4. 2. 3. 歌詞 中島みゆき ふりがな付

食たべていくための仕事しごとにひと休やすみして 私わたしはTVをつけた
眠ねむらぬ旅たびのあれこれを 生うまれた街まちで癒いやそうと試こころみていた

明日あしたにはこの街まちにも雪ゆきがちらつくだろうと
季節きせつはずれの天気てんき予報よほうが流ながれていた
明あけきった5時半じはんの空そらに 目めを細ほそめて チャンネルを変かえた

中継ちゅうけいという文字もじ そして私わたしの瞳ひとみに爆風ばくふうが噴ふきつけて来きた
長ながい間あいだに見慣みなれてしまっていた白しろく平ひらたい石造いしづくりの建物たてものから
朱色しゅいろの炎ほのおと石いしくれが噴ふきあがる瞬間しゅんかんだった
ゆらゆらと熱ねつのかげろうはあがり
やがて白しろい煙けむりから土色つちいろの煙けむりとなって建物たてものから噴ふき出だしていた

昨日きのうまでと今日きょうは違ちがうものなのだと
人ひとはふいに思おもい知しらされるのだね

蟻ありのように黒くろい人影ひとかげが走はしり込こむ 身みを潜ひそめる 這はい進すすむ 撃うち放はなつ
どうせTVの中なかのことだと考かんがえることもできず 考かんがえないわけにもいかず
ただ私わたしは誰だれが何なにを伝つたえようとしているのか
それだけに耳みみを傾かたむけた それだけに耳みみを傾かたむけた

大おおきな救急車きゅうきゅうしゃが扉とびらを広ひろく開ひらけて待まち構かまえ続つづけている
担架たんかに乗のり 肩かたにかつがれ 白しろい姿すがたの人々ひとびとが運はこび出だされる

日本人にほんじんが救たすけられましたと 興奮こうふんしたリポート
ディレクターの声こえもエンジニアの声こえもいり混まじっている

人質ひとじちが手てを振ふっています元気げんきそうです笑顔えがおですと
リポートは続つづけられている
その時ときひとかたまりの黒くろい姿すがたの人々ひとびとが担架たんかを囲かこんでとび出だして来くる

リポーターは日本人にほんじんが手てを振ふっていますとだけ嬉々ききとして語かたり続つづける
担架たんかの上うえには黒くろく煤すすけた兵士へいし

腕うでは担架たんかからぶら下さがり 足首あしくびがグラグラと揺ゆれる
兵士へいしの胸元むなもとに赤あかいしみが広ひろがる
兵士へいしの肩かたに彼かれの銃じゅうが ためらいがちに仲間なかまによって載のせられる
担架たんかはそれきり全速力ぜんそくりょくでいずこかへと運はこび出だされてゆく

日本人にほんじんが元気げんきに手てを振ふっていますとリポーターは興奮こうふんして伝つたえ続つづける
黒くろい蟻ありのようなあの1人りの兵士へいしのことは
ひと言ことも触ふれない ひと言ことも触ふれない

日本人にほんじんの家族かぞくたちを喜よろこばせるためのリポートは 切きれることなく続つづく
しかしあの兵士へいしにも父ちちも母ははも妻つまも子こもあるのではなかったろうか
蟻ありのように真まっ黒くろに煤すすけた彼かれにも 真まっ黒くろに煤すすけた彼かれにも

あの国くにの人ひとたちの正ただしさを ここにいる私わたしは測はかり知しれない
あの国くにの戦たたかいの正ただしさを ここにいる私わたしには測はかり知しれない

しかし見知みしらぬ日本人にほんじんの無事ぶじを喜よろこぶ心こころがある人ひとたちが何故なぜ
救すくいけ出だしてくれた 見知みしらぬ人ひとには心こころを払はらうことがないのだろう

この国くには危あぶない
何度なんどでも同おなじあやまちを繰くり返かえすだろう 平和へいわを望のぞむと言いいながらも
日本にほんと名なの付ついていないものにならば
いくらだって冷つめたくなれるのだろう

慌あわてた時ときに 人ひとは正体しょうたいを顕あらわすね

あの国くにの中なかで事件じけんは終おわり
私わたしの中なかではこの国くにへの怖おそれが 黒くろい炎ほのおを噴ふきあげはじめた

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日本人にほんじんの人質ひとじちは全員ぜんいんが無事ぶじ
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