森もりには、悪あしき影かげが棲すむと言いわれていた。
入はいったが最後さいご、影かげに惑まどわされ、生いきて森もりを出でることはできないと。
少女しょうじょは森もりを奥おくへと歩あるいた。
いつしか、過すぎたはずの風景ふうけいが、何度なんども繰くり返かえされていることに気きづいた。
お前まえを逃のがさないと、森もりが言いうように。
疲労ひろうと孤独こどくの中なかで、少女しょうじょは自問じもんした──自分じぶんは間違まちがっていたのか。
両親りょうしんや街まちの人ひとに背そむいてまで、この情熱じょうねつを貫つらぬくべきだったのか──。
いつのまにか、辺あたりを完全かんぜんな暗闇くらやみが支配しはいしていた。
闇やみの中なかでは、無数むすうの影かげが蠢うごめいていた。
少女しょうじょは足あしを止とめた。少女しょうじょの前まえに、ひとつの影かげが立たち塞ふさがった。
影かげは言いった。
「森もりは、お前まえの心こころだ。恐おそれと迷まよいは、やがて絶望ぜつぼうとなりその命いのちを喰くらおう」
少女しょうじょは知しった。進すすむこと以外いがい、道みちはないのだと。
故郷こきょうも両親りょうしんも、もう失うしなわれたのだと。
悲かなしみは少女しょうじょの胸むねを引ひき裂さき、
しかし、やがて一粒ひとつぶの涙なみだとともに消きえていった。
「私わたしは、もう迷まよわない。何なにより大切たいせつなものは、この情熱じょうねつだ」
その瞬間しゅんかん、目めの前まえの影かげが炎ほのおに包つつまれた。
炎えんは激はげしさを増まして辺あたりへ広ひろがり、少女しょうじょを囲かこう。
少女しょうじょは死しを覚悟かくごし、強つよく目めを閉とじた。
目めを開あくと、辺あたりには光ひかりが満みちていた。
木々きぎは消滅しょうめつし、草原そうげんが広ひろがっていた。
彼方かなたに、見みたことのない新あたらしい街まちが見みえた。
手てには、置おいてきたはずの絵筆えふでが握にぎられていた。
少女しょうじょはその街まちへ向むかって歩あるき出だした。
草原そうげんに、一筋ひとすじの線せんを描えがいて。
まっさらなキャンバスに、自由じゆうに絵えを描かくように。
森moriにはniha、悪aしきshiki影kageがga棲suむとmuto言iわれていたwareteita。
入haiったがttaga最後saigo、影kageにni惑madoわされwasare、生iきてkite森moriをwo出deることはできないとrukotohadekinaito。
少女syoujoはha森moriをwo奥okuへとheto歩aruいたita。
いつしかitsushika、過suぎたはずのgitahazuno風景fuukeiがga、何度nandoもmo繰kuりri返kaeされていることにsareteirukotoni気kiづいたduita。
おo前maeをwo逃nogaさないとsanaito、森moriがga言iうようにuyouni。
疲労hirouとto孤独kodokuのno中nakaでde、少女syoujoはha自問jimonしたshita──自分jibunはha間違machigaっていたのかtteitanoka。
両親ryoushinやya街machiのno人hitoにni背somuいてまでitemade、このkono情熱jounetsuをwo貫tsuranuくべきだったのかkubekidattanoka──。
いつのまにかitsunomanika、辺ataりをriwo完全kanzenなna暗闇kurayamiがga支配shihaiしていたshiteita。
闇yamiのno中nakaではdeha、無数musuuのno影kageがga蠢ugomeいていたiteita。
少女syoujoはha足ashiをwo止toめたmeta。少女syoujoのno前maeにni、ひとつのhitotsuno影kageがga立taちchi塞fusaがったgatta。
影kageはha言iったtta。
「森moriはha、おo前maeのno心kokoroだda。恐osoれとreto迷mayoいはiha、やがてyagate絶望zetsubouとなりそのtonarisono命inochiをwo喰kuらおうraou」
少女syoujoはha知shiったtta。進susuむことmukoto以外igai、道michiはないのだとhanainodato。
故郷kokyouもmo両親ryoushinもmo、もうmou失ushinaわれたのだとwaretanodato。
悲kanaしみはshimiha少女syoujoのno胸muneをwo引hiきki裂saきki、
しかしshikashi、やがてyagate一粒hitotsubuのno涙namidaとともにtotomoni消kiえていったeteitta。
「私watashiはha、もうmou迷mayoわないwanai。何naniよりyori大切taisetsuなものはnamonoha、このkono情熱jounetsuだda」
そのsono瞬間syunkan、目meのno前maeのno影kageがga炎honooにni包tsutsuまれたmareta。
炎enはha激hageしさをshisawo増maしてshite辺ataりへrihe広hiroがりgari、少女syoujoをwo囲kakoうu。
少女syoujoはha死shiをwo覚悟kakugoしshi、強tsuyoくku目meをwo閉toじたjita。
目meをwo開aくとkuto、辺ataりにはriniha光hikariがga満miちていたchiteita。
木々kigiはha消滅syoumetsuしshi、草原sougenがga広hiroがっていたgatteita。
彼方kanataにni、見miたことのないtakotononai新ataraしいshii街machiがga見miえたeta。
手teにはniha、置oいてきたはずのitekitahazuno絵筆efudeがga握nigiられていたrareteita。
少女syoujoはそのhasono街machiへhe向muかってkatte歩aruきki出daしたshita。
草原sougenにni、一筋hitosujiのno線senをwo描egaいてite。
まっさらなmassaranaキャンバスkyanbasuにni、自由jiyuuにni絵eをwo描kaくようにkuyouni。