名曲ばかりの10-FEET
10-FEETといえばとにかく名曲ぞろい。思わず拳を上げたくなるような熱い曲から、じんわりと涙腺を刺激するような優しい曲まで、その時々の気持ちに寄り添ってくれるラインナップばかりだ。そんな10-FEETは、やはりライブ会場でこそ、その本領を発揮する。
自身が開催する人気フェス『京都大作戦』だけでなく、大型フェスやイベントなどでトリを飾ることも多い。
サビ部分をその土地の川の名前に変えて歌う『RIVER』や、サビ部分でタオルを上空へ投げる『CHERRY BLOSSOM』など、ライブだからこそ生まれるフロアの動きやアレンジが、多くのファンやフェスの観客を魅了する。
そんなキラーチューンだらけの10-FEETの中でも、ひと際ライブでの人気が高い『蜃気楼』の歌詞に迫った。
遠い日に思いを馳せる『蜃気楼』
蜃気楼はライブのセットリストに登場すると必ず盛り上がる人気曲でありながら、どこか「切なさ」がちらつく。
----------------歌い出しの時点でグッと胸を掴まれる、大人になってしまった者の寂しさ。
笑ってみても (笑ってみても) 泣いてみても (泣いてみても)
あの頃の様な高揚も弱さも無くて
≪蜃気楼 歌詞より抜粋≫
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ここでの「あの頃」とはいつの日のことなのだろうか。歌詞の中でどんな過去のことなのかは具体的に描かれていない。
そう。描かれていないからこそ、歌詞を見た瞬間にふと連想させられるものがある。
私の場合は目に見えるものすべてに感動していた子どもの頃の情景が思い浮かんだのだ。
懐かしさと喪失感
----------------喜怒哀楽を全身で表し、母親に泣きつく子ども。
優しそうな (優しそうな) 少し困った (少し困った)
母親にしがみついて泣いてた少年を
見てこぼした笑みは少し堅くて
僕はまた無邪気さを無くした気がしたんだ
≪蜃気楼 歌詞より抜粋≫
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昔は自分もそうであったはずなのに、いつの日か感情を表に出すことを恥ずかしがるようになってしまう。
見知らぬ親子と自分を重ねながら、もうそんな日々は帰ってこないのだ、という虚しさ。
ライブではコーラスが響き渡る特にアツい部分の歌詞でありながら、遠い日への懐かしさと喪失感がひしひしと伝わってくる。
前向きなだけではない歌詞
10-FEETのライブはダイバーが多く生まれ、煽りやモッシュも激しい。だから10-FEETを知っているけれど、あまり詳しくはないという人のイメージは「前向き、明るい」というものが多いのではないだろうか。
だが『蜃気楼』の歌詞を見ただけでもそうではないことは分かる。
----------------「大切な人を失くした」ということを、深く悲しむことも落ち込むことももうやり尽したのだろうな、と伝わるフレーズだ。
日々に擦り切れて 青空が切なくて 見え透いた優しさが綺麗で
みんなは優しくて あなたには会えなくて 明日は来て
≪蜃気楼 歌詞より抜粋≫
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「みんなは優しくて」と「明日は来て」の間にさらりと「あなたには会えなくて」を挟むところに、過ぎていく日々の無情さを感じる。
さらに、歌詞はこのように続く。
ぼんやりした過去と共に生きていく
----------------「悲しみは幸せの原石」というフレーズは『蜃気楼』の中では前向きな印象がある。
悲しみは (悲しみは) 幸せの (幸せの)
原石だけれど乗り越えなきゃ
ただの石ころだって淋しそうな顔で
紅茶を残してまた出かけた
≪蜃気楼 歌詞より抜粋≫
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今はただの「悲しみ」でも、幸せになるための糧となるはずだというメッセージを感じるこのフレーズ。
しかし、そんな「幸せの原石」でさえ、歌詞に登場する「僕」や「私」は「ただの石ころ」と切り捨てる。
最後まで前向きに生きよう、とか切り替えて生きていこう、となることもない。
タイトルの蜃気楼のようにぼんやりとした過去に思いを馳せながら、これからも生きていくのだろうなと伝わってくる。
疲れた人に寄り添うバンド
もちろん10-FEETの曲は、うつむいて生きている人を引き上げるような歌詞も多い。『蜃気楼』と同じく人曲である『2%』や『その向こうへ』、『VIBES BY VIBES』など、力強い歌詞はストレートに胸に響く。
だが10-FEETは『蜃気楼』のように、どうしても前を向けない、立ち止まったままでいる人に寄り添うような曲も多く歌ってくれる。
励ますだけでなく、じっと見守るような優しさを暖かさを持ち合わせたバンドなのだ。
10-FEETが持つ優しさは歌詞を見るだけでも伝わってくるが、ライブ中の表情やメンバーが口にする言葉はより胸に響くものがある。
頑張ることに疲れてしまったり、日々に虚しさを感じたときには10-FEETのライブを観てみてほしい。
TEXT つちだ四郎