臆病な恋心を歌うバレンタインソング
2021年よりボカロPとして活動を始め、作詞作曲から動画制作にいたるまで全てをこなすセンスの高さで注目を集めるKai。『さよならプリンセス』で自身初の殿堂入りとミリオンを達成すると、その他のボカロ曲も次々と殿堂入りを果たしています。
その1つである『ラプラスショコラ』は、2023年2月14日にTwitter(現X)にてショートVer.が投稿された楽曲で、ちょうど1年後の2024年同日にニコニコ動画・YouTubeにてフルVer.のMVが投稿されました。
バレンタインにぴったりの甘い恋心を歌った歌詞、癖になるメロディと初音ミクの愛らしい歌声、イラストレーターのakuyaが手がけた“ラプラスショコラちゃん”のキュートな姿が話題を呼んでいます。
さらに、TikTokやYouTubeで歌ってみた動画をはじめ数多くの関連動画が投稿されており、新たなバレンタインソングとして定着しそうな人気ぶりです。
タイトルに含まれている「ラプラス」はフランスの数学者であるピエール=シモン・ラプラスによって提唱された“ラプラスの悪魔”から取られたものと思われます。
ラプラスの悪魔とは、もし全ての粒子の位置や運動量などに関する情報を知り得る存在がいれば、物理法則に従って未来の全てを予測することができるという仮説です。
そして、そのような存在は悪魔に等しいという意味で、ラプラスの悪魔と表現されています。
この点が恋愛とどのように関わるのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
妄想 敗戦?
まだHPは充電中
ツいていないね
なんてチョコッとだけ彷徨っていたいなんて
どうだい ア・ラ・モードな求心中
乞いていないで
終わりの無い迷走cooking
≪ラプラスショコラ 歌詞より抜粋≫
----------------
バレンタインに合わせて作られた楽曲であることから、主人公はバレンタインを前にした片思い中の女の子と考えられます。
妄想の中の結果は悪く、「敗戦」の様子がちらつきます。
この点で、主人公は恋に臆病になっていることが窺えるでしょう。
また「まだHPは充電中」のフレーズは、裏を返せば充電しないといけないほどHPが削られていると解釈できます。
片思いの相手に好きな人がいたのか、彼のタイプが自分とかけ離れているために、両思いの見込みが薄いことを知って傷ついているのかもしれません。
そのせいで告白のシミュレーションも上手くいかないのだと思われます。
「ツいてないね」とさも傷ついていないかのように自分に言い聞かせてみても、彼に近づくたびに自分の恋心を痛感するのでしょう。
告白して振られるのはまだ怖くて踏み出せなかった「終わりのない迷走」状態の中で、思い悩みながら彼に贈るチョコレートを作り始めます。
恋心と嫌味を溶かしたチョコレートは失敗続き
----------------
初めにドキドキを砕いて
その欠片とミルクで溶かして
7gの嫌味を注いで
混ぜたら砂糖と想いで焼こう39分
ちょっと周りからの視線で冷やして
ヒミツの私だけは隠して
はなせやしないないないね
≪ラプラスショコラ 歌詞より抜粋≫
----------------
バレンタインのチョコレート作りで忘れてはいけない最も大事な要素は、自分の恋心からくる「ドキドキ」。
大切な人を想ってチョコレートを砕く工程は、まるで自分の心を砕くかのように心がこもっています。
そんな風に愛情をこめているにも関わらず、「7gの嫌味を注いで」というフレーズが印象的です。
「7g」は2月14日の数字をそれぞれ足した数(2+1+4)なので、バレンタインで告白されるまで自分の想いに気付いてくれない鈍感な彼への嫌味の気持ちを持っていることを表しているのではないでしょうか。
それらを混ぜたら「砂糖と想い」で甘く熱く焼き上げます。
初音ミクの名前にかけて「39分」としているところも素敵ですよね。
「周りからの視線」は冷ややかでも、本音という「ヒミツの私だけは隠して」想いをぶつけてみようとしている様子が伝わってきます。
ちなみにMVのこのシーンで出てくるQRコードでは、ラプラスショコラちゃんのプロフィールを確認できます。
そこには「ふわふわ系かわいい姉」がいて、その姉に劣等感があると記されています。
この姉とは、おそらく前作の『キューピット』の女の子を指しているのでしょう。
背中を合わせているかのような対になる構図であることと、天使と悪魔という正反対のモチーフのキャラクターであることからそう解釈できます。
彼女は高身長なのを気にしているとも記されているので、小柄でかわいい姉に似ていたら自分も彼に好きになってもらえたかもしれないと感じて劣等感を抱いていると考察しました。
それでも、料理が苦手なのに好きな人のために一生懸命チョコレートを手作りする健気さは、彼女の大きな魅力と言えるのではないでしょうか。
----------------
最低?残念 睡眠糖分ファンデーション
進展無い 進展無いからこうして悪魔と交信中
もう一回TIME-OUT 顔面永年残念賞
もうどうしてどうにもこうにもならないの
≪ラプラスショコラ 歌詞より抜粋≫
----------------
「睡眠糖分ファンデーション」という不思議なフレーズにも引き込まれます。
もしかしたら彼のことを考えすぎて夜も眠れないでいる上に、チョコレート作りに何度も挑戦しては失敗作を食べ続け、そのせいで肌が荒れているのをメイクで隠していることを表現しているのかもしれません。
こんなにも彼を想っているのに進展はないため、ラプラスの悪魔に縋ろうとしています。
顔色の悪さと肌荒れをメイクで必死に隠した顔は「顔面永年残念賞」。
これでは告白なんてできないと「もう一回TIME-OUT(一時中止) 」することにします。
未来を教えてくれラプラス
----------------
教えてくれラプラス
どうしてどうしたって言えないな
分かりきっているんだきっと
溶けてしまうわ!
答えてくれラプラス
どうしてどうしてどうして!
この未来だけは この未来だけは
暗闇なんだって
≪ラプラスショコラ 歌詞より抜粋≫
----------------
サビで主人公はラプラスの悪魔に語りかけています。
彼女は結果が分かりきっているからなかなか踏み出せず、告白をためらっているようです。
「溶けてしまうわ!」という言葉は、行き場もなく膨れ上がる自分の想いに疲れ始めているのか、もしくは告白できずに時間が過ぎて手元でチョコレートが溶け始めている状況を示しているのでしょう。
もし全てを知っている超越的存在がいるのだとしたら、どうして自分と彼の未来だけ「暗闇」なのか答えてくれと苦しい胸の内を吐き出しています。
----------------
将来 相愛?
小悪魔メイクで求愛中
吐いていないで
ほんのチョコっとだけプレゼントしたいねって
ひたすらため込んだ想いを
悪魔的な味をした恋と
口溶けの良い妄想music
≪ラプラスショコラ 歌詞より抜粋≫
----------------
諦めきれずにいつかは「相愛」になれたらと期待して、主人公は「小悪魔メイクで求愛中」です。
今まで「ひたすらため込んだ想い」を「ほんのチョコっとだけプレゼントしたい」と思っています。
相手を魅了するような「悪魔的な味した恋と口溶けの良い妄想music」が彼女の気分を盛り上げていきます。
----------------
堂々断念
脳内暗転ファッションショー
関係無い 関係無いのにこうして
悪魔を解明中
成分表 難解
冬眠冷凍恋愛脳
もう悶々と悩んだって
計算じゃ分からないよ
≪ラプラスショコラ 歌詞より抜粋≫
----------------
しかし彼女は「堂々断念」せざるを得ない状況に陥りました。
脳内は真っ暗に暗転し、まるで「ファッションショー」のように派手な光が駆け巡ります。
数学が得意な彼女はラプラスの悪魔がパラドックスで不可能な説だと分かっているものの、関係ないと承知の上で、未来を教えてくれる悪魔に縋ろうとしています。
人の心という「成分表」は難解で、自分の心も彼の心も解き明かせません。
いっそ冬眠するか冷凍するかして、この「恋愛脳」を機能できなくしてしまいたいとさえ思っているようです。
得意の計算でも答えにたどり着けない恋の難問に圧倒されています。
----------------
教えてくれラプラス
どうしてどうしたいって言えないの
分かりきっているんだきっと
逃げてしまうわ!
答えてくれラプラス
どうしてどうしてどうして!
この未来だけは この未来だけを
教えてくれラプラス
どうしてどうしたって癒えないな
分かりきっていたんだきっと
溶けてしまうわ!
分かんないよラプラス
どうしてどうしてどうして!
この未来だけは この未来だけは
暗闇なんだって!
≪ラプラスショコラ 歌詞より抜粋≫
----------------
「どうしてどうしたいって言えないの」とはっきり告白できない自分を歯がゆく思っている様子が垣間見えます。
「逃げてしまうわ!」というフレーズは自分が逃げ出したい気持ちと、彼に逃げられてしまうことの両方を指していると解釈できるでしょう。
この2番のサビとラスサビを繋げてみると「この未来だけを 教えてくれラプラス」というメッセージが浮かび上がります。
どんなに見込みがないと思っていても、心の隅ではどうしても諦めきれないでいる気持ちが垣間見えますね。
自分の想いが彼に通じるまでは、「どうしたって癒えない」心の傷を抱えながら彼への愛がこもったチョコレートを作り続けるのかもしれません。
バレンタインを盛り上げる甘いラブソングで恋心を高めよう!
Kai feat.初音ミクの『ラプラスショコラ』には、なかなか自分の気持ちを伝えられない恋に臆病な女の子の想いが綴られていました。バレンタインは、勇気がなくて告白できなかった人もチョコレートという贈り物に想いを乗せて届けられる特別な日です。
甘くて少しほろ苦いラプラスショコラちゃんの恋模様に自分の恋を重ねて、次のバレンタインは一歩踏み出してみませんか?