『FAKE LOVE』に似たMVと歌詞の解釈は?
世界的な人気を誇る韓国の7人組ヒップホップグループ・BTS(防弾少年団/방탄소년단)。
2021年4月2日リリースの日本オリジナル曲『Film Out』は、坂口健太郎主演の映画『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』の主題歌として書き下ろされました。
「失恋ソングの帝王」という異名を持つback numberの清水依与吏が作詞作曲を手がけ、BTSメンバーのJUNG KOOK(ジョングク)が楽曲制作(作曲)に参加した豪華コラボ曲です。
清水のワードセンスが光るリアルな歌詞とBTSの繊細な歌声がマッチして、胸に響く切ないバラードとなっています。
BTSといえば、人生の中で最も美しく輝く時を意味する四字熟語「花様年華」をコンセプトにしたMVのシリーズが代表的です。
『Film Out』のMVが公開された際、2018年リリースの『FAKE LOVE』のMVの構成とかなり似ていることが話題となり、一部のファンの間では新たな「花様年華」シリーズの始まりではないかと注目を集めています。
タイトルに使われている「Film Out」という言葉は、画像やアニメーションをデジタルからアナログのフィルム形式に変換することを意味する用語です。
簡単に言えば映像を画像に置き換えるということですが、聞き慣れない言葉ですね。
MVや歌詞の内容からタイトルに込められた意味を考察していきましょう。
兵役が迫るJIN(ジン)が現実を生きる主人公
MVは、薄暗い部屋の中央にJUNG KOOKが佇んでいるところから始まります。
サビの「浮かび上がる君」という歌詞は、写真がフィルムに現像される時のように心の中に恋人の記憶が浮かぶ様子を表現しているのでしょう。
主人公はおそらく恋人を失い、共に過ごした部屋で悲しみに暮れていると考えられますね。
記憶の中の彼女は触れられそうなほどに鮮明で、彼女を忘れられない彼は彼女の写真を部屋に映し出しているようです。
余計に悲しさや寂しさが募る行為ですが、彼にとってはむしろその「痛み」が彼女の存在を証明してくれています。
JIN(ジン)が暗くなった部屋の奥へと進んでいくと、窓を隔てた向こうでメンバーたちのいる部屋が光で明るく照らされました。
暗い部屋が現在で、明るい部屋がいつかの記憶のワンシーンだと想像できます。
その部屋の中央にいるRM(アールエム)は、主人公が彼女との記憶を辿っていることを表現しているようです。
歌われるラップの歌詞は、「根も葉もない」という植物に関する言葉にかけて「光も水も吸わない」という表現を用いていたり、草を意味する”グラス”とコップの”グラス”をかけていたりと、素敵な言葉遊びがなされていますよね。
彼女への根拠のない誓いで心の傷を無理やり塞ごうとしますが、もう一緒に使われることのないグラスが、彼女が最後に触れた時のまま残っていてまた悲しみが増していきます。
その様子を眺めていたJINは、楽しそうな記憶の中の姿に背を向け、その時には戻れないことを改めて痛感したのでしょう。
砂時計を手にすると記憶の中のJUNGKOOKと目が合い、彼もそこに落ち切った砂時計があることに気づきます。
おそらくこの砂時計は、主人公が彼女を思い出せる時間を意味しているのではないでしょうか。
残された時間はないため、余計に彼女の記憶をできる限り集めようとしていると考えられます。
悲しくも幸せな記憶の中に閉じ込められてしまう
映像は変わって、荒野のような場所でSUGA(シュガ)とJ-HOPE(ジェイホープ)が背中合わせで歌っている場面へ。
主人公は彼女に「笑っててほしかっただけなのに」うまくいかず、何度も泣かせてしまったのでしょう。
彼女を失って初めて主人公の流した涙の量が彼女に追いつき、やっと彼女の気持ちが理解できるようになったことが伝わってきます。
JINは記憶に触れたくて手を伸ばしますが、JUNGKOOKの姿がふっと消えてしまう様子も、主人公の切ない気持ちをはっきりと表現していますね。
窓から突風が吹き込み部屋が荒れていく様子は、独りぼっちになった現実で荒れた主人公の心情を映したものかもしれません。
風が収まった時、記憶の中の部屋に誰もいないのを見て走り出すJIN。
そのバックではJIMIN(ジミン)が、消えてしまう彼女の記憶をどうにか残すために、消えることのない写真に変えて「君を抱きしめて眠る」と歌っています。
どうにかして、自分の中から彼女の存在が消えてしまわないようにしたいという思いが読み取れるようですね。
しかし、開いたドアの先はいくつものドアが浮かぶ空の上。
行き場のない悲しみに取り残されていることを表しているのでしょう。
「君がささやく言葉」「嗅いでしまった香り」「触れた熱」という風に、五感で感じた彼女の記憶がまだ主人公の中には残っています。
「残ってるうちは」と繰り返されているところに、もう消えかけているものに必死でしがみついている様子が表れていますね。
部屋を出て行くことができなかったJINがまた部屋の中へ戻って行くと、記憶の中の部屋にいるV(ヴィ)が映し出されます。一方、JINの姿は消えてしまいました。
主人公は彼女への思いが強いあまりに、記憶の中に迷い込み出られなくなってしまったという悲しい結末で幕を閉じます。
『Film Out』は男性の心の繊細な部分を映したラブバラード
BTSの日本オリジナル曲『Film Out』は、恋人を失った悲しみから記憶の中に身を置いた男性の切ない心情が綴られています。
MVや歌詞の内容を見ていくと、タイトルの「Film Out」が過去という映像を写真のように1つ1つ切り取って記憶していることを表現していると考察できるのではないでしょうか。
いつか忘れてしまうくらいなら、いつまでも愛する人との美しい記憶の中で溺れていたい。
そんな不器用で弱い男性の心を映し出す歌詞とMVをじっくり堪能してくださいね。