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文藝天国「雲海」の歌詞の意味を考察。真っ白なヴェールに隠された、変化の苦しみと美しさ

「雲海」は、文藝天国の13thシングルです。歪んだギターと繊細なボーカルで、春の芽吹きを歌ったロックバラード。比喩表現が多く、人それぞれ解釈の異なる本楽曲ですが、様々な要素を拾いながら、歌詞の意味を詳しく考察していきましょう。

様々なアプローチで天国を創る、文藝天国

文藝天国とは、日本のオルタナティブ・ロックユニットです。

2019年に結成し、メジャーのレーベルに所属することなく二人組で活動中。

「天国を今此処につくろう。」という思想のもと、「五感を通じて感じるアート」を追求しています。

そのため音楽活動に留まらず、文藝音楽班、文藝映像班、文藝服飾班、文藝食卓班という4つに分かれた部門が存在。

香水ブランド「PARFUM de bungei」や紅茶専門店「喫茶文藝」など、その活動は多岐に渡ります。

バンド「文藝天国」は文藝音楽班による活動であり、「オルタナティブアートコレクティブ」と形容される、文藝天国の思想を体現した美と哲学の表現に定評があります

「ビジネスそのものをアートにする」という理念も掲げており、商業的な要素の否定をベースとするオルタナティブロックの概念を見直すような在り方が特徴的です。

愛しくも憎い、雪と雲海に隠された鮮やかな春

▲文藝天国 「雲海」Lyric Video
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ねえ春は好き?
窓辺は凍りつく。
真冬の病室は、捲る雲の上
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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最初の歌詞。「春は好き?」と問う君は、どうやら真冬の病室にいるようです。

厳しい寒さの続く冬とは、もう少しで暖かな春がやって来るという前兆でもあります。

しかし、病か怪我か、何か危険な運命に脅かされた君にとって、それを待てるだけの時間は残されていないのかもしれません。

「雲海」はそんな、どこか不穏な影を感じるフレーズで始まります。

そして、「真冬の病室は、捲る雲の上」という歌詞。

雲は上空から見ればただ白く美しいものですが、その下に街や自然、人の営みなど複雑な存在を隠しています。

君のいる病室は、そんな捲られることのない雲海のようにただ真っ白で、君の苦しみやすべてを覆い隠してしまうと表現しているようです。

また、その様子はどこか、春の鮮やかさを白く隠す凍り付いた冬の雪景色とも似ています。

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僕は嫌いだ。
まっさらな僕らを思い出すから。
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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まっさらな僕らとは何でしょうか。

何も知らずに無垢だった自分たち。

それを愚かしいと思っているのかもしれませんし、羨ましいために思い出したくないのかもしれません。

春とは変化の季節です。

出会いと別れ、それは決して良いばかりのものではなく、自分が「なりたくなかった姿」へ変わってしまうことも、往々にしてあり得てしまいます。
花は咲いてしまえばいつか散ってしまう。

僕はそんな「変わっていくこと」の象徴として、やがて訪れる春を畏れているのかもしれません。

こうして「春は好き?」と問われ、「僕は嫌いだ」と返した理由が明らかになっていきます。

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あけぼの咲う君の
振り向き様
開いた傘の背が、
出し月に見紛う程かがやいて
やうゞ、春さけ見れば
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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このフレーズは、とある二つの言葉を彷彿とさせます。

ひとつは枕草子。

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」という有名なフレーズがあります。

春という季節は明け方が美しい。

だんだんと白くなっていく山際が少し明るくなって、紫がかった雲が細く浮かんで流れていくさまが良い、という内容です。

もうひとつは百人一首。

「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」という句があります。

遣唐使の阿倍仲麻呂が詠んだもので、目の前に広がる大きな空に浮かぶ月を見て、それが故郷で見たものと同じだと郷愁にふける内容です。

枕草子に描かれた春の明け方のような笑顔。

百人一首に詠まれた故郷の月のように輝いて見える君。

そんな、どうしても目を離せない愛しさがよく表現されています。

そして、春を嫌った僕が、それでも美しさからは目を逸らせないことも。

冬の雪解けと別れ、いつか巡り合う僕と君


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光を合成する君の背中で、
翼は燃えてた。
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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萌ゆる草原で、一人咲いてただけなのに。
硬いアスファルトに、散らばる君の髪飾り
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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才能さえ君を蝕んだ。
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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「君」はどうなったのだろう。

無事に春を迎えられただろうか。

そんな考えを打ち砕くかのように、このような歌詞が並びます。

明言されることはありませんが、背中で燃える翼、硬い地面へ髪飾りが散らばる、そんな細かなモチーフたちが「君との別れ」を表現しています。

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舌先痺れる。
咄嗟に吐き出した
灰皿掬って、最後の口付け
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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喫煙者と口付けをすると、非喫煙者は苦味を感じることがあるそうです。

舌先に痺れを残して、咄嗟に離れた。

それが僕と君の最後の口付けとなった。

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ゆるりと転がす、
舌の上の飴のように溶けて、
3月は、夢攫い消える。
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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痺れた苦みも、飴玉のようにいつしか消えてなくなります。

それは三月、雪が解け冬が終わり、春がやって来て、人や関係、立場が変わっていくこととどこか似ていたのかもしれません。

三月は夢攫い。

甘い夢を見ていた子供が大人にならざるを得ないように。

君との日々を望んでいた僕が、煙草の苦味と共に幸福な未来を失うように。

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子供時代、もう一度会おう!
別の名前になっても、
たましいの色でわかる。
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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いつか僕も命を落として、いつかまっさらな子供時代へ戻る。

その時、もう一度僕と君は巡り合う。

別の名前に変わってもたましいの色が同じならばお互いだとすぐに理解することができる。

「僕」の幸福とは、もはや「君」なしでは存在し得ないのです。

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閉じた瞼裏側に、
三百六十度、
僕らを歓迎する花々
≪雲海 歌詞より抜粋≫
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「雲海」は、そんな歌詞で締めくくられます。

眼裏には僕と君を春が祝福する光景が見える。

得られなかった、そして次の人生で今度こそ望む自分たちの姿です。

もしくは、「亡くなった人のことを思い出すたびに、あの世にいる相手のまわりに花が降り注ぐ」という考え方があります。

その考えに倣って、何度も何度も君を思い出す僕によって、ようやく春の花々に迎え入れられることが出来たかもしれないという、切ない救いなのかもしれません。

喪失を白く覆い隠し、掴めない「雲海」


雲海と積もった雪の共通点は、その白さの下に様々な複雑なものを隠していることです。

では異なる点は何でしょう。

それは、その上に足を踏みしめることができるか否かでしょう。

春を閉じ込めた雪は冷たく、しかし私たちの体を受け止めてくれる。

しかし雲海はふわふわと覚束なく、そこに確かにあるのに確かな実体が存在しない。

本楽曲のタイトルが「雲海」であるのは、僕の頼るもののない心細さ、喪失をよく表現していると言えるでしょう。

この曲が気になった方は是非、文藝天国の他の活動もチェックしてみてください。

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