宇多田ヒカルの再始動後の新曲「花束を君に」が話題を呼んでいる。
けれど同じ花束でも、ロック好きに嬉しいのはこちらではないだろうか。ALのファーストアルバム『心の中の色紙』ラストに収録されている「花束」だ。
公開日:2016年6月6日
宇多田ヒカルの再始動後の新曲「花束を君に」が話題を呼んでいる。
けれど同じ花束でも、ロック好きに嬉しいのはこちらではないだろうか。ALのファーストアルバム『心の中の色紙』ラストに収録されている「花束」だ。
ただし”ファーストアルバム”といっても「おかえり」と言いたくなるような一枚。なぜならALは、2014年に解散したandymoriの小山田壮平と、親友のシンガーソングライター・長澤知之のユニットに、andymoriベースの藤原寛と前ドラムの後藤大樹が加わって結成されたバンドだから。
ある意味復帰作である今作の、最後の曲で贈られた「花束」。思いがけないプレゼントのように感じて、胸がいっぱいになるのは私だけではないはずだ。
そんなALからの「花束」、歌詞はとてもシンプル。
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花束をあげるよ みんな愛してるよ
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小山田壮平の歌うメロディに、長澤知之が澄んだハイトーンのコーラスを乗せて美しく聴かせるフレーズ。小山田の声が以前よりぽわんとしていてあどけなく感じられる。
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ここにいてくれて嬉しいよ 本当の気持ちなんだ
君の過ごしたすべてに 僕から花束を
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ではこの「花束」、いったい誰に贈られたものなのだろう。歌詞の中の「君」とは?彼らを待っていた、いちファンである私が断言したい。これはALからリスナーに向けて贈られた「花束」だ。
andymoriの解散間近は、なかなか思うようにファンの前に出られる状況ではなかった小山田壮平。「ここにいてくれて嬉しいよ」という言葉が、その時からずっと彼の復帰を待っていた人たちの、過ごしていたすべての時間に「ありがとう」と言っているのだ。
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僕は君のことを見てる 君は僕のことを見てる
君がいる世界の証に手向けよう 花束を
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とすると、この部分は、歌によって出会うバンドとリスナーのことを意味するはずだ。本来、花束はどちらかと言えば聴く側からステージ上のアーティストに送るイメージが強いもの。でも「君のことを見ている」という言葉が、一方通行の音楽を否定している。
「僕」と「君」が、音楽によってお互いの視界に入る瞬間。それは、歌い手と聴く側がダイレクトに顔を合わせられるライブ会場でもあるだろうし、インターネットやラジオでのメッセージというリアクション、あるいは曲を受け取った時の、聴く側の笑顔についても言えるかもしれない。
そのうちのどんなシチュエーションでも、作り手と聴く手の感情が交差する「今」という瞬間を讃えるために、僕は歌を歌っている、歌い続ける。活動休止を経た小山田壮平の、そんな力強い意思が感じ取れる。
andymoriの曲は、青春だった。聴くたびに激しく感情を揺さぶられて、「忘れていた情熱」みたいなものを思い出したり、今を生きる衝動に駆られたりした。
でも、ALの「花束」から感じるのは、さらに大きな愛。メロディも言葉も声も、聴く側を優しく満ち足りた空気で包む。
どちらがどう、というわけじゃないけれど、ただただ、戻ってきてくれてありがとう。
いつだって、私たちはALからの、歌という花束を待っている。そしてこちらからも、心からの拍手という花束を贈りたいのだ。
TEXT:佐藤マタリ