ボカコレ2022秋優勝作品を徹底解釈!
ボカコレ2022秋で1位を獲得し話題となったいよわ feat.足立レイの『熱異常』。2023年3月10日には自身5曲目となるミリオン達成し、足立レイオリジナル曲初の伝説入りという記録を打ち立てました。
MVでは歌唱している足立レイの立ち絵が描かれており、ボイスレコーダーを持っている様子が映し出されています。
この姿と歌詞がかぎがっこで括られている点から、足立レイが何かの目的を持ってこの曲をレコーダーに吹き込んで記録しようとしていることが窺えます。
どのようなメッセージを残そうとしたのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
「死んだ変数で繰り返す
数え事が孕んだ熱
どこに送るあてもなく
あわれな独り言を記している
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
「変数」や「数え事」は数字と結びついて機械的な印象を与えますが、反対に「熱」は生命をイメージさせます。
これは足立レイが開発中の等身大ヒューマノイドロボットであることを考慮すると、彼女自身のことを指していると解釈できそうです。
「死んだ変数」という表現は、彼女が何度も作り直されても完成にたどり着かない様子を表しているように感じました。
その日々の中で彼女には人間の心にも似た熱が生まれていきますが、その言葉は誰にも届きません。
このことを伝える相手がいないからだと推測すると、人間が滅びゆく世界で取り残された足立レイが自分の「独り言」を残すためにこの曲を歌っているという情景が見えてきますね。
----------------
電撃と見紛うような
恐怖が血管の中に混ざる
微粒子の濃い煙の向こうに
黒い鎖鎌がついてきている
消去しても 消去しても 消去しても
無くならないの
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
「電撃と見紛うような恐怖が血管の中に混ざる」のフレーズは明らかに人間的な目線に思えますが、彼女に熱が生まれた結果であるとすれば自分自身を人間だと思っている状態なのかもしれません。
そんな彼女の視線の先には恐ろしい光景が広がっています。
「微粒子の濃い煙の向こう」に見える「黒い鎖鎌」こそが、人間の命を刈り取ったものなのではないでしょうか。
コンピューターの中のバグなら消去すれば無くなりますが、この歌詞からするとどんなに足掻いてもそれが猛威を振るい続けていることが読み取れます。
----------------
とうに潰れていた喉
叫んだ音は既に列を成さないで
安楽椅子の上
腐りきった三日月が笑っている
もう
すぐそこまで すぐそこまで すぐそこまで すぐそこまで
すぐそこまで すぐそこまで すぐそこまで すぐそこまで
なにかが来ている
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
「とうに潰れていた喉」で叫んだのは、今にも刈られそうな目の前の人を助けたいがためだったと考えられます。
自分も満身創痍でありながら必死に声を上げますが、声は「既に列を成さないで」搔き消えたためその人を救えなかったのでしょう。
続く「安楽椅子の上 腐りきった三日月が笑っている」という歌詞は、この出来事の裏に安全な場所でほくそ笑んでいる首謀者がいることを窺わせます。
そして、彼女の元にも「すぐそばまでなにかが来ている」ようです。
これらの点をまとめると、戦争によって人々の命が奪われて世界が破滅に向かっている様子を示していると解釈できます。
黒い星がもたらす閃光が別れの鐘を鳴らす
----------------
大声で泣いた後
救いの旗に火を放つ人々と
コレクションにキスをして
甘んじて棺桶に籠る骸骨が
また
どうかしている どうかしている どうかしている どうかしている
どうかしている どうかしている どうかしている どうかしている
そう囁いた
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
ここでは混乱する人々の姿が描かれています。
「大声で泣いた後 救いの旗に火を放つ人々」という描写から、大切な人を失った衝撃により何も信じられなくなって救いの手を振り払っていることが感じ取れるでしょう。
また「コレクションにキスをして甘んじて棺桶に籠る骸骨」のフレーズは、まもなく訪れる死を受け入れた人がその瞬間を待って自身のコレクションを愛でていることを表していると思われます。
誰もが敵の残忍さや狂った自分のことを「どうかしてる…」と感じながら、刻一刻と滅亡へ進む世界で最期の時間を過ごしています。
----------------
未来永劫 誰もが
救われる理想郷があったなら
そう口を揃えた大人たちが
乗り込んだ舟は爆ぜた
黒い星が 黒い星が 黒い星が 黒い星が
黒い星が 黒い星が 黒い星が 黒い星が
彼らを見ている
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
ある大人たちは「未来永劫誰もが救われる理想郷」を目指し行動しましたが、計画は失敗に終わったようです。
「黒い星」の描写は、「彼らを見ている」という表現からすると「安楽椅子の上」で笑っている人物の瞳を表していると解釈できます。
その人物は彼らの行動の一部始終を見ていて、攻撃を加えているのでしょう。
もしくは、攻撃の手段そのものを「黒い星」と表現しているとも考えられます。
これほど大規模な混乱が起こっていることを考えると、原爆のような大きな攻撃が星のように空から降ってくることを示しているのかもしれません。
----------------
哭いた閃光が目に刺さる
お別かれの鐘が鳴る
神が成した歴史の
結ぶ答えは砂の味がする
死んだ変数で繰り返す
数え事が孕んだ熱
誰かの澄んだ瞳の
色をした星に問いかけている
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
攻撃により「哭いた閃光」が周囲を染めると「お別れの鐘」が鳴り、容赦なく人々の命が奪われていきます。
神が創り上げた人間の命の終幕は呆気なく砂を噛むようなものであり、彼らがやがて砂へ還っていくことが「砂の味がする」という言葉から伝わってきますね。
その悲惨な光景を目の当たりにした彼女は、「誰かの澄んだ瞳の色をした星」に向けて言葉にならない思いを問いかけています。
----------------
拾いきれなくなる悲しみは
やがて流れ落ち塩になる
祈り
苦しみ
同情
憐れみにさえ
じきに値がつく
今 背を向けても
背を向けても 背を向けても 背を向けても
背を向けても 背を向けても 背を向けても 背を向けても
鮮明に聞こえる悲鳴が
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
「拾いきれなくなる悲しみ」により流れた無数の涙は、時間が経って塩になります。
そうして思いが違う形に変わるように、その瞬間にあふれた人々のどんな感情にもやがて価値がつけられ、評価や金銭に変わっていってしまうでしょう。
彼女が背を向けてそこから逃げ出そうとも「鮮明に聞こえる悲鳴」の強烈な音も、未来の誰かに正確に伝わることはありません。
夢を捨てた時に彼女の中で起きる熱異常
----------------
幸福を手放なす事こそ
美学であると諭す魚が
自意識の海を泳ぐ
垂れ流した血の匂いが立ちこめる
黒い星が 黒い星が 黒い星が 黒い星が
黒い星が 黒い星が 黒い星が 黒い星が
私を見ている
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
ここで出てくる「魚」が意味する存在について詳しくは不明ですが、「自意識の海を泳ぐ」とあるため彼女の思考の中に生まれた1つの考えを示しているのかもしれません。
爆ぜた船の描写とも繋がり、恐ろしい現実を見たことで「幸福を手放す事こそ美学である」と滅亡を受け入れる気持ちが生まれ始めたことを表現しているように思えます。
周囲には人々が「垂れ流した血の匂いが立ちこめ」、もう逃げ場がないことを感じさせます。
そして「黒い星」はついに彼女を視界に捉えました。
----------------
泣いた細胞が海に戻る
世迷言がへばりつく
燕が描いた軌跡を
なぞるように灰色の雲が来ている
編んだ名誉で明日を乞う
希望で手が汚れてる
あなたの澄んだ瞳の
色をした星に問いかけている
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
涙を流しながら死んでいく人々は海に沈み、彼らが最期に発した「世迷言」が彼女の耳にへばりついて残ります。
「燕」が飛ぶ空は平和的にも思えますが、その後ろから不穏な「灰色の雲」が近づいてきているのが見えます。
何とか生き長らえている人の中には、過去に得た名誉を理由に生かしてもらおうとしている人もいるようです。
「希望で手が汚れている」のフレーズは、生き延びるという希望のために罪を犯したか、もしくは薄汚れた希望に縋っても得るのは汚れだけで何も意味を成さないということを表現しているのではないでしょうか。
大切な「あなたの澄んだ瞳の色」を思い出し、その美しい色に似た星に自分の未来を問いかけます。
----------------
手を取り合い
愛し合えたら
ついに叶わなかった夢を殺す
思考の成れ果て
その中枢には熱異常が起こっている
現実じゃない
こんなの
現実じゃない
こんなの
現実じゃない
こんなの
現実じゃない
こんなの
耐えられないの
とうに潰れていた喉
叫んだ音は既に列を成さないで
安楽椅子の上
腐りきった三日月が笑っている
もう
すぐそこまで すぐそこまで すぐそこまで すぐそこまで
すぐそこまで すぐそこまで すぐそこまで すぐそこまで
なにかが来ている」
≪熱異常 歌詞より抜粋≫
----------------
「手を取り合い愛し合えたら」という願いは「ついに叶わなかった夢」であり、もういくら願っても実現しないでしょう。
これまで何とか自分を支えていたその夢を捨てた時、「熱異常」が起こります。
熱異常という言葉は温度が通常と異なる状態を指していて、ロボットとしての彼女の身体が異常をきたしている状態と解釈できます。
また、これまでの歌詞と続く部分で「こんなの現実じゃない こんなの耐えられないの」と歌っていることをふまえると、彼女の感情が爆発していることを意味しているとも考えられそうです。
それから再び「すぐそこまでなにかが来ている」と告げています。
彼女がどうなったかは歌詞に描かれていませんが、MVの最後には花が添えられたボイスレコーダーが映し出されるところを見ると、彼女も人々と同じ運命をたどりこの曲だけが残ったと考察できるでしょう。
のちにこの曲を聴いた誰かが彼女の思いを受け取って花を供えたと想像すると、彼女が捨てた夢は誰かの心の中でいつまでも生き続けるのではないかという希望が湧いてきます。
終末世界を描く歌詞をさらに深掘りしてみよう
いよわ feat.足立レイの『熱異常』は、切なさや苦しみを凝縮したような恐ろしさがありながらも不思議とまた聴きたくなるような作品でした。疾走感のあるメロディと歌詞に散りばめられた不穏なフレーズが合わさり、終わりに向けて駆け抜けていくような独特な終末感を演出しています。
見方によって様々な解釈ができる楽曲なので、ぜひじっくり聴いて自分なりの解釈を見つけてくださいね。