受けてきたことが伝わってくると同時に、「あたしにずっとついてきて!」とこれからも変わらず一緒に楽曲を作っていくことを宣言していることも感じられる歌詞です。
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繰り返した 愛の中の憂いの中の
愛に気づけたことへの
どうしようもない僕の嬉しさは
あたしを愛している証しだ
≪リレイアウター 歌詞より抜粋≫
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2人の間に愛が生まれたのは憂いの気持ちからでしたが、その心の根本にはほかの誰も触れられない温かな愛がありました。
決して暗い感情で繋がっているわけではないと気づいたことを2人は嬉しく思っています。
そしてそれは「あたしを愛している証しだ」と歌愛ユキがはっきりと歌っていることは、これまで2人の楽曲を追いかけてきたリスナーの感動を呼ぶことでしょう。
ちなみにタイトルの「リレイアウター」は、中継や伝達を意味する「relay」と外側を意味する「outer」を合わせた言葉だと思われます。
歌詞と合わせると、稲葉曇の感情を人々に伝達するための存在として歌愛ユキがその心を包み込んでいるようなイメージが浮かんできました。
深い愛と固い結束力で結ばれた関係であることが感じられる素敵な楽曲ですね。
稲葉曇×歌愛ユキの愛が詰まった名曲!
『リレイアウター』の歌詞には稲葉曇と歌愛ユキの物語が詰まっていました。歌愛ユキを大切に使い続けてきた稲葉曇だからこそ紡げる愛にあふれる楽曲は、ボカコレランキング第1位にふさわしいと言えるでしょう。
2人の愛がこれからどんな作品を生み出してくれるのか、さらに期待が高まります!