「萎えるぜ」と「唸るぜ」
楽器を持たないパンクバンド『BiSH』のメンバーとして2016年にメジャーデビューしたアイナ・ジ・エンド。グループ在籍中の2018年に自ら作詞作曲を手掛けた楽曲『きえないで』でソロデビューを果たします。
2023年6月に『BiSH』が解散してからは、ソロアーティストとして精力的に活動を開始し、一度聴いたら忘れられない余韻のある歌声によって、数多くの主題歌を担当します。
今回、2025年7月2日に配信リリースされた『革命道中』は、少年ジャンプ+で連載中の『ダンダダン』の2期オープニングテーマです。
累計発行部数は2025年4月時点で1000万部を突破したオカルティック怪奇バトル漫画の『ダンダダン』のあらすじは「幽霊肯定派の女子高生・綾瀬桃と、同級生の怪奇現象オタク・オカルン君こと、高倉健。
互いに否定するUFOと怪異を信じさせるため、桃はUFOスポットの病院廃墟へ、オカルンは心霊スポットのトンネルへ行くのだが…」というもの。
ホラー、SF、ラブコメとあらゆるジャンルを詰め込んだ漫画が『ダンダダン』です。
そんな『ダンダダン』のオープニングを担当することになったアイナ・ジ・エンドは公式のコメントで「「革命道中」では、センチメンタルな恋心を抱きながら、大切なものを守るために戦い走り抜く様を音楽に詰め込みました。
モモやオカルンの心模様でもあり、迷いがある人の背中を押していけるような曲にもなりました。」としています。
疾走感溢れるサウンドの中で、「迷いがある人の背中を押していけるような」気持ちが込められた歌詞の意味を今回は考察していきたいと思います。
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唸るぜ
血泥ついたって守りたい
革命道中 だって 君に夢中
暗闇染み込む世界で見つけた
センチメンタルな恋
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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歌いだしの語尾は「ぜ」になっています。
これは『ダンダダン』の主人公の一人、オカルンが呪いによってターボババアに変身した際の台詞「萎えるぜ」を連想させます。
そのため、この「唸るぜ」はオカルンの台詞でしょう。
ただ、一方でアイナ・ジ・エンドは公式のコメントの中で「モモやオカルンの心模様」を意識した発言をしています。
『革命道中』の歌詞の中は「君」へ向けた問いかけはあっても、「僕」や「私」といった一人称は一度も出てきません。
これは「モモやオカルンの心模様」と言うように二人の心境が入り混じった歌詞になっているからだとすれば納得ができます。
そう考えれば「血泥ついたって守りたい」「革命道中だって君に夢中」はモモとオカルン二人が思っていてもおかしくない内容になっています。
続く「暗闇染み込む世界で見つけた」はあらすじにあった「UFOと怪異」が現実を侵略してきては、そのドタバタに巻き込まれる『ダンダダン』という作品世界そのものを的確に表現した歌詞として読むことができます。
そして、「センチメンタルな恋」。
『ダンダダン』という、あらゆるジャンルを詰め込んだ作品の根底にあるのは、モモとオカルンの間で起きる「センチメンタルな恋」です。
ちなみに、「センチメンタル」を調べると「弱々しい感情に走りやすいさま。情にもろいさま。感傷的」と出てきます。
モモとオカルンは宇宙人とも、怪異とも勇ましく戦います。
けれど、二人きりになると、互いの好意を上手く伝えられずにじれったく、思い悩みます。
好きな人の前では年相応の少年少女になることが『ダンダダン』の魅力の一つと言えます。
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甘くぬかるんだ眼差し
変に色気あるから困った
手を繋ぐ勇気出したくて
身の程わきまえてちゃ出来ないね
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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「甘くぬかるんだ眼差し」「変に色気あるから困った」
この箇所はモモの心情を連想させます。
モモの理想の男性は俳優で歌手の高倉健です。
オカルト好きのオカルンとは程遠い好みに思えますが、まず本名が「高倉健」であり、また一人称が「ジブン」です。
オカルンはモモから見ると、高倉健を構築する要素を持ち合わせています。
そのため「甘くぬかるんだ眼差し」を向けたり、オカルンの仕草や言動に「色気」を感じたりするのも頷けます。
続く歌詞の「手を繋ぐ勇気出したくて」「身の程わきまえてちゃ出来ないね」はオカルンの心情に近いように思います。
オカルンはモモに話しかけられるまで、教室で一人UFO雑誌を読んでいるような男の子でした。
彼からすれば、教室で明るく友達に囲まれているモモの存在は、高嶺の花に見えたことでしょう。
必要のなかった「?」

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暗いトンネルの壁
したたり落ちる秘密
しめやかに高鳴る心
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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モモとオカルンを近づけたきっかけは「暗いトンネル」です。
そこで、オカルンはターボババアという怪異に呪われてしまうのですが、それ故にモモとの関係性が築けたと言うこともできます。
「したたり落ちる秘密」は、ターボババアを含む怪異という存在には常に悲しく重い過去と秘密が潜んでいることを指します。
そんな怪異から力を借りることで、オカルンや他の登場人物は特別な力を使うことができます。
「しめやかに高鳴る心」という歌詞には、怪異の悲しさと戦うための力を手にできた登場人物の心を的確に表現しています。
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ダメダメ...
待て待て...
呪いも病も抱きしめたい
ここらで暴れちゃってもいいかな
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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「ダメ」と「待て」を繰り返した後に、「呪いも病も抱きしめたい」と言います。
『革命道中』という楽曲で注目したいのが、この「〜たい」と言うスタンスです。
ここまでで言うと「血泥ついたって守りたい」であり、今回は「呪いも病も抱きしめたい」です。
「守りたい」や「抱きしめたい」は願望です。
「〜たい」と言っている以上、まだ守っていませんし、抱きしめてもいません。
楽曲のタイトルにもある「道中」を調べると、「旅行の途中。旅路。旅行。」と出てきます。
つまり、『革命道中』とは革命の途中であり、「血泥ついたって守」る途中であり、「呪いも病も抱きしめ」る途中なんです。
そして、続く「ここらで暴れちゃってもいいかな」も問いかける形となり、この時点では暴れてはいません。
また、ここの「いいかな」に「?」はありません。
問いかけとしても、中途半端に止まってしまっている印象ですが、「?」をつけるまでもない信頼の証としてここは見ることも可能です。
どういうことか歌詞を見ていきましょう。
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なりふり構わず側にいたい
不器用な君にも期待しちゃうよ
しがみつけば 消えそうな火に
恋の爪立てて近づいてもいい?
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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ここでも「〜たい」です。
「なりふり構わず」と言いつつ、側にいるのではなく「側にいたい」という願望を伝えています。
続く「不器用な君」はオカリンが無意識に高倉健の台詞「ジブン、不器用なんで」をなぞるシーンがあるため、ここの「君」はオカリンのことでしょう。
そんなオカリンに「期待しちゃうよ」と遠慮というか、距離のある物言いの印象を持ちます。
続く「しがみつけば消えそうな火に」「恋の爪立てて近づいてもいい?」という歌詞は詩的で印象に残ります。
また、ここでは『革命道中』の中で唯一の「?」が出てきます。
おそらく、このフレーズはモモでもオカルンでもない、第三者の心情を歌ったものなのでしょう。
それ故に、分かりあっている二人の関係性を描いていた歌詞には必要のなかった「?」がここで登場したのでしょう。
また、「恋の爪立てて近づいてもいい?」とあるので、この第三者はオカルンに恋をしている登場人物であることが予想できます。
「二人で」「突き進む」

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身を任せ 抱かれて
全て失ってもいい
しめやかに高鳴る心
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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先程も登場した「しめやかに高鳴る心」というフレーズが入っています。
ここは怪異と登場人物の心情が混ざる意味だと解釈しました。
そのため、ここの「身を任せ抱かれて」「全て失ってもいい」という歌詞は、怪異に身を差し出しても良いと受け止めて良いでしょう。
また、「失ってもいい」と言う表現はやはり、まだ失っていない印象を持ちます。
ただ、同時に『革命道中』が描く途中の状態に対して、「身を任せ」て「全て失ってもいい」と言う状況は切迫し、追い詰められている印象を持ちます。
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ダメダメ...
待て待て...
呪いも病も君となら
ここらで暴れちゃってもいいかな
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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また、「ダメ」と「待て」を繰り返したあと、「呪いも病も君となら」と続きます。
さきほどは「呪いも病も抱きしめたい」だったものが、「呪いも病も君となら」と呪いと病を引き受ける決意がここで垣間見えます。
ただし、その決意は「君となら」です。
一人で全てを引き受けるのではなく、君と分かち合うことが重要なようです。
これは言い換えれば、一人で暴れてはいけないのです。
「君と」だから、「暴れちゃってもいい」に繋がれるのです。
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あぁ泣けるぜ
絶句しちゃうまで離れない
革命道中 だって 君に夢中
揺蕩う旅の狭間で見つけた
センチメンタルな恋
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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歌いだしは「唸るぜ」でした。
ここでは「あぁ泣けるぜ」です。
だいぶ、追い込まれていることが伺えます。
しかし、そんな中でも「革命道中だって君に夢中」と言い、「揺蕩う旅の狭間で」「センチメンタルな恋」を見つけます。
君といれば、大丈夫ということでしょう。
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突き進むなら 二人で
革命道中 だって 夢に熱中
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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「革命」を調べると「被支配階級が、支配階級を倒して政治権力を握り、国家や社会の支配を根本的に変えること」と出てきます。
重要なのは「支配を根本に変えること」でしょう。
そして、それを「二人で」「突き進む」のだと、言うのが『革命道中』です。
そのために繰り返すように「暴れちゃってもいいかな」と二人で問いあっているのでしょう。
また、そんな革命の最中に「夢に夢中」だとも言います。
今までは「革命道中だって君に夢中」でした。
「君」が「夢」に変わっています。
二人の中に「君」が深く入り込んだことが、ここで分かります。
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怖くたって唸るぜ
血泥ついたって守りたい
革命道中 だって 君に夢中
暗闇染み込む世界で見つけた
センチメンタルな恋
≪革命道中 歌詞より抜粋≫
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最後のパートです。
歌いだしは「唸るぜ」であり、一つ前は「あぁ泣けるぜ」と弱音を吐いてた、オカルンが「怖くたって唸るぜ」と言います。
ここで注目すべきは「怖くたって」です。
オカルンはずっと怖かった。
それを口にせず、ここまで来たけれど、最後の最後でそれを口にします。
ここに『革命道中』という楽曲が「迷いがある人の背中を押していけるような曲」である所以があります。
この曲自体が一つの革命を起こすとすれば、「革命」という目的の中でも「君に」あるいは「夢に」夢中になって良いと言っていることです。
「血泥ついたって守りたい」と思いながら、「怖い」けど、「唸るぜ」と言っても良い。
一つの目的のために、置き去りになるものを無視しなくて良い、と『革命道中』は宣言しています。
もっとも優しい革命

アイナ・ジ・エンドは、迷いを迷いのまま持って進んで良いと認めているように見えます。
それは本来的な「革命」とはまったく別のニュアンスです。
「革命」には必ず犠牲が必要なはずですから。
『革命道中』で起こる革命は、この歴史上でもっとも優しい革命になるのかも知れません。
ぜひ、アイナ・ジ・エンドが言うように「迷いがある人」は『革命道中』を聴いて、優しい革命に巻き込まれてみてはいかがでしょうか。