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【歌詞コラム】「Scarborough Fair CANTICLE」の闇を追う

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ダスティン・ホフマン主演の映画『卒業』の挿入歌として有名な、サイモン&ガーファンクルの『Scarborough Fair CANTICLE』。その美しくも不可解な歌詞の世界へと足を踏み入れてみましょう。

公開日:2019年11月11日 更新日:2019年11月12日


この記事の目次
  1. ・そもそも「Scarborough Fair」とは
  2. ・イギリスからアメリカへと渡った「Scarborough Fair」
  3. ・1960年代版「Scarborough Fair」に漂う2つの魂

そもそも「Scarborough Fair」とは

アコースティックギターの美しい旋律が奏でる『Scarborough Fair CANTICLE』のメロディは知っているけど、“『Scarborough Fair』って一体どういう意味?”と聞かれたら、即答できる人は少ないのではないでしょうか。

「Fair(フェア)」と言えば、「グルメフェア」や「ブライダルフェア」から察しがつくように「見本市」の事。つまり『Scarborough Fair』とは「スカボローの市」という意味なのです。


“じゃあスカボローって何?”となると思いますが、「スカボロー」はイングランド北部、スコットランドにも近いノース・ヨークシャーにある北海に面した港街で、正しい発音は「スカーバラ」といいます。

中世から貿易で栄えたスカーバラでは、夏になるとヨーロッパ各地から商人が訪れる盛大な市が開催され、それは18世紀頃まで続きました。その間に誕生し、人々の間で歌い継がれて来た作者不明の民謡、それが『Scarborough Fair』なのです。

イギリスからアメリカへと渡った「Scarborough Fair」

吟遊詩人によって多くのバージョンが伝承されて来た『Scarborough Fair』。その中で、活版印刷の発明により、17世紀頃に記録された歌詞『Elfin Knight(妖精の騎士)』が、その後、イギリスのフォークシンガーへと受け継がれて行きました。

1960年代にイギリスを訪れたポール・サイモンは、人気フォークギタリストのマーティン・カーシー歌う『Scarborough Fair』に出会い、そこから新曲のインスピレーションを得て一路アメリカへと帰国。

こうして、イギリス民謡『Scarborough Fair』は大西洋を渡り、アメリカ音楽史に残る名曲が誕生する事になるのです。

1960年代版「Scarborough Fair」に漂う2つの魂

1966年、マーティン・カーシー版『Scarborough Fair』に、新たな歌詞『CANTICLE』を合わせた『Scarborough Fair CANTICLE』がリリースされます。

日本語では『詠唱』と訳される『CANTICLE』に、サイモン&ガーファンクルは、どのような思いを込めたのでしょうか。
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Are you going to
Scarborough Fair
Parsley, sage, rosemary and thyme.
Remember me to one who lives there.
She once was a true love of mine.
≪Scarborough Fair CANTICLE 歌詞より抜粋≫
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和訳
スカボローの市へ行くのですか
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
そこに住むある人に 私を覚えているかと尋ねてください
彼女は かつて私が本当に愛した人です


サイモン&ガーファンクル版『Scarborough Fair』も、17世紀の『妖精の騎士』と同様に、ある夏の日の夕暮れ時、スカーバラの市へと向かっていた商人が、通りすがりの騎士に声をかけられるところから物語は始まります。


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Tell her to make me a cambric shirt
Parsley, sage, rosemary and thyme.
Without no seams nor needle work.
≪Scarborough Fair CANTICLE 歌詞より抜粋≫
----------------
和訳
私のために薄い綿のシャツを作るよう彼女に頼んでください
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
縫い目も針の跡も残さずに


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Tell her to find me an acre of land
Parsley, sage, rosemary and thyme.
Between the salt water and the sea strand.
≪Scarborough Fair CANTICLE 歌詞より抜粋≫
----------------
和訳
私のために土地を1エーカー見つけるよう彼女に頼んでください
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
海と海岸の間に



針を使わずにシャツを縫うなんて無理ですよね。海と海岸の間に1エーカーの土地を見つけるのも無理な相談です。

騎士は、この後も次々と実現不可能な頼み事を旅人に託します。それに対して、質問とは無関係なハーブの名前をひたすら繰り返す旅人。

実は、騎士の正体は人間ではなく異界に住む妖精でした。日本ではかわいいイメージの妖精も、本場イギリスでは人間に悪さをする怖い存在です。

夏になると妖精の力が増し、人間界と妖精界の扉が開きます。そして、妖精たちは人間を異界に引きずり込もうとするのです。


それを知っている旅人は、うっかり問いに答えて異界へ連れ去られないよう、「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」と呟きます。

中世で猛威をふるったペストの予防薬にもなったハーブは、魔除けの呪文としても信じられていたからです。

このストーリーにこだまするように、新たな歌詞『CANTICLE(詠唱)』が重ねられて行きます。

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(On the side of a hill in the deep
forest green.)
≪Scarborough Fair CANTICLE 歌詞より抜粋≫
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和訳
(緑深い森の丘の斜面で)


『CANTICLE』の歌詞は、ポール・サイモンによる反戦歌『The Side of a Hill』がアレンジされたものです。

サイモン&ガーファンクルが活躍した1960年代は、1955年から1975年まで続いたベトナム戦争の真っ只中でした。

特に、『Scarborough Fair CANTICLE』がリリースされた1966年頃から、泥沼化するベトナム戦争に対する学生たちの反戦運動が高まって行きます。


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(Blankets and bed clothes
the child of the mountain.)
(Sleeps unaware of the clarion call.)
≪Scarborough Fair CANTICLE 歌詞より抜粋≫
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和訳
(ベッドで毛布にくるまれた山辺の子供は)
(召集ラッパの音など知らずに眠る)


当時、アメリカの自然豊かな片田舎で暮らす少年たちにとって、遠く離れた東南アジアで繰り広げられている戦争は、現実味のない世界でした。

しかし、長期化するベトナム戦争が、そんな素朴な少年たちの運命を変えて行きます。

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(War bellows blazing in scarlet battalions.)
(Generals order their soldiers to kill)
≪Scarborough Fair CANTICLE 歌詞より抜粋≫
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和訳
(赤く染まった部隊の中で戦火が燃え上がり)
(将軍は兵士たちに殺せと命じる)


数百万人が従軍したベトナム戦争の徴兵ラッパは、成長した山の少年たちを戦場へと連れ去って行きました。

昨日まで静かな山で狩りをしていた若者たちは、爆音が轟く戦場で、否応なしにその銃を人間に向ける事になったのです。


----------------
(And to fight for a cause
they've long ago forgotten.)
≪Scarborough Fair CANTICLE 歌詞より抜粋≫
----------------
和訳
(そして戦う 遠い昔に忘れ去られた理由のために)


「アジアの民主主義を守る」これが、アメリカ合衆国がベトナム戦争に介入した大義名分でした。しかし、戦況が悪化する中で、そんな大義は次第に忘れ去られて行きます。

アメリカ本土では、現地での殺戮行為への批判が高まり、ベトナム戦争は今まで負け知らずだったアメリカ人の心に初めて影を落とします。

自分たちの負けを痛感させる帰還兵たちを、アメリカ社会は歓迎しませんでした。母国からの拒絶、この冷たい現実が、多くの帰還兵たちの心を蝕んで行ったのです。


こうして見ると、『CANTICLE』の中での戦場は、民謡『Scarborough Fair』で描かれた妖精の棲む異界を意味していると言えるでしょう。

人間界より早く時間が流れる異界に連れ去られた人間は、全く違う時代に戻って来ると言われ、それは、母国で思いがけず冷遇された帰還兵たちの姿と重なります。

また、妖精は死者の魂を意味すると言う説もあります。中世の『妖精の騎士』が、人間に悪さをしようと彷徨っている悪霊ならば、『CANTICLE』で彷徨うのは、ベトナムで命を落とし、故郷の愛する人たちに会いたくて、道ゆく人に語りかける悲しい魂。


「Parsley, sage, rosemary and thyme.」これは、中世では魔除けの呪文でしたが、これらのハーブには、「失われた命を取り戻す」「非業の死を遂げた魂を救う」という意味もあります。

『Scarborough Fair CANTICLE』では、この歌詞は中世の魔除けであると同時に、現代の魂の救済のための祈りとして繰り返されていたのではないでしょうか。

この曲は、ヒッピー文化、ドラッグの蔓延、カルト教団による犯罪など、戦争の影響から混迷を極めた1960年代アメリカの、鎮魂歌だったのです。

TEXT 岡倉綾子

Simon & Garfunkel(サイモン&ガーファンクル)は、1957年にニューヨークで結成された60年代を代表するフォークユニット。2人の美しいハーモニーが生み出す、心地よいサウンドで人気を博した。1970年に惜しくも解散したが、その後は再結成を繰り返している。小学校時代からの親友であったポール・···

この特集へのレビュー

男性

燃えつきた棒

2019/11/12 13:00

50年来のサイモン&ガーファンクルのファンなので、この特集には飛びつきました。
特に、岡倉綾子さんの『「Scarborough Fair CANTICLE」の闇を追う』は、歌詞の裏にある歴史的背景や詩が照射している当時の時代背景などを過不足なく掘り出しており、眼から鱗が落ちたような心地だ。この人の歌コラムなら、もっと読んでみたい。

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