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星野源『Pop Virus』ゆらぐビートと重なりあう鼓動の関係

星野源の最新アルバムに収録された『Pop Virus』の歌詞を読み解きながら、タイトルに込めた思いや日本を代表するアーティストとなった星野源の現在を考察します。
■星野源 - Pop Virus【MV】


生き急いでいる星野源

そのとき自分を襲ったのは、予想もしない感情だった。

2018年12月17日、マーク・ロンソン(Mark Ronson)と星野源のダブルヘッダー。

翌々日が新作アルバム『POP VIRUS』のリリース日という“フラゲ日"前日にあたることもあって、会場の幕張メッセはお祭りムードに包まれていた。

オープニングアクトというには豪華すぎるマーク・ロンソンのDJが終わって、いよいよ星野源が登場。

インストの『Firecracker』からホーンセクションを加えた『地獄でなぜ悪い』『桜の森』へ次々とセットが進んでいく。

ハッピーなムードのステージで笑顔をふりまく星野源を見ながら、なぜか無性に切なさがこみ上げてきた。

まっすぐすぎるくらいストレートに、これ以上ないほど真摯に音楽に向かい合う姿を見ているうちに自然と眼がしらが潤んでいたのだ。

音楽に殉じる。
言うだけなら簡単だが誰でもできることじゃない。

選ばれたひとにぎりの才能の持ち主、マイケル・ジャクソンやプリンスが一生かけても届かない、そんな音を星野源は追い求めているように見えた。

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音の中で 君を探してる
霧の中で 朽ち果てても彷徨う
闇の中で 君を愛してる
刻む 一拍の永遠を
≪Pop Virus 歌詞より抜粋≫
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星野源が生き急いでいると考えるのには理由がある。

2012年12月、くも膜下出血で入院。
一時活動を再開したが、再発しふたたび入院。

現在は元気に活動しているが、忙しくて寝ていないという話を聞くとファンとしては心配になる。

MPCと生演奏が融合したゆらぎのあるリズムがクセになる最新アルバムのタイトルチューン。

実は“ポップ・ウイルス"という言葉は星野源が考えたものではない。
みずからを「ポップ中毒者」と称した故・川勝正幸氏によるものだ。

文筆家、音楽家、俳優としての星野源の仕事をまとめた文庫版の『働く男』は川勝氏に捧げられているのだが、文筆業をはじめたばかりの星野源に最大級の賛辞を贈ったのが川勝氏だった。

ポップ・ウイルス広がる理由

なぜ、ロックは世界中に広がったのか?

なぜ、別の言語でラップするのか?

なぜ、国籍や文化の違いを超えて同じリズムで踊れるのか?

世界中で同時多発的に広がるポップカルチャーを目撃した川勝氏が、その現象の根底にあると考えたのがポップ・ウイルスの存在だった。

ポップ・ウイルスはどのように拡散するのだろうか?

おもしろいものを見れば誰かに話したくなる。
クールなリズムを聴けば自然に体が揺れる。

主要ルートの“楽しさ"“おもしろさ"に加えて、ポップ・ウイルスのもうひとつの感染経路が“愛"だ。

根源的で、どうしようもなくて、でもそれがないと人類が滅亡してしまう、あまりにも普遍的な感情。

世界中のヒット曲が恋愛をテーマにしているように、誰かが誰かを求める過程で生まれる喜怒哀楽の感情は人類共通のものだ。

それぞれ異なるリズムで生きる1人ひとりの鼓動が重なりあうことは通常ない。

それでも、つながりたい、理解したいと望むのが人間の性(さが)でもある。

『Pop Virus』のゆらぐビートは、譜面上の拍子と体感するリズムのズレをグルーヴとして感じさせるものだ。

そのズレは、理解しあおうとしてかなわない人間同士のもどかしさを表しているようにも思える。

意図的にズラして重ねあわせた『Pop Virus』のリズムには、自然に体を揺らせたくなる心地良さがあって、気づくと何度もリピートしている。

リズムのズレを心地良さとして感じるように、ポップ・ウイルスに感染するポテンシャルは誰もが持っている。

おもしろいものに触れたい、相手のことを理解したいと願うことから生じるすれ違いや誤解さえ、ポップ・ウイルス拡散の原動力になる。

そして何回かに一度、ビートが重なりあう瞬間、僕たちの鼓動も重なる。

重ならない鼓動が重なりあう「一拍の永遠」。
そのときポップ・ウイルスは伝染する。

思い思いの方法で踊る

ライブでは「思い思いの方法で踊ろう」と呼びかける星野源。

全員同じふりつけや一斉に行うコール&レスポンスだけではなく、もっと自然体で音楽に身をまかせてほしいという願い。

その根底には、ポップ・ウイルスが伝わるのに決まりきった方法はないという考えがある。

星野源が倒れる約1年前に急逝した川勝氏。

病床で星野源が考えていたことは想像する以外ないが、恩人との思い出をふり返りながら、自分のなすべきことに思いをめぐらしていたんじゃないかと思う。

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口から音が出る病気
心臓から花が咲くように
魔法はいつでも
歌う波に乗っていた
≪Pop Virus 歌詞より抜粋≫
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生物のDNAとは別に、世代から世代へ伝わる技術やアイデアの集積を生命科学者のドーキンスは「ミーム」と呼んだ。

ポップ・ウイルスは、音楽やアートなどポップカルチャーのミームを媒介するキャリアー(運び手)だ。

「口から出る音」や「歌う波」に仕組まれた“おもしろい"や“好き"という感情を媒介に、魔法は発現する。

「おはよう」ではじまる朝ドラのテーマ曲。
国民的アニメキャラクターの名前をそのまま使った曲のタイトル。

ど真ん中で、できるだけたくさんの人に届けたいという思いがひしひしと伝わってくる一方で、「そんなに頑張らなくていいのに」「無理しないでくれ」という思いにもなってしまう。

ポップ・ウイルスの発生源である星野源には、これからもたくさんの魔法を届けてほしいから。

幕張メッセで聴いた『Pop Virus』。

フラゲ日前のお祭りムードの中、イエローダンサーたちは思い思いに体を揺らせていた。

蛇足だが、星野源の曲は口笛で吹くといい感じである。

おためしあれ。


TEXT 石河コウヘイ


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1981年、埼玉県生まれ。音楽家・俳優・文筆家。 2010年に1stアルバム『ばかのうた』にてソロデビュー。 2015年12月リリースのアルバム『YELLOW DANCER』がオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得。 2016年10月にリリースしたシングル『恋』は、自身も出演したドラマ『逃げるは恥だが役に···

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