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死生観をテーマにしたあいみょんの楽曲から見えた共通項

9月13日にアルバム『青春のエキサイトメント』をリリースしたシンガーソングライターのあいみょん。ジャンルにとらわれたくないと発言していたようにアルバムは、バラエティに富んだ音楽が多い印象だ。

人のリアルを表現するアーティスト


あいみょんといえば、力強い歌声と絵空事や綺麗事ではない、人間のリアルな一面を妙実に表現する現代おいて稀有なアーティストだと言えるだろう。

今回は、その『青春のエキサイトメント』からメジャーデビューシングル『生きていたんだよな』を紹介したい。

人間の本性をさらけ出す歌

多種多様な音楽の中でも、特に特異な存在感を放っている曲がこの『生きていたんだよな』である。

飛び降り自殺について歌った同曲は、現代社会に疑問を投げるとともに人間の本性を的確にさらけ出す。しかし、包み隠さず過激な表現が多いことから、様々な憶測が飛び交っているようである。

改めてアルバム発売を機に同曲の歌詞を見ていきたい。

本性を鋭く指摘

生きていたんだよな


▲『生きていたんだよな』MV / あいみょん

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二日前このへんで
飛び降り自殺した人のニュースが流れてきた
血まみれセーラー濡れ衣センコー
たちまちここらはネットの餌食

「危ないですから離れてください」
そのセリフが集合の合図なのにな

馬鹿騒ぎした奴らがアホみたいに撮りまくった
冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない
赤さが綺麗で綺麗で
≪生きていたんだよな 歌詞より抜粋≫
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語り口調で放たれる冒頭の歌詞は、現実に起こっている痛ましい事件を臨場感溢れる言葉で淡々と伝える。そこには感情というものが一切感じられず、自殺という事件を目の当たりにした周囲の状況を冷静に捉えている印象を受ける。

「危ないですから離れてください」という先生や警察の注意喚起こそが周りの人間の興味を掻き立てる端緒になっていると言う。ここは、人間の本性を鋭く指摘している箇所だ。

そしてもう一つ、それに伴い周囲の人間は片手にスマートフォンを持ち、事件現場を撮影し、面白おかしくSNSに拡散するという状況も指摘する。

「"馬鹿"騒ぎした奴ら、"アホ"みたいに」という言葉には、あいみょん自身が冷静にその状況を捉えていることが伺えるだけでなく、人間のどうしようもない醜さを哀れみを持って表現していることが分かる。

冷たいアスファルトと人間の赤い血の対比を明確にすることで、生命力を有する有機的な人間が確かに「生きていたんだな」と感じさせる演出をしている。

これについてもあいみょんは「綺麗で綺麗で」と表現する。まさにその状況を自分とは関係ない出来事と捉えていることが分かるだろう。

別にこれはひどいだとかそういう問題ではない。人間ならば誰しも自分とは関係のない他人の死を悲しいと感じながらも、内心は無関心である人間の性を指摘しているのではないだろうか。

光るあいみょんの感性


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「今ある命を精一杯生きなさい」なんて
綺麗事だな。

精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ
鳥になって 雲をつかんで
風になって 遥遠くへ
希望を抱いて飛んだ
≪生きていたんだよな 歌詞より抜粋≫
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ここでは、あいみょんの独特の感性が表れている箇所になっている。

「精一杯生きなさい」と言う他人の発言に対し、彼女は「精一杯」勇気を振り絞り飛び降り自殺をしたと表現する。ここは当事者にしか分からない心情を皮肉を込めて歌っている。

そして、自殺の捉え方も今在る現実から逃避するための行為ではなく、その先の希望に向かうための行為だと言い切っている。飛び降り自殺を「空を飛ぶ」とする表現の仕方は当事者ではない第三者の視点で歌われているからこそ出てくるもの。

しかし、単なる空を飛ぶ事実を伝えているだけではない。そこには増え続ける自殺のニュース、それは希望を抱いて前進していくものであってほしいあいみょん自身の望みが込められているように思う。

「空を飛ぶ」という表現には、空を飛んだという事実だけではなく、空という自由な場所に希望を感じ飛んだという意味が込められているのだ。

自殺の問題を取り上げるにあたって賛否両論があるのは承知済みだったはずだ。それでも、リアルタイムな曲を表明することこそが彼女の使命でもあるのだろう。

実際あいみょんはこの曲に対して、自殺を肯定する歌でも野次馬を批判する歌ではないといった主旨の発言をしており、この曲がどのような意味を持つのかということは曲を聴いた人が判断するほかないだろう。今置かれている状況に応じて反応も異なってくると思われる。

ここで、死生観を扱った楽曲をもう一つ紹介したいと思う。

死生観を扱ったもう一つの曲、『どうせ死ぬなら』


▲『どうせ死ぬなら』MV / あいみょん

それは、2nd mini album『憎まれっ子世に憚る』に収録されている『どうせ死ぬなら』である。

この曲についてはあまり詳しくは触れないがあいみょんの死生観が殊更に表れている。『生きていたんだよな』を聴いた後に聴くとより一層そのギャップ耳を疑うだろう。

前者はニュースで見た自殺の話、つまり他人の死に焦点が当てられている。一方で、後者は自分の死についてどうせ死ぬなら~こうしたいああしたいという話になっている。

ここでも共通しているのは死の先に希望を見出していることである。

どうせ死ぬなら


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それなら私も来世が楽しみになる
きっとスタジオジブリで助手をしてるのよ
≪どうせ死ぬなら 歌詞より抜粋≫
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これはAメロで死後にしてもらいたい願望を述べ、それを踏まえた歌詞。『生きていたんだよな』と同様の死後へのポジティブな感情が見受けられる。

生死について問われた際に「死ぬのが怖い」と答える彼女の発言にもあるように「死」というものが彼女の中で大きな割合を占めていることが分かる。死への恐怖感があるからこそ、その先に希望を求める。

彼女の繊細な死生観

多彩なジャンルの曲が含まれているアルバムの中でも一際異彩を放っている『生きていたんだよな』であるが、死生観を歌うアーティストと称されるあいみょんの根底には死への恐怖とその先にある微かな希望を抱いているという共通項が見えてきた。

しかし、それは生きている今その時を後悔の無いように生きているからこそ、抱くことのできる希望ではないのだろうか。

あいみょんは自らの死生観のなかに希望を見出し歌うのである。

TEXT:川崎龍也


兵庫県西宮市出身シンガーソングライター。 16年11月にシングル「生きていたんだよな」でメジャーデビュー。17年5月に2ndシングル「愛を伝えたいだとか」、8月に3rdシングル「君はロックを聴かない」 を発表し、9月にリリースした1stフルアルバム「青春のエキサイトメント」は現在もロングセール···

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