ファンの要望に応えてリリース
「ワンオク」の愛称で知られるONE OK ROCKは、2005年にデビューした4人組バンド。特に10〜40代のファンが多く、コンサートチケットが入手困難になるほどの人気を誇っています。
またアメリカを拠点にワールドワイドに活動し、英語歌詞の楽曲が多いこともその証拠と言えるでしょう。
今回紹介する『dystopia』は、日本テレビ系報道番組「news zero」のエンディングテーマ。
2024年5月から流れていましたが、ファンの要望もあり同年10月25日にリリースされました。
「ディストピア」とは理想郷を意味する「utopia(ユートピア)」の対義語で、社会の崩壊や抑圧、破壊的な状況など悲惨な未来を意味します。
どのような歌詞なのかさっそく見ていきましょう。
住みにくい世を生きる異教徒たち
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Tryin' to find some inner peace
Apocalyptic tendencies
We blame it on a whisper
For the shame that's in our system
≪Dystopia 歌詞より抜粋≫
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始めの「Tryin' to find some inner peace」は「内なる平和を探そう」、続く「Apocalyptic tendencies」は「黙示録的な傾向」という意味です。
「黙示録」とは新約聖書に登場する文章で、世界の終末や最後の審判、キリストの再臨などが記されています。
「世界の終末なんて大げさな」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、世の中を見てみると終末に近い出来事がたくさん起こっています。
例えば終わらない紛争や異常気象、貧困・飢餓などが挙げられるでしょう。
身近な例で言えばハラスメントに賃金格差、闇バイトを募集するSNSなど、終末までとはいかなくてもこちらをネガティブにさせる話・状況は多々あります。
そのような世の中で心を平和に保とうとしているのではないでしょうか。
「We blame it on a whisper」は「囁きのせいにする」、「For the shame that's in our system」は「私達のシステムの恥を」と訳します。
「私達のシステム」とはおそらく「社会のルール・決まり事」だと思われます。
それらを「恥」としたのは、そのルールが不正や不公平・非人道的なものになってしまっているから。
社会に暮らす人々を守るためのルールが、一部の人間が私利私欲のために好き勝手にしていると解釈できそうです。
そしてそのような社会のルールの「恥」をウソか本当かも分からない噂やつぶやきのせいにして、不満な日々をやり過ごしていると思われます。
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Pain in all our yesterdays
And fears that keep us wide awake
We're looking for a reason
When did we become the heathens
≪Dystopia 歌詞より抜粋≫
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「Pain in all our yesterdays」は「過去のすべての苦痛」と解釈できます。
「yesterday」なら「昨日」を意味しますが、複数形になったことで過去すべての日々のことだと分かります。
「And fears that keep us wide awake」の「wide awake」はくっきりと目が覚めた様子を指し、転じて「眠れない」という意味になります。
「過去に起きた辛い出来事が眠れないほどの恐怖になっている」と意味しているようです。
現在は技術もサービスも発達して昔よりも豊かになっているはずなのに、なぜ苦痛を感じ、幸せを感じられないのでしょうか?
「We're looking for a reason」の「私たちは理由を探している」とあり、苦しい世の中を生きることになってしまった理由を探そうとしています。
サビの前の「When did we become the heathens」という歌詞は、「いつから私たちは異教徒になったのか」という意味になります。
「heathens」の意味は「異教徒」。
キリスト教など一神教の信者から見て、どの宗教も信じていない者や他の宗教を信じる者を差す言葉です。
この場合の異教徒とは不安や辛い出来事ばかりの世の中で、何を心の拠り所にすればいいのか分からない人を指すのではないでしょうか。
生きる希望や道筋が見つからない、そのように感じられます。
dystopiaの中にあるもの
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My colors bleed
I'm turning blue
You say god speed
I'll follow you
We got no place to go
And nothing to lose
≪Dystopia 歌詞より抜粋≫
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「My colors bleed」は「私の色が滲む」という意味。
この場合の「colors」とは色のことではなく、その人の個性やアイデンティティを意味します。
自分の個性が「社会の常識・当たり前」に溶けてなくなっていく様子が表現されています。
続く「I'm turning blue」の「blue」も青色ではなく、悲しみや孤独を意味し「私が悲しみに染まっていく」と解釈できます。
ですが悲しいことばかりではありません。
「You say god speed」の「god speed」は、神の加護を意味します。
悲しみに沈んでいる人に対し「あなたに神の加護がありますように」と言ってくれる人がいるのです。
そんな相手に対し「I"ll follow you」、「私はあなたについて行く」としています。
誰かがいてくれるだけで安心感や勇気が湧いてくる、そのような経験をした人もいるのではないでしょうか。
続く「We got no place to go」「And nothing to lose」は「行くあてはないけど失うものはない」と訳せます。
「心の拠り所はないけど失うものはない。だから恐れるものはない」と、絶望的な社会であっても前向きに捉えようとする様子がうかがえます。
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Find euphoria in dystopia
Let our souls become the magnets
No running from the sadness
Find euphoria in dystopia
Where there's love and understanding
No running from the sadness
≪Dystopia 歌詞より抜粋≫
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「Find euphoria in dystopia」の「euphoria」は幸福感や満たされる様子を意味し、「ディストピアの中に幸福を見出そう」となります。
さらに「Let our souls become the magnets」は「魂を磁石のように惹きつけて」という意味です。
これらの歌詞からは「嫌なことばかりな世の中にも幸せはあるし、見つけられる」という強いメッセージ性があるように感じます。
「No running from the sadness」は「悲しみから逃げないで」となり、「Where there's love and understanding」は「そこに愛と理解があるから」と訳せます。
ここで言う「愛と理解」は相互理解や共感、調和だと解釈できそうです。
「誰かを助けたい、理解したい」と思う気持ちは、人間が本来持っている心のシステムやルールなのかもしれません。
そして今の生きづらい世の中で、心のシステムが機能しにくくなっているとも言えそうです。
もし一人ひとりが相手を理解する気持ちや共感しようとする気持ちが機能するようになれば、世界はきっと良い方向へ進んでいくのではないでしょうか。
行く先は上しかない
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暗がりを抜けて作る
不確かなメロディー
繋ぐのは君と僕
No more getting in my own way
目も眩むスピードで
青く滲んだ僕は
失うものも行くあてもない
≪Dystopia 歌詞より抜粋≫
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終末感が漂う世の中であっても、誰かと手を取り何かを作り出すことはできます。
それを「不確かなメロディー」という歌詞で表現しているのでしょう。
はっきりしないメロディーが、いつか誰の耳にも届く愛される音楽になっているかもしれません。
そこに未来への希望を感じます。
また「No more getting in my own way」は「もう自分の邪魔はしない」という意味になります。
自分を邪魔しているのは、他人ではなく自分自身のネガティブな考えや思い込み。
ですが「もう邪魔はしない」とあるように、そのような後ろ向きの考えを自ら投げ捨てたと解釈できそうです。
「目も眩むスピードで」とは、「自分から悪い考えを捨てた人を止めることはできない、足止めするものはない」と言っているのかもしれません。
また「青く滲んだ僕は」とあるように再び「青」が歌詞に登場しますが、曲前半とは意味が異なるように思います。
前半に登場した「I'm turning blue」の「blue」は「悲しみ」と解釈しましたが、後半の「青」は空や海のような清々しさ、広大さを意味しているのではないでしょうか。
心や社会の抑圧から開放され、海や空を自由に飛び回っている、そんなイメージです。
「失うものも行くあてもない」という歌詞からは悲壮感が感じられず、どこまでも自由に飛んでいく、そのような可能性が詰まった歌詞のように思います。
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Connecting you and I
It's only up
≪Dystopia 歌詞より抜粋≫
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「Connecting you and I」は「あなたと私を繋げるもの」、「It's only up」は「行く先は上しかない」となります。
今も世界各地で悲惨な出来事が起こり、身近な場所でも悲しい出来事や嫌な事件が起きています。
ですが「嫌な世の中だ」と下を向いて生きるよりも、「それでもどうにかなる」と前を向いて生きることはできるはずです。
ディストピアのような世の中でも私達は幸福を見つけて生きていけると、本楽曲では力強く伝えているのかもしれません。
生きる気持ちを奮い立たせるロックナンバー
ONE OK ROCKの『dystopia』は、様々な問題を抱えた現代を象徴するような一曲です。力強いサウンドと歌詞が「生きづらい世の中でも前を向いて生きていける」と、背中を押してくれます。
ONE OK ROCKの熱い思いがこもった本楽曲を、ぜひ聴いてみてくださいね。
2005年にバンド結成。エモ、ロックを軸にしたサウンドとアグレッシブなライブパフォーマンスが若い世代に支持されてきた。 2007年にデビューして以来、全国ライブハウスツアーや各地夏フェスを中心に積極的にライブを行う。 これまでに、武道館、野外スタジアム公演、大規模な全国アリーナ···