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スピッツの4人へ 変わらぬロックンロールを「ありがとさん」

2019年10月9日、通算16枚目となるアルバム「見っけ」をリリースしたスピッツ。1987年の結成から現在まで、彼らの音楽は、何が変わり何が変わらなかったのか。「ありがとさん」の歌詞から考察します。

スピッツとロックンロール

『空も飛べるはず』や『チェリー』で広く知られるスピッツには、「ロックバンド」というイメージが湧かない人も多いのではないでしょうか。

でも実は、結成当初のスピッツはパンクバンドとして活動していました。

インディーズ時代の曲を聴けば、明らかに甲本ヒロトの影響が色濃い草野マサムネの歌声に、誰しもが驚かされる事でしょう。

メジャーデビュー後、独自の音楽性を完成させて行った彼らですが、ライブを体験して見れば、スピッツはやはりロックバンドなんだと実感できます。

繊細そうな草野マサムネがエレキギターをギュィーンと弾く時の力強さ、一見大人しそうなリーダー田村明浩がベースをブンブン振り回す豪快さ。そして“草野んちの親父さんが…”と言った友達感満載のMC。

彼らは紛れもなく、デビュー当時と変わらぬロックンローラーなのです。

「ありがとさん」に見る円熟ロック

『ありがとさん』は、年を重ねた人間にしか表現できない大人のロックナンバーです。この曲で、草野マサムネは「ありがとう」ではなく「ありがとさん」という言葉に、どんな思いを込めたのでしょうか。
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君と過ごした日々は やや短いかもしれないが
≪ありがとさん 歌詞より抜粋≫
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1990年代のオルタナティブロックを思わせるラウドなサウンドと、「君と過ごした日々は」という冒頭の歌詞は、リスナーに別れを描いた悲しい曲を予感させます。

しかし、その後に続く「やや短いかもしれないが」というフレーズが、リスナーの心をフッと軽くしてくれます。

「短かい」と断定すれば、失われた日々への絶望感を抱かせますが、「やや短い」とすれば、これも長い人生の中の一部なのだと、その後の希望が見えて来るからです。

心に鍵をかけるのではなく、いつでも心の扉に少しだけ隙間を開けておいてくれる、それが、草野マサムネの歌詞のいいところなのです。


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お揃いの大きいマグで 薄い紅茶を飲みながら
似たようで違う夢の話 ぶつけ合ったね
≪ありがとさん 歌詞より抜粋≫
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マグカップで紅茶を飲む、という事は、二人が出会った季節は冬。コタツに入って紅茶を飲みながら将来の夢を語り合う二人の姿が浮かんできます。

しかし「似たようで違う夢」という二人の違いを表す歌詞に、既に潜む別れの予感。

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あれもこれも 二人で 見ようって思ってた
こんなに早く サヨナラ まだ寒いけど
≪ありがとさん 歌詞より抜粋≫
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冬が終わって暖かくなったら、二人で色んな事をしようと思っていた矢先に、悪い予感が的中して別れが訪れました。春が来る前に、恋人は去って行ってしまったのです。


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ホロリ涙には含まれていないもの
せめて声にして投げるよ ありがとさん
≪ありがとさん 歌詞より抜粋≫
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去って行く相手に悲しみよりも感謝の気持ちを伝えようとする草野マサムネが、「ありがとう」ではなく「ありがとさん」という言葉を選んだのはなぜでしょうか。

関西では「お月さん」「大仏さん」「ごちそうさん」など、その物事に対する親しみを込めて「〜さん」と呼びます。

別れの場面で「ありがとう」と言うと、お互い深刻になり悲しい気持ちになってしまいますが、関西風に「ありがとさん」と言われたらどうでしょう。

二人の心が和らぎ、笑顔で別れられるはずです。「ありがとさん」には、言う方と言われた方、両方の肩の荷を軽くしてくれる力があるのです。

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いつか常識的な形を失ったら
そん時は化けてでも届けよう ありがとさん
≪ありがとさん 歌詞より抜粋≫
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「いつか常識的な形を失ったら」とは「死」を意味しています。

「常識的な形=生前の肉体」なので、「そん時は化けてでも届けよう」と歌う草野マサムネは、死で全てが終わるとは考えていないという事です。


とはいえ、肉体という外見を失った魂が、お化けになって「ありがとう」と言いにきたら怖いですよね。でも「ありがとさん」と言いに来るところを想像したらちょっと面白い。

「ありがとさん」という言葉には、全てを楽しげにしてしまう破壊力がある事は間違いありません。

それは、大阪の超ベテラン芸人、坂田利夫師匠のギャグ、“あ〜りがとさ〜ん”を知る人には、解って頂ける事でしょう。

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どんなに美しい宝より 貴いと言える
≪ありがとさん 歌詞より抜粋≫
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「ありがとさん」、この一言で、過ぎた日々は美しい思い出に変わり、お互いの道を歩き出した二人。

この歌詞の中で、草野マサムネが「尊い」ではなく「貴い」と書いたのは、神仏を大切にするという意味がある「尊い」に対し、「貴い」は他には変え難い物事に対して使われる言葉だからです。

長い人生の中で、最も大切にすべきものは人との出会いだ、例えそれが短い期間であったとしても、共に過ごした時間は、どんな高価な宝石よりも価値がある、と草野マサムネは歌っています。

スピッツの4人がデビュー当時と変わらずロックを楽しんでいる様子が伺えるサウンドに乗せられた、一期一会の大切さを知った大人にしか書けない歌詞。

そんな心地よい熟練ロックを聴かせてくれるスピッツへ、心から伝えたい。長い間私たちを楽しませてくれて“ありがとさん!”と。


まだまだ続くスピッツのミラクル

デビューから、32年間、メンバーの脱退や活動休止やスキャンダルもなく、常に第一線で活躍し続けるスピッツは、ほとんど奇跡的なバンドです。

彼らのインディーズ時代の曲『353号線のうた』に「ノロマでもいいから 走り続けるさ ゴロゴロと」という歌詞があります。

その歌詞の通りマイペースで走ってきた彼らは、ふと気づけばトップに立っていました。

ごぼう抜きは無理でもペースを落とさずに走り続ける、これがミラクルの要因です。

新作『見っけ』で、また一つミラクルを更新したスピッツ。これからも4人でゴロゴロしながら、走り続けてくれる事でしょう。

TEXT 岡倉綾子

草野マサムネ(Vo/Gt)、三輪テツヤ(Gt)、 田村明浩(B)、﨑山龍男(Dr)の4人組ロックバンド。 1987年結成。1991年3月シングル『ヒバリのこころ』、アルバム『スピッツ』でメジャーデビュー後、1995年リリースの11thシングル『ロビンソン』、6thアルバム『ハチミツ』のヒットを機に、多くのファンを···

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