雪ゆきのふるさと 落おちゆく影かげは
死出しでの晴はれ着ぎの 梅川うめかわ忠兵衛ちゅうべえ
恋こいと意気地いきじの 封印ふういん切ぎりに
夢ゆめも散ちり散ぢり エー 追おわれ旅たび
「梅川うめかわッー わしはえらいことをしてしまった…。
さっきお前まえの身請みうけといって
耳みみをそろえて出だした小判こばんの百五ひゃくご十両じゅうりょう…・
あの金かねは、あの金かねは、お上かみからお預あずかりした金かねなのだ」
「エエーッ」
「それは、あの古物こぶつ買かいの八右衛門はちえもん、
お前まえの身み請うけをするという。
金かねはそろえてあるという。
このままでは命いのちをかけたお前まえが、八右衛門はちえもんのものになる。
口惜くやしいッと
思おもわずふところで小判こばんをにぎりしめたそのときに、
梅川うめかわッ、お上かみの判はんの押おしてある五十ごじゅう両りょう包づつみの封印ふういんを、
わしのこの手てが、切きってしまったッ…・」
「エーッ…どうしょう、どうしょう」
「使つかったからには、お仕置しおきはまぬがれぬ…。
この上うえは未練みれんのようだがいまわの際きわに、
生うまれ在所ざいしょの大和やまとの国くに、
新しん口村くちむらにござらっしゃる、
親父様おやじさまにひと目め逢あい死しんでお詫わびをする覚悟かくご、
お前まえも達者たっしゃで…」「なんてことを…・、もとはといえば私わたしゆえ、
あなたばかりはやりませぬ。死しぬならいっしょに大和路やまとじへ」
「行いってくれるか」
「行いきますとも、お梅うめはあなたの女房にょうぼうです。
せめて人目ひとめにつかぬよう…・」
隠かくせど色香いろか 梅川うめかわが
なお忍しのび路じを 駕籠かごの中なか
越こえる峠とうげ路みち 渡わたる船ふね
奈良ならの旅籠はたごや 三輪みわの茶屋ちゃや
うれしいはずの 初はつ旅たびが
死出しでの旅路たびじで あったとは
ようやく着ついた 大和路やまとじの
雪ゆき降ふりしきる 新しん口村くちむら
「いまさら云いうても詮せんないが、たとえ遊女あそびめなればとて、
こんなによい女子じょしじゃから嫁よめにする。
金かねがいるとは、なぜ云いうては来きないんじゃ。
人じんの金かねを盗ぬすんで高飛たかとびし、オメオメ逃にげ隠かくれるとは…。」
「親父様おやじさま、そりゃ違ちがいます。金かねゆえ大事だいじな忠兵衛ちゅうべえさん。
とがにんにしましたのも、もとはといえば、私わたしから…」
「嫁御よめごよッ、もうええわい…・。
サ、この財布さいふに金かねがある。
わずかじゃがたしにして、追おっ手ての来きぬ間あいだに、雪降ゆきふるうちに、
行おこなけるとこまで走はしるのじゃ」
「すんまへん。さかさまながら頂いただきます。こちの人ひと」
「親父様おやじさまッ、お達者たっしゃで」
「親父様おやじさま、さらばでござんす」
「おお、お前まえらも気きいつけやァ…熊野くまの灘なだなら姿すがたは見みえぬ。
潔いさぎよようのう…おお、そこじゃ、
その辻堂つじどうの裏うらの土手どてから竹藪たけやぶを突つき抜ぬけて、
裏街道うらかいどうを道みちなりに、行いけばほどなく御所ごしょ街道かいどう、
峠とうげの難所なんしょを越こえたなら、紀州きしゅう熊野くまのは一本道いっぽんみちじゃ。
あっ、あぶない、雪ゆきに足あしを取とられるなや…・。
あの世よでお婆ばあに逢あうたなら、きっと孝養こうようつくすんじゃぞう。
わしもすぐ行いく。気きいつけやァ・・」
これが親おやと子こ 嫁よめ舅しゅうと
一世いっせいの別わかれと 伸のび上あがり
声こえを限かぎりに 叫さけぶなら
親父おやじさまよと 手てを振ふって
雪ゆきのかなたへ 消きえてゆく
あの世よへ急いそぐ 夫婦ふうふ旅たび
見送みおくる影かげも行いく影かげも、いつしか雪ゆきに消きえてゆく。
恋こいの飛脚ひきゃくの大和路やまとじに、冥土めいどの飛脚ひきゃくの大和路やまとじに、アア、雪ゆきは降ふる、消きえてゆく
雪yukiのふるさとnofurusato 落oちゆくchiyuku影kageはha
死出shideのno晴haれre着giのno 梅川umekawa忠兵衛chuubee
恋koiとto意気地ikijiのno 封印fuuin切giりにrini
夢yumeもmo散chiりri散jiりri エeー 追oわれware旅tabi
「梅川umekawaッxtuー わしはえらいことをしてしまったwashihaeraikotowoshiteshimatta…。
さっきおsakkio前maeのno身請miuけといってketoitte
耳mimiをそろえてwosoroete出daしたshita小判kobanのno百五hyakugo十両juuryou…・
あのano金kaneはha、あのano金kaneはha、おo上kamiからおkarao預azuかりしたkarishita金kaneなのだnanoda」
「エエeeーッxtu」
「それはsoreha、あのano古物kobutsu買kaいのino八右衛門hachiemon、
おo前maeのno身mi請uけをするというkewosurutoiu。
金kaneはそろえてあるというhasoroetearutoiu。
このままではkonomamadeha命inochiをかけたおwokaketao前maeがga、八右衛門hachiemonのものになるnomononinaru。
口惜kuyaしいshiiッxtuとto
思omoわずふところでwazufutokorode小判kobanをにぎりしめたそのときにwonigirishimetasonotokini、
梅川umekawaッxtu、おo上kamiのno判hanのno押oしてあるshitearu五十gojuu両ryou包dutsuみのmino封印fuuinをwo、
わしのこのwashinokono手teがga、切kiってしまったtteshimattaッxtu…・」
「エeーッxtu…どうしょうdousyou、どうしょうdousyou」
「使tsukaったからにはttakaraniha、おo仕置shioきはまぬがれぬkihamanugarenu…。
このkono上ueはha未練mirenのようだがいまわのnoyoudagaimawano際kiwaにni、
生uまれmare在所zaisyoのno大和yamatoのno国kuni、
新shin口村kuchimuraにござらっしゃるnigozarassyaru、
親父様oyajisamaにひとnihito目me逢aいi死shiんでおndeo詫waびをするbiwosuru覚悟kakugo、
おo前maeもmo達者tassyaでde…」「なんてことをnantekotowo…・、もとはといえばmotohatoieba私watashiゆえyue、
あなたばかりはやりませぬanatabakarihayarimasenu。死shiぬならいっしょにnunaraissyoni大和路yamatojiへhe」
「行iってくれるかttekureruka」
「行iきますともkimasutomo、おo梅umeはあなたのhaanatano女房nyoubouですdesu。
せめてsemete人目hitomeにつかぬようnitsukanuyou…・」
隠kakuせどsedo色香iroka 梅川umekawaがga
なおnao忍shinoびbi路jiをwo 駕籠kagoのno中naka
越koえるeru峠touge路michi 渡wataるru船fune
奈良naraのno旅籠hatagoやya 三輪miwaのno茶屋chaya
うれしいはずのureshiihazuno 初hatsu旅tabiがga
死出shideのno旅路tabijiでde あったとはattatoha
ようやくyouyaku着tsuいたita 大和路yamatojiのno
雪yuki降fuりしきるrishikiru 新shin口村kuchimura
「いまさらimasara云iうてもutemo詮senないがnaiga、たとえtatoe遊女asobimeなればとてnarebatote、
こんなによいkonnaniyoi女子joshiじゃからjakara嫁yomeにするnisuru。
金kaneがいるとはgairutoha、なぜnaze云iうてはuteha来kiないんじゃnainja。
人jinのno金kaneをwo盗nusuんでnde高飛takatoびしbishi、オメオメomeome逃niげge隠kakuれるとはrerutoha…。」
「親父様oyajisama、そりゃsorya違chigaいますimasu。金kaneゆえyue大事daijiなna忠兵衛chuubeeさんsan。
とがにんにしましたのもtoganinnishimashitanomo、もとはといえばmotohatoieba、私watashiからkara…」
「嫁御yomegoよyoッxtu、もうええわいmoueewai…・。
サsa、このkono財布saifuにni金kaneがあるgaaru。
わずかじゃがたしにしてwazukajagatashinishite、追oっxtu手teのno来kiぬnu間aidaにni、雪降yukifuるうちにruuchini、
行okonaけるとこまでkerutokomade走hashiるのじゃrunoja」
「すんまへんsunmahen。さかさまながらsakasamanagara頂itadaきますkimasu。こちのkochino人hito」
「親父様oyajisamaッxtu、おo達者tassyaでde」
「親父様oyajisama、さらばでござんすsarabadegozansu」
「おおoo、おo前maeらもramo気kiいつけやitsukeyaァa…熊野kumano灘nadaならnara姿sugataはha見miえぬenu。
潔isagiyoようのうyounou…おおoo、そこじゃsokoja、
そのsono辻堂tsujidouのno裏uraのno土手doteからkara竹藪takeyabuをwo突tsuきki抜nuけてkete、
裏街道urakaidouをwo道michiなりにnarini、行iけばほどなくkebahodonaku御所gosyo街道kaidou、
峠tougeのno難所nansyoをwo越koえたならetanara、紀州kisyuu熊野kumanoはha一本道ipponmichiじゃja。
あっaxtu、あぶないabunai、雪yukiにni足ashiをwo取toられるなやrarerunaya…・。
あのano世yoでおdeo婆baaにni逢aうたならutanara、きっとkitto孝養kouyouつくすんじゃぞうtsukusunjazou。
わしもすぐwashimosugu行iくku。気kiいつけやitsukeyaァa・・」
これがkorega親oyaとto子ko 嫁yome舅syuuto
一世isseiのno別wakaれとreto 伸noびbi上aがりgari
声koeをwo限kagiりにrini 叫sakeぶならbunara
親父oyajiさまよとsamayoto 手teをwo振fuってtte
雪yukiのかなたへnokanatahe 消kiえてゆくeteyuku
あのano世yoへhe急isoぐgu 夫婦fuufu旅tabi
見送miokuるru影kageもmo行iくku影kageもmo、いつしかitsushika雪yukiにni消kiえてゆくeteyuku。
恋koiのno飛脚hikyakuのno大和路yamatojiにni、冥土meidoのno飛脚hikyakuのno大和路yamatojiにni、アアaa、雪yukiはha降fuるru、消kiえてゆくeteyuku