老女優は去りゆく 歌詞 美輪明宏 ふりがな付

これでお別離わかれなのね この劇場げきじょうも
化粧けしょうを落おとして 煙草たばこをふかせば
思おもい出だすわ あの頃ころを 過すぎた昔むかしを
女優じょゆうを夢ゆめに描えがいて 街まちへ来きた頃ころを
私わたしは十六じゅうろく 田舎訛いなかなまりで
震ふるえながら訪たずねた ここの楽屋がくや口ぐち

長ながい下積したづみの後あとで やっとありついた
端役はやくでも 私わたしは嬉うれしかったわ
それからは だんだんと主役しゅやくになれて
輝かがやくスポットライト浴あびた歓よろこび
楽屋がくやには花々はなばな 拍手はくしゅの嵐あらし
取巻とりまきの人々ひとびと 甘あまい生活せいかつ

でも 若わかくして成功せいこうした誰だれしもが
そうであるように

私わたしもまたつい いい気きになっていた
その後あと 数多かずおおくの失敗しっぱいが続つづいた
批評家ひひょうかには叩たたかれ
主役しゅやくはライバルに持もって行いかれた
おまけに愛あいする夫おっとは 若わかい女優じょゆうと駈落かけおち
たった一ひとつ心こころの支ささえだった子供こどもは
病気びょうきで死しんで
それを優やさしく慰なぐさめてくれていたあの人ひとも
事故じこで死しんだ
ふと気きが付つくと まるで潮しおが引ひくように
私わたしの身みの回まわりから人々ひとびとが遠とおざかっていた
孤独こどくの中なかで 毎晩まいばん 毎晩まいばん
浴あびるようにお酒さけを飲のんで
やがてアルコールと麻薬まやくの中毒ちゅうどく そして入院にゅういん
あの泥沼どろぬまの中なかから私わたしが這はい上あがるまでに
どんな思おもいをしたか
決けっして誰だれにもわからないわ
世間せけんでは私わたしのことを再起さいき不能ふのうと嘲笑わらっていた
落おちぶれた過去かこのスター 落おち目めの流ながれ星ぼし
もう一度いちど 舞台ぶたいに立たちたい
あのスポットライトの下したで拍手はくしゅを浴あびたい
私わたしは恥はじを忍しのんで カムバックを目差めざして
通行つうこう人にんの端役はやくから出直でなおした
人々ひとびとの同情どうじょうの眼め 蔑さげすみの眼めにも耐たえた
なぜならば 私わたしには女優じょゆうとしての
誇ほこりと自信じしんがあったから
でもその後あとの想像そうぞうを絶ぜっする人々ひとびとの悪意あくい
意地悪いじわる 侮辱ぶじょくの数々かずかず
でも私わたしは負まけなかったわ
耐たえて 耐たえて 耐たえて 耐たえぬいた
そして とうとうあの念願ねんがんかなった
カムバックの日ひの
太陽たいようのように輝かがやくスポットライト
嵐あらしのような拍手はくしゅを私わたしは一生いっしょう忘わすれないわ
いろんな役やくをやったわ
女王じょおうも 娼婦しょうふも 人妻ひとづまも 娘むすめも
でもそれらは 皆みんな幻まぼろしのように消きえて
私わたしは すっかり老おいさらばえて
今日きょう この劇場げきじょうで引退いんたいして行いくのだ

そうよ この劇場げきじょうは解わかっているのね
舞台ぶたいに人生じんせいを 賭かけた私わたしを
私わたしの何なにもかも 生いきて来きた道みちを
さようなら 愛あいする我わが劇場げきじょう
老兵ろうへいは静しずかに消きえ去さるのみ
出でて行いく迄まで明あかりは消けさないでね
出でて行いく迄まで明あかりは消けさないでね
ありがとう ありがとう